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没個性

冷え切った浴室はツンと鼻を刺すような匂いで充満している。少女は冷たいウレタンを一泡吹かせ、濁った浴槽を擦る。



スポンジになりたい
というか全人類がスポンジならいいのに

スポンジは素晴らしい よく吸水するところ 形を変えられるところ 触り心地のよいところ それら全てが愛おしい 私はスポンジを尊敬している 敬愛している スポンジのようになりたい 何でも吸収し それを発揮する インプットとアウトプット 私の理想である

もし全人類がスポンジになったら どんなに素晴らしいことだろう もちろん見た目までスポンジになりたい 自分で自由に形作れるように そしてスポンジは



浴室にはオルタナティヴ・ロックが流れている。少女の頭の中には脈絡のないことが泡のように湧き上がってきて、浮かんでは消えていった。
少女は足裏をザラザラとした浴槽の底につけた。そして足元を擦る。隅々まで、洗い残しのないように。



没個性という言葉が好きだ

私の理念である 永遠に 誰かの知人Cでいたい

空のアイコンを気に入っている 空なんて 見上げれば地球上のどこにいてもいつでも見ることができるから 朝焼け空も 昼空も 夕焼け空も 夜空も 晴れ空も 曇り空も 雨空も 所詮は私たちの頭上に広がっているただの空間 空は 私の象徴

言語化が苦手だ いつも 物事を考えながら生きる ということを放棄しているから ただ周りに流されて 権力に屈しながら生きているから
でも時々こうやって 虚無になったときに考えて 考えて よくわからなくなる

心のどこかで他人と違うものになりたいとも思っている気がする 没個性だから それ故に 髪型とか 好きなものとか ありふれたものを嫌って

あれもこれも 私を構成する全てのものは まるっきり全部 虚構なのかもしれない
実は ずっとずっと嘘をつき続けていて 本心なんて誰にも見せたことがないのかもしれない



シャワーヘッドを手に取った。そして浴槽を、泡を、私を、およそ40℃の水に流した。

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