見出し画像

【全曲紹介】Dave - Psychodrama - #11 Drama

1週間かけてゆっくりと書いてきましたが、ついに最後の一曲。デイブのセラピストも言っていましたが、終わってしまうとちょっとさびしいですね。最後の1曲のタイトルは「Drama」。皆様お気づきだと思いますが、このアルバムの1曲目が「Psycho」でこのラストソングが「Drama」、二つをくっつけると「Psychodrama」になります。うーん、タイトルまでコンセプトがしっかりしていて流石です。

このDramaですが、かなりエモーショナルな曲になっています。この曲にもイントロがついていて、語りから始まるのですが既にセラピストとのセッションは終わっていますね。では、いったい誰なんだい?となるのですが、実はこの声の主、デイブの実兄「Christopher Omoregie」なのです。Christopherは殺人事件に関与したとして、2010年から刑務所で過ごしていると(壮絶…)。実は彼も刑務所でセラピーを受けている。まさしく、このアルバムを通じてデイブが行ってきたように…。そんなChristopherの肉声がデイブへのメッセージとしてイントロとアウトロにかなり長尺で入っています。

このイントロからもわかる通り、ラストソング「Drama」のテーマはデイブから兄へのメッセージなのです。デイブは兄への深い愛情をラップしていきます。同時に幼少期に家を去った父親のことや、子どものころから家を守る男として立ち振る舞わなければいけなかったデイブの気持ちがつづられていきます。Twitterでもデイブ本人が一番気に入っている曲、と言っていました。それだけ兄に対する思いが強いのでしょう。

[Intro: Christopher Omoregie]

イントロは獄中の兄の録音ボイスから。

Like man was saying, bruv/Many nights man prayed, bruv/Somewhere someone's gonna help me through this, man/Someone is gonna help bring me out of this shit, y'know?/Time, it took a while for man to recognise, boy, who you were gonna send/And you know what? Mans, I'm very proud/I'm very happy to see it's one of my own init, y'know?/And boy, I know none of this is easy, y'know?/I'm just proud to be, to be witnessing what's going on, man, y'know?
誰かが言ってたみたいにさ、いくつもの夜を祈ってきたんだ。この問題を抜けるために、どこかでだれかが俺を助けてくれるんだ、なぁ。この状況から俺を連れ出すのを誰かが助けてくれるんだ、わかるだろ?ちゃんと認識するには、ちゃんと時間が経っちまった、でもわかるだろう?俺は本当に誇らしく思ってるんだぜ。俺は自分自身のもの(そうだろ?)が見れて、すごい幸せなんだ。わかるだろ?なぁ、簡単なことなんて一つもないんだよ。俺はただ、今起こってることを目撃していることがとにかく誇らしいんだ

そしてデイブのバースに入っていきます。

[Verse: Dave]

I don't know where to start/But I just done my first psychodrama/And I hope the world hears my craft/I'm excited man, I pray you get to hear my craft/From our childhood, our mother didn't hear me laugh/I'm presenting you the future, I don't fear my past
どこから初めていいかわからないけど。でも俺は初めての”Psychodrama”を終えたんだ。世界が俺のつくった作品に耳を傾けてくれることを望むよ。
俺は興奮してるんだ。俺は兄貴がこの作品を聴けることを祈ってる。子どものころから、母さんは俺の笑い声を聞いたことがないんだ。俺は兄貴に未来をプレゼントしたいんだ、俺は過去をもう恐れないよ。

デイブは兄に対して、Psychodramaを作り終えた(セラピーを終えた)ことを報告します。ここでの注目は最後のラインです。”Present”には「現在」という意味があるので、「過去(Past)」を超えて、「未来(Future)」をプレゼント(Present/現在)するというライン。

続きます。

I ain't got a tattoo anywhere near my arms/But best believe on my sleeves is where I wear my heart
俺の腕にはどこにもタトゥーは入っていないけど、でも俺の腕(スリーブ)には俺の心があるってことを信じてくれよ(俺は本音を包み隠さず言うよ、信じてくれ。)。

ここもクレバーなライン。デイブは腕にタトゥーは入っていないそうです。腕全体にびっちり入ってるタトゥーのことを英語で「Tatoo Sleeve」というそうです。直訳するとタトゥーの袖。そして、その後の”sleeves is where I wear my heart”は慣用句。直訳すると「袖口とは自分の心を着る場所」となりますが、意味は「自分の感情をさらけだして表し、周囲にわからせること。本当の気持ちを隠さないこと。」です。「tatoo sleeve」はないけど、そこには俺の本音が宿っている、というスリーブつなぎのライン。

デイブは過去について語っていきます。

Reason with a criminal that needs to eat a dinner/Is it survival of the fittest or is he a killer?/Losing dad was big, losing you was even bigger/Never had a father and I needed you to be the figure/We're forgetting that we had a brother that was even bigger
夕飯を食べるため(生きていくため)に犯罪を犯す。理由を伴った犯罪。それは適者生存なのか?それともそいつはただの殺人者か。大きな父親を失って、もっと大きな存在だった兄貴も失ったよ。父親がいなかったから、兄貴にその役割を求めちまったんだ。俺たちにはもう一人、一番上の兄貴がいることも忘れてたな。
My brothers never spoke to each other when I was growing up/I remember tryna to build a bridge, I wasn't old enough(中略)I had to hold it up for mummy on my own/I know it's tough, I got the coldest blood
俺がガキの頃、2人の兄貴はお互いに喋ろうとしなかった。俺は二人の懸け橋になろうとしてたことをおぼえてる。でも俺はまだガキだったんだ。俺はお母さんの為に自分自身で頑張り続けなきゃいけなかった。タフな時期だったよ。だから俺は冷徹になったんだ。
I just hope you're proud of me brother, it's been a long stretch/You're my hero and prior to this/I was living on the edge like a house on a cliff/But now I'm living in the present like my house was a gift
俺の兄貴のことを誇りに思ってくれることを願ってるよ。本当に長い時間だった。兄貴は俺にとってのヒーロー。そもそもね、俺は崖っぷちに生きてたんだ、まるで崖の上にある家みたいに。でも俺は今現在(Present)を生きてる。俺の家は贈り物だったみたいだ。

ここもPresentを現在/プレゼントの二つの意味で使っていて、Giftと掛けています。

もう一つ、上手なライン。

Rappers wanna diss me, it's only online though/They put the mic and soft in the micro/Soft? Not I, bro
ラッパーたちは俺をディスりたがってる。ただ、オンライン上(SNSとか)での話だけどな。あいつらはマイクをもつと一気にソフト(よわっちく)になる。マイクロソフトみたいにな。俺は違うぜ。

SNSでは威勢がよくても、マイクを持った途端にトーンダウンする輩が多いと他のラッパーを批判します。オンライン(ネットの話)→マイク →マイクロソフト社 と繋いでいき、最後に「俺は違うぜ(Not I)」と繋ぎます。
この「i」はアップル社を表現している、と(iphone,ipod,itunes, ipadとか。「i」はアップルの象徴)。マイクロソフトよりアップルの方が業績がいいので、他のラッパーをマイクロソフトに例えて、自分はアップルだと言っているわけです。

もう一個。ここも興味深いラインです。

Anybody rich my age is American, kicking ball or inherited
俺の年齢のアメリカ人は金持ち。サッカー選手みたいに金を稼いで、親から金を相続してる。

アメリカ人はイギリス人に比べて裕福で、極貧生活を過ごさなくても金を手に入れているとラップします。事実として、アメリカ人の平均年収とイギリス人の平均年収を比べると圧倒的にアメリカ人が高いみたいですね(物価との兼ね合いもありどちらが裕福かは一概には言えませんが…ただイギリスが今危機に瀕していることは事実です。欧州自体もダメなので…)これはアメリカのラッパーに対しても言っている。確かにイギリスのラッパーはyoutubeの再生回数を観ても少なく、あまり世界的に売れている人がいません。

巧みなワードプレイが続きます。

I didn't get 99 marks in English, I was faking it/I got 98 ‘cause I don't know what a vacation is
実は俺は英語で99点を取ってないんだよ。嘘をついてたんだ。俺は実は98点だったんだ。"Vacation"って単語を知らなかったからさ。

ここはアルバムを聴いてきた人ならニヤリとする箇所。Screwface Capitalでデイブは英語(国語)のテストで99点を取ったとライムしていますが、ここで実は98点だったことを告白します。もう1問、間違えてたと。でそれは何かというと”Vacation”という単語。Vacation(バケーション、休暇)はアメリカ英語でイギリス人のデイブにはわからなかったと(イギリス英語ではholidaysが一般的。僕も欧州系の会社で働いていますがvacationはあまり聞きませんね。)そして、生きるのに精いっぱいで「休暇(vacation)なんて知らなかったという意味がかかってます。

さらに、アルバムの曲について、兄に報告していきます。

Do you believe that I can illustrate what Streatham is, then break the fourth wall and base Lesley on my relatives?
俺が”Streatham”を曲で描き切ったことが信じられるかい?そして、Lesleyでは親戚を題材にして、フィクションの世界を描き切ったことを信じられるかよ?

Break the fourth wallは演劇用語みたいです。観客に対して語りかけるように話を進める演劇や小説のスタイルのこと。そうしたストーリテリング的な曲をLesleyでやりきったこと、Streatham では地元の世界観を描き切ったことを興奮交じりに兄に報告しています。

そして、これがこの作品の最後のラインになります。デイブは過去を超えて未来に向かいます。

I tell my circle, the future's ours, we're shaping it/The past is just the reason I had came to this/I thank God for the pain because it made me this
俺は仲間たちに伝えた。未来は俺たちのモノだって。俺たちは今未来を創ってる。過去ってやつはここに来るための理由にすぎなかったんだ。俺はこの痛みを与えてくれた神に感謝するよ。だって、俺にこれをやり遂げさせてくれたんだから。


如何でしたでしょうか。これで、Psychodrama全11曲が完結しました。不思議なもので、アルバムを通して聴いていくと1曲1曲が全く別の曲に聴こえる瞬間があるんですよね。

1曲目のPsychoの前にも書きましたが、今の時代は曲単位で聴かれることが多いと思います。深い意味やワードプレイの技術より、わかりやすさとキャッチーさ、話題性が求められる。僕はそれを否定しないし、寧ろそういうものも大好きです。ただ、このアルバムのように本当に伝えたいメッセージがあって、それを最高のワードプレイとオーセンティックなトラックで彩っていく。1曲1曲に繋がりがあって、アルバムとして1つの作品になっている。こういう作品はやっぱりヒップホップにとって必要なんだと思います。10年20年と聴き続けられる音楽。

自分は、2019年にそうした素晴らしい音楽に出会えたことが本当に嬉しいです。それと同時に、アメリカのトレンドを追っている若いリスナーにも、ぜひこうした作品にも耳を傾けてほしい。そう思って、この紹介を書いてみました。少しでも作品を理解する為の助けになって、このアルバムに触れるきっかけになれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?