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ハムストリング損傷の解剖生理学(大多数が筋原線維が腱と重なる近位の筋腱接合部{Musculotendon Junction:MTJ}に沿って発生する)

ハムストリング損傷(肉離れ)

大多数のハムストリング損傷は、筋原線維が腱と重なる近位の筋腱接合部(Musculotendon Junction:MTJ)に沿って発生します。

ほとんどの急性挫傷と同様にハムストリング挫傷は筋と腱の断裂より、実際に損傷するのはMTJに隣接する筋組織になります。

損傷直後に急性炎症反応が発生し、その後、筋とコラーゲンの再生が行われますが、このような損傷は線維性瘢痕の形成をもたらす可能性もあります。

ハムストリング挫傷の長期的影響

画像研究により、ハムストリング損傷後6週間の早さで瘢痕組織が形成されるエビデンスが見出されており、このような変化はMTJの硬度を増加させ、ひいては、隣接する筋腱組織によって行われる伸張の相対量を変化させる可能性があります。

ハムストリング損傷による長期的影響は、場合によっては損傷後少なくとも23ヶ月残ることが示唆されており、この研究において14名の被験者が、自覚症状やパフォーマンスの低下なしに完全な競技活動に復帰しましたが、14名中11人において過去の損傷と思われる部位に隣接するMTJに沿って、残留瘢痕組織の存在が認められました。

PROSKEらの研究

Proskeらの研究によると、ハムストリング損傷後は能動的力発揮のための至適筋長が減少することを指摘しており、このような変化が生じると、ピークトルクが非損傷脚よりも大きな膝関節屈曲角で発生するようになります(すなわち、能動的張力のための至適筋長が短くなる)。

これらは、再発リスクの増大と張力発揮のための至適筋長の短縮との間に相関関係を主張し、ランニングの遊脚後期に生じるハムストリングの伸張性筋活動による障害発生率が高まります。

そして、損傷後にみられる筋の瘢痕組織への置換がその原因であると推測されています。

瘢痕組織が局所的な収縮力学を変化させる

この可能性を調査するために、損傷歴を有するアスリートを対象として、損傷部位に隣接する筋組織の速度をCineMRIを利用し測定されました。

測定は、弾性および慣性の2つの負荷条件においてサイクルニーフレクション-エクステンション中に実施されました。

弾性負荷と慣性負荷はそれぞれ、能動的な短縮性筋収縮と伸張性筋収縮を引き起こし、課題中に観察された筋組織速度を統合して変位を推測し、それをもとに組織の筋長が計算されました。

その結果、健常な被験者も損傷歴のある被験者も、近位MTJの近くで筋の緊張増加を示し、また、損傷歴のある被験者は健常な被験者と比べて有意な筋組織の緊張増大を示しました。

したがって、損傷部位における残留瘢痕組織が、再発リスクを増加させうるような、局所組織の力学に負の影響を及ぼす可能性があると考えられます。

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