Doremingの目指すキャッシュレス社会と社会貢献事業

橘川幸夫さんのDMMサロン主催で、DoremingというFintechの先端企業の話を聞く機会があったのだけど、清々しいほどに「真面目」な高崎さん(*)の目指す理想がキラキラしていたので、少しでも絆ジャパン、そして Doremingの目指す世界を知るきっかけになれば、と講演の概要をまとめてみます。(2017年7月注:また、一部、講演内容とは別に、私が独自に調べて、加筆修正しました)

*Doreming の元となる人事・給与システム「Daim:大夢」を手がける絆ジャパンの社長。Doremingは別の方がCEOを務めている。

世界のFintech関連企業の頭脳が集まるLEVEL39

Doremingは、日本企業で唯一イギリスにあるFintech関連の世界的インキュベーションオフィス、LEVEL39(レベルサーティナイン)に入居を認められている。おそらく、Fintech に興味のある方以外、日本ではほとんど知られていないが、知る人ぞ知る「Fintech 虎の穴」であり、日本の金融庁からも「ほんとに入居するんですか!?」と問い合わせがあったそうな。厳しい審査を通過した180社と、それをサポートする50人ほどのメンターが机を構えているそうだ。

世界的な金融会社へのコネクションなどもしっかりしていて、メンターと話をして、その場で、大手金融会社のアポを取ってプレゼン、なんてのも日常茶飯事なのだとか。大手銀行からも人が来ていて、そうしたコネクション作りもさることながら、「これは化けそうだ」というベンチャーがあると「自分も参画したい」と銀行から飛び出してベンチャーに入ったりするので、人材の流動性も激しいとのこと。

Brexit問題の引き金になったEUにおける難民・移民への社会保障問題

昨今、EUでは、シリア難民や、その他地域からの「EU域内の移動の自由」に伴う移民問題に頭を悩ませていて、昨年のイギリスのEU離脱の大きな要因にもなっている。イギリスでは移民にもかなりの社会保障を提供していて、公共サービスの負担と受益のバランスに頭を悩ませていたそうだ。

Paymingによって、難民・移民問題を解決?なんぞ?

そうした状況の一方で、身元が確かでない人々が苦労するのが、日々の生活費の工面。日本では信じられないことだが、イギリスではこうした移民・難民などクレジットカードはおろか、銀行口座の開設もできない人々に対して、金利1000%というウシジマくんもビックリな金利で給与の前借りをさせるサービスがあるらしい。アメリカでもヒスパニック系の低賃金で働く人にCMでお金を貸すサービスなどを宣伝してりるが、300%ぐらいの金利らしい。

そこで、高崎さんが考えたのが、自分が日本で20年かけて開発してきたDaim(ダイム、元々は大夢と書く)の勤怠・人事給与システムを使った週払いシステム。Daimでは驚くことに、my給という仕組みで、働いている人が、すでに働いた分を退勤したらほぼリアルタイムで自分の給与口座に振り込むことが可能で、すごいのは、その時点で所得税などの各種税金と社会保険料まで自動計算して徴収される仕組み。

自分も、会計システムのシステム開発などに関わっていたり、年金や税金に興味があっていろいろと計算している方なのだけど、日割りで計算して、それを日給と月給ベースで異なる税率で再計算したり、さらに年末調整したり、なんてのを考えたらどんだけ異次元の計算をしているのか想像つかなくてエンジニアの人の苦悩が目に浮かんでしまったw

これを使うと、イギリスでも、月給ではなく、週給で給与支払いができるようになって、「給料日まで金がないから強盗しよう」といった犯罪の抑止につながるというのが1つ目のメリット。冗談のように聞こえるかもしれないが、ヨーロッパではこれが現実なのだ。

それだけでなく、政府として見逃せないのが、「給与支払いの時点で、税金や社会保険料を即徴収できてしまう仕組み」。日本にいるとピンとこないかもしれないけど、源泉徴収なんていう国に都合のいい仕組みが当たり前のように整備されてる国は世界的には珍しい。Paymingをアメリカの有名メディア「TechCrunch」のイベントで発表した途端に、冗談抜きで世界各国から問い合わせが殺到し、ベラルーシに呼ばれた時には「ロシアは税金や社会保険の未払いが大きな問題になっているから、プーチンにこれを売り込みに行こう」と言われたとか。スケールがでかすぎるw

モバイル決済が世界を席巻しているが...

ところで、世界の電子決済市場では、2012年761兆円の決済の70%がVISAデビットだったが、2016年には1726兆円にまで増加している。アフリカでは、ケニアに端を発した「mペサ」によってsmsを使った送金サービスが普及しているが、南アフリカでは、現地の通信キャリアがイギリスからの投資でキャリア決済を開始して、「mペサ」が撤退に追い込またり競争が激化している。

インドでは2016年11月に政府が高額紙幣を廃止したことから電子決済の大波が起こり、「Paytm」というモバイル決済サービスがアクティブユーザー8000万人で年間で10億回、取引されているそうだ。圧倒的なスマホの普及率に伴って、現金決済でも、カード決済でもなく、通信会社主導のキャリア決済が世界を席巻しつつあるのだ。

参考:PayTmはインドのアリババになるか?不屈の起業家が変えるインドの決済市場

また、中国では「アリペイ(支付宝)」や「WeChatPay(微信支付)」といったスマホアプリを使ったモバイル決済が急速に普及し、シリコンバレーより進化スピードが速いといわれている香港と隣接した経済特区「深セン」では、日常生活において、現金を使うシーンがほぼないとまで言われている。

参考:深センでは自販機もカラオケボックスもIoT化している

残念ながら、日本では、現金信仰がとても強いことと、SuicaやPASMOといったプリペイド式の交通系ICカードが広く普及しているため、スマホ決済のイノベーションがほとんど起きていない(LINE PAYが少しだけ使われてる程度かな)。そして、各種法令の規制により、給与を直接電子マネーとして振り込むといったことができない状況なのだ。

こうした状況の中、Payming では、海外市場を中心に、上述のような電子マネーを取り扱っている事業者やカード会社と提携して、上述のように銀行口座を持たない層の労働者に対して、電子マネー口座(デビットカード口座)に、日払いで給与を振り込む仕組みを構築しようとしているのだ。タイムカードを押して退勤したら、「今日の給与**ドルがあなたの電子マネー口座に入金されました」と通知が来る世界。もし実現したら、すぐに海外に飛び出してしまいそうである。

広く薄く利益を生む驚きの仕組み

Paymingの驚きはまだまだある。なんと、Paymingはこの仕組みのエンドユーザー(給与を受け取る人)からは利用手数料を取らない。さらに、こうした移民・難民を採用する企業は「社会貢献に意欲ある企業」だからそこからもお金を取らない。ではどうやって儲けるのかというと・・・(ここからのアイデアが本当にすごい。ということで、ぜひ投げ銭をお願いします!)

そう、この仕組みを使って、エンドユーザーがお店から物やサービスを購入した時に、その売上からクレジットカード会社のように数%の手数料を取る仕組みなのだ。

繰り返しになるが、このサービスの大きな特徴は、給与を受け取る労働者が銀行口座を持つ必要がないこと。自分が稼いだ給料が週ごとに積まれていって、電子マネー口座、あるいはデビットカード的なものに「稼いだ額」を上限に決済が可能となって、給与支払い日に相殺される。決済可能額はPaymingが管理するので、わざわざ銀行口座で残高を管理する必要がない。

これも日本にいるとピンとこないメリットだけど、実は世界中で銀行口座を持っているのは成人30億人のうち、10億人ほどで、残りの20億人は銀行口座を持てないらしい。そうした人に前払いシステムを無償で提供することによって、移民・難民の人の勤労に対するモチベーションを上げる効果が期待されている。要するに「ちゃんと働けば、その日から買い物ができて食べることができる」ということなので、採用する場合も「うちはPayming使ってるから便利やで」とアピールになる。さらに、Doremingにとっては、20億人の平均年収を仮に20万円ぐらいとかなり低く想定しても、2%の決済時手数料を取るだけで8兆円の収益が見込める計算になる。すげぇ!

さらに、Paymingは、人事データも持てる。ということは、その人の勤怠実績を過去にさかのぼって参照できる(もちろん本人の同意があれば、だと思う)ので、今までどんな仕事をどのようにやってきたか、もわかるし、さらにはこのデータをAPIで検索可能にすることで、「**語がしゃべれる従業員がいるレストラン」といったサービスも提供可能になる(このあたりは今後実装するかも?ぐらいのニュアンスで、実装はまだまだ先のようだ)

途上国の購買ビッグデータの衝撃

まだまだ衝撃は止まらない。「これは現代の技術で掘り当てた第二の石油資源だ」と高崎さんはよく言うそうだが、先進国の消費が横ばいになってきている今、企業が目を向けてるのは、インドやアフリカの市場。そうした国々での決済データを握れば、その属性データはまさに「宝の山」となる。購買情報を基にした、個人に信用度なども計算できるようになるかもしれない。

ここまで書いてきたように、政府が頭を悩ます「徴税」の問題にも一役買いながら、さらにお金の入り口である「給与」や、その人の信用情報ともつながる「勤怠」もカバーして、銀行口座もクレジットカードもなく、給与と電子決済手段を結び付けようとしている Payming が、次世代サービスとして、海外で高い評価を受けているのは当然、という感じだが、橘川幸夫さんが日本のメディアに紹介しても、FACTA 以外はまったく相手にされなかったそうだ。。。

起業したいならDoremingの門を叩け

見ている世界が高すぎて霞んで見えてしまうDoremingだけど、まだまだ発展する可能性が隠されていて、勤怠システムは「時間を管理する」システムなので、他のサービスにも転用できる可能性を持っている。日本でもシェアリングのサービスが流行りつつあるが、個人間のレンタルの際に、時間管理を細かく設定して、思い立ったらすぐに貸せて、その場で利用手数料を引いて口座に振り込まれる、みたいなサービスも実現できる、と言っていた。ただ、Paymingのローンチで手一杯(世界中から引き合いがあるのだw)なので、アイデアがあっても、手を動かす人がいない、とのこと。

なので、「こんなアイデアあるんで作らせてください」という意欲がある人はどんどん高崎さんにプレゼンしてみるといいと思う。高崎さんの会社には、世界中から「俺を雇ってくれ」と数ヶ月にわたって猛アピールしてくる人材がいるが、「日本人は受け身でおとなしい人が多くて・・・」と苦笑していた。

Doreming社採用ページ(現在は社会貢献事業を行う別会社を立ち上げたい社長候補のみ募集中)

私もかなり昔から温めている「在宅で仕事をしている人のリビングだけをシェアオフィスとしてレンタルしながら交流できる『こたつシェア』」のアイデアを高崎さんにプレゼンしてみようかな。あ、誰か先に作ってくれる人がいたら、モニターしますので教えてくださいw

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