「みんなで部屋で飲もうよ」について、不同意わいせつ罪を検討する

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弁護士としては法律の解説について、正確に記載する必要があると思うのですが、かといって、刑法に書かれている言葉をそのまま写して書くのでは分かりづらい文章にしかならないと思いますため、できる限り分かりやすく書いていきたいと思います。


1 本記事が対象にする話題

私は、note以外にX(旧Twitter)でも発信をしておりますが、先日ツイートした下記投稿に、ある程度の注目が集まりました。
このツイートについて、深掘りをして解説していきたいと思います。

本noteでは、解説をする内容は、以下の話題に絞りたいと思います。

複数名の男性グループが、複数名の女性グループ(18歳以上)に対し、「みんなで部屋で飲もうよ」と言って自分達が泊まっているホテルの部屋に来るように誘い、女性グループがそれに応じたことをもって、女性陣は男性陣からキスをされること等の性的行為に同意したものといえるかどうか。
それとも、性的行為に同意していないということは、かえって犯罪になってしまう場合があるのか。

先に結論を書いておきますと、結論としては、すでにTwitter上でも書いたとおり、上記の状況においていきなりキスをする等した場合には、不同意わいせつ罪(刑法176条1項)が成立するといってよいでしょう。
男性1人と女性1人であればまだしも、複数名で「みんなで部屋で飲もうよ」と誘った程度で、性的行為まで同意していると解するのは無理があると思います。

2 不同意わいせつ罪について

不同意わいせつ罪は、刑法176条に定められています。
(以前は、不同意わいせつ罪は「強制わいせつ罪」と呼ばれていましたが、2023年に法律が改正されて、不同意わいせつ罪になりました。)

刑法176条1項は、「性的行為に関する同意をすることが困難になってしまう事情」として、8つの状況を列挙しています。

それによると、不同意わいせつ罪は、
(1)それらの8つの状況のどれか、または複数に該当する状況であるうえで、
(2)被害者側が、わいせつ行為に対して不同意であるという意思表示などが困難な状態にさせられているとか、その状態に乗じられているという態様で、
(3)わいせつ行為が行われた場合に、
不同意わいせつ罪となる
ことになります。

法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑です。
(※ 刑法176条の文言(言葉)を正確に確認したい方は、本記事の最後に実際の文言を掲載しているので、ご確認ください。)

もちろん、性行為や性的行為をすることについて同意がある場合には、不同意わいせつ罪にはならないため、明らかに同意があるという状況ではないことがお話の前提になります。

以上の話を聞くと、なんだかややこしいかも……と感じられるかもしれません。
ただ、それは、やはり人を犯罪者扱いすることになる以上、ある程度、難しいことは仕方がないところがあると思います。
これでも、2023年の法律が改正される前(つまり、「強制わいせつ罪」の時代)と比較しますと、
現在の刑法では、
性的行為に関する同意をすることが困難になってしまう事情」を列挙しているので、
どのような場合に不同意わいせつ罪になってしまう可能性が出てくるかということが想像しやすい、分かりやすいという考え方もできます。
(2023年の法改正もそのような趣旨で行われているとのことですので、今後は、このような考えが主流になっていくのでしょう。)

3 男女複数名で「飲もうよ」と言ってホテルの1室に入ることは性的行為の同意といえるのか

それでは、改めて、以下の点について検討します。

複数名の男性グループが、複数名の女性グループ(18歳以上)に対し、「みんなで部屋で飲もうよ」と言って自分達が泊まっているホテルの部屋に来るように誘い、女性グループがそれに応じたことをもって、女性陣は男性陣からキスをされること等の性的行為に同意したものといえるかどうか

まず、ホテルの1室ということで、その部屋にはベッドが設置されているということになります。ですが、ベッドという設備は必ずしも性的行為を予定するものではありません。どちらかといえば、単に寝たり、休んだりするために使用するのが本来の用途だともいえそうです。
また、ホテルの1室には、通常は、テレビや、テーブル、ソファなどの設備もあるものです。

ホテルの1室のなかで、食事を取ったり、お酒を飲んだりすることも、珍しいことではないでしょう。

「みんなで飲もう」と言ったからといって、何時までその部屋にいるかどうかは決まっていないでしょう。誘われた側は、その部屋で寝るわけではないのですから、いつでも退室して自分の部屋に帰ることができるはずです。

ホテルの部屋ということで、関係がない人は立ち入りすることができない部屋に入る、言いようによっては密室に入るということになるわけですが、密室といっても、上記のように「みんなで飲もう」という話をして、数名がいる状態です。

男性グループと女性グループが、元々は見知らぬ関係だったとしても、あるいは元々知った仲であるとしても、複数名の男女が「みんなで飲もう」という話をして部屋に入ったという場合は、確実にいえることは、お酒を含む飲み食いをして、楽しく過ごそうという合意をしたというところまででしょう。

1室のなかで複数名が性的行為をするとか、あるいはそのなかの一部の人間が性的行為をするということは、むしろ常識的には考えがたいところです。
複数名であればかえって安全なはずである、という想像をしたとしても、その発想に落ち度があるようには思えません。

不同意わいせつ罪は、文字通り、「同意、不同意」が問題になる犯罪ですので、性行為、性的行為をすることについて同意があるならば、そもそも問題にはならないわけですが、
以上のようなことを考えていっても、
ホテルの1室に男女複数名で入ったとしても、それによって性的行為、わいせつ行為をする(される)ということについて同意したことにはならないと思います。

4 不同意わいせつ罪の成立・不成立に関する解説

(1)8つの状況

そこで、改めて、刑法176条1項にそって「不同意わいせつ罪」の成立・不成立について考えていくのですが、
ここでは、前述した「8つの状況」のなかでも、以下の2つが問題になってくるでしょう。

アルコールもしくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること(刑法176条1項3号)
同意しない意思を形成し、表明し、又は全うするいとまがないこと(刑法176条1項5号)

「みんなで部屋で飲もうよ」という話をしている以上、相当程度にお酒を飲む(アルコールを摂取する)ということになると思いますが、飲酒している状況は、刑法176条1項3号にストレートに規定されています。

そして、いきなりキスをしようとすることは、「同意しない意思を形成するいとまがない、同意しない意思を表明するいとまがない」という状況ですから、これにも該当してくることになるでしょう。

また、「8つの状況」のなかには、当然ながら、「暴行・脅迫」(刑法176条1項1号)があった場合も定められていますから、アルコール以前の問題として、その場で性的行為をすることを拒絶しているにもかかわらず、性的行為をしようとすれば「暴行」と認められる場合がありますし、具体的な状況次第ではありますが、「予想と異なる事態に直面して恐怖させ、もしくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること」(刑法176条1項6号)が問題になる場面もあるかもしれません。

(2)被害者側が、わいせつ行為に対して不同意であるという意思表示などが困難な状態にさせられているとか、その状態に乗じられているという態様

次に、被害者側が、わいせつ行為に対して不同意であるという意思表示などが困難な状態になっているかどうか、という点についてですが、
前述したアルコール摂取を問題にした場合については、どのようなお酒をどの程度飲んだか、どの程度の時間のうちに飲んだか、被害者側はアルコールを摂取して(お酒を飲んで)どのような状態になっていたかなどを元にして考えることになるでしょう。

少量のお酒を飲んだだけであれば、このような不同意の意思表示などが困難な状態とはいえないでしょうけれども(ただし、いわゆる下戸の場合は判断が変わると思われますが)、基本的には、アルコールを摂取した状態では、性的行為の同意・不同意に関する意思形成・意思表示などは困難になっていくという、当たり前のことを改めて理解する必要があると思います

いきなりキスをするなどというのは問題外であって、それに対して、不同意の意思を形成するとか意思表明することはできないということは、論を俟(ま)たないでしょう。当たり前だと思います。

(3)キスはわいせつ行為かどうか

相手方の同意なくキスをすることは、刑法176条が定めるわいせつ行為です。もし、そうだと思っていなかった方は、ここで覚えておきましょう。

5 もう1回、結論

以上のとおり、いささか長文になってしまいましたが、
複数名の男性グループが、複数名の女性グループ(18歳以上)に対し、「みんなで部屋で飲もうよ」と言って自分達が泊まっているホテルの部屋に来るように誘い、女性グループがそれに応じた、そうしたところ、飲み食い(飲酒を含む)の最中に男性陣がとつぜん女性にキスをすることは、不同意わいせつ罪になってしまうと見られますので、
そのようなことは当然するべきではないというお話になる訳です。

最後に、冒頭のツイートの続きも掲載しておきます。

刑法176条は、正確には、以下のとおり定めています。(太字処理は、私がしています。)

(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

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