『東京貧困女子。』

そもそも風俗業界など、問題の多い世界である。そんな色眼鏡を一度でも掛けてしまえば、色の変化に気づけなくなる。カラダを売り物にする女性たちにも、それぞれの色があり、色合いは時代とともに変化した。

長年、AV女優や風俗嬢を取材し続けてきた中村淳彦は、彼女たちの背景にある貧困の影が次第に大きくなってくることに着目し、テーマの真ん中に据えた。それが、本書にいま読むべき理由を与えている。

貧困→売春→精神疾患という負のサイクルが何度も繰り返され、個人の力だけでそこから抜け出すのは難しい。未来や将来など想像することもできない刹那の日常が、諦念の文体で描かれている。その語り口そのものに、問題の深刻さが潜んでいると言えるだろう。

かつて個人に宿った絶望は社会全体に広がり、その中でも目一杯自分らしく生きようとする個人の姿のみに希望が垣間見える。平成という時代を経て、希望と絶望は主体が入れ替わったのだ。


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