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【書評】そしてドイツは理想を見失った(角川新書)川口マーン恵美著

おすすめ度:★★★☆☆
読んでほしい層:20台半ば~30代
*自分が31歳なので、Maxで30台としています。

戦後ドイツ史について。主に政策を中心に過去から現在までを紐解いていく。戦後ドイツ人がなぜ理想を追い求め、そしてそれを辞してしまったか。メルケル政権に特にフォーカスしながら解き明かしていくと言った内容。

「虐殺の歴史というのは、無視するものといつでも相場が決まっている。ただ、それを告白した国がただ一つある。ドイツだ」

これが本書の根幹となっている。ドイツは過去を過ちと認めたが故に、その過去を『切り離す』必要があったと。更に著者は続ける。こうした過去を切り離し、精算し、理想とする未来に向かうことを掲げた政策、国作りこそが戦後ドイツ、そしてドイツ国民の根底にあったと。

そこでドイツに残されたのは、ナチズムという過去を絶対悪として、それを現在から切り離すという作業だった。
自分の過去に自信をもつことを禁じられた人々であるともいえるだろう。だからこそ、「自信をもちたい」という欲求は、あらゆるエネルギーとともに、「理想」の追求となって未来へと向かうのである。

個人的には筆者の主張自体は共感できる部分もありつつも、やや強引な持っていき方のように感じた。理想を掲げて、メルケル政権後半、特に移民政策を起点にしてでれを失ったというのは些か強引ではないか。そこまで大胆な主張を展開するにであればもう少し統計などのエビデンスが必要だったように感じる。

皮肉にも聴こえるかもしれないが、本書の価値はそうした著者の主張というよりは非常にわかりやすくまとめられたドイツの戦後政策に関する説明部分だろう。脱原発の背景とエネルギー政策、ユーロ通過の特異性とそれを最大限に活用し発展したドイツ、各政党のイデオロギーや対立軸と関係性や権力の推移など非常に包括的でここの関連もわかり易い。

特にドイツ戦後史を語る上で避けて通れない指導者、メルケル氏に関する説明は簡潔明瞭。彼女がどうやって権力を手に入れ、それを永きに渡って維持していたか、そして失ったかが非常に鮮やかに描かれている奇しくもメルケルは先日党首のポジションを辞任に追い込まれたが、本書を読めば辞任への流れが必然であったことには納得できるだろう。

奇しくも今朝未明には日本でも入管法が可決した。ドイツでのメルケルの凋落を決定づけた移民政策。日本でも大きな議題となっているこの問題について、ドイツから学ぶものは多いはず。年齢を問わず多くの人に手に取ってもらいたい一冊。

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