面を立体に

服の端切れを縫い合わせることで形を作る。その時は布の端を折り襞を作るという方法しか思いつかなかった。素材の違う2種類の生地を重ねることによってもまた違った雰囲気を作ることが出来た。メインに使おうと思った生地は濃い茶色のもので、生地自体が縦横に編み込まれていて濃い茶色と黒の格子模様になっていた。素材は毛糸のように少し糸が太めのものでモコモコと温かみを感じさせた。布を切ることは禁じられていた。唯一のルールはその一点だった。つまり、切断することを禁じるということがそのアーティストのこだわりであるんだと理解した。そして、そのこだわりこそ、彼女のオリジナリティであるようにも思えた。アーティストは無限の手法から、自分が表現したいものを生み出すために特定の手法を選択するようになる。ある手法に面白みを感じ、アーティストを捉えると、アーティストはその手法にこだわり継続的にその手法を用いた作品製作に没頭する。アーティストと異なる思考を持つ人間としてそのワークに入っていくのだけれど、そのワークを通して、その手法にこだわり、その手法の面白味を感じるところまで追求することが出来ると、短い時間の中でもそのアーティストの思考に近づいていくことができる。針を動かし、布に糸を通していく。その動きの中で集中力が高まる。布に糸を通すことは布のある一点と別のある一点を結ぶということだった。それは同時に布の面が立体的に立ち上がっていくということである。平面を立体に変化させていくことが出来る。平面の点と点を糸という線によって結び合わせていくことによりある立体が立ち上がっていく。その面を構成する模様、テクスチャー、質感というものももう一つ、そのアーティストがこだわって選んだものだった。そこに用意された布の数々は色とりどりに美しいものだった。そして、花柄のものがあったり裏が透けた薄手のものがあったり、様々な種類のものが取り混ぜて用意されていた。四角い布で曲線を作るために布をたたみ、重ね、襞を作る。その襞の形を固着させるために糸を通し結んでいく。意図的に作った布の襞と、その襞を作ったことにより、その襞の周りにはさらに細かい襞が形作られていった。そしてその細い襞の方は意図的に作ったものではなかったが、偶然できたその襞が、人間の血管と毛細血管のイメージにとても似ているように思えた。それと同時に飛行機の上から見た山脈をも思い起こさせた。人間の身体にも地球の表面にも同じように脈が流れているのだということを感慨深く思い、脈というものが、もとはある平面から作られているのだと考えるとなんだかおかしかった。山ももともとは地面と地面がぶつかり盛り上がって出来たということか。どこかで聞いたような話を思いながら、それならば人間の体の中の血管はどのように出来たのだろうか?ということを考えていた。そういうことを考えながら、きっと、このアーティストは人体というものにとても興味があるのではないか?とふと考えた。それが正しいかどうかはわからなかったが、このワークを通してわたしは確かにそういうことを感じ取ったのである。

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