本との関係

彼は自分の本との関係性について考えていた。彼は本が好きである。彼自身自分が本好きであることを自負していた。一時期彼は自身の収入のほとんどを本に費やしていた。そのせいで食べるものに事欠くようなことさえあった。そして家には本がどんどんと溜まっていき、彼の部屋の床が抜けるほどだと彼がその時に共同生活をしていた彼の祖母に嫌味を言われたことも一度や二度のことではない。本は溜まる一方だが一向にその本に手をつけることが出来なかった。彼には本を買う時間はあっても、買った本を読みこなす時間が足りていなかった。読むことが出来ず本棚に本が積み上がっていくさまを見るにつけ、男は何のために自分はこれらの本を集めているのかということを疑問に思うこともあった。そして彼は本と自分との関係性について考えるのだった。彼にはある高名な作家の友人がいた。そしてその作家の家に招かれ、晩餐を共にすることがあった。その作家の家にはその作家の息子もいて、彼はいつも本を読んでいた。彼が本を読んでいるのを見て、自分は本当に本が好きだと言えるのか疑問に思った。彼はそういう場でも本を読んでいられる作家の息子のことを羨ましいとさえ思った。そして、なぜ自分はそれが出来ないのかと考えた。そして、それはその息子ほど自分が本を愛していないからではないかとさえ思った。それは絶対値での度合いでもないのではないかとも思ったけれど。息子は一心に本を読み続けていて、それが彼にとっては自身にある疚しさを感じさせたのである。その息子の学習机を見ると、学校の図書室か図書館かで借りた本が沢山並べてあった。


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