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【書評】大学教員の冷汗と狂喜の日々に憧れて:前編(先生の日常)~漫画『あくびカレッジ』~

1. はじめに~大学教員とは「スリリングな」職業なのか?~ 

初めまして、私は自称「博士ブロガー」の仲見満月(なかみ・みづき)と申します。メインブログ『仲見満月の研究室』では、主に文系の院生、院卒者、研究者に向けて、情報を発信する活動をしております。分室に当たるここ「note.mu」のほうでは、メインブログが主に文系の方々を読者対象ということで、今回は理系の研究志望者の方に向けたレビューを書くことに致しました。 

さて、現役の理系の学部生や院生の皆さん。皆さんは普段、講義や実習で指導を受けている先生、つまり大学教員に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

(画像:本書のキャラクターを仲見が描いたもの)


大学の先生方への厳しい見方は、私が院生時代に実際に言われたイメージに近いものが、ツイートとしてまとめられたページがありました。そのまとめページは、togetterまとめの「大学教員は、趣味を仕事にし、上司もおらず、スーツ着る必要もなく、通勤ラッシュと無縁で、裕福な暮らしをしている存在」です。このまとめの中のツイートを読むと、世間一般の人たちは「大学の先生って、リッチで、自由気ままに好きなことで仕事ができて、羨ましい」という偏ったイメージを持っていることが窺えます(あくまで一部の方だと思いますが)。

ここでは「自由気ままに好きなことで仕事ができること」について、少し、掘り下げてみましょう。「研究の未来をデザインする」理系の学生向けwebメディア『Lab-On』の「なぜあなたの研究室のボスはいつも忙しいのか〜研究従事者の研究従事割合の統計を紐解く〜」(21018.3.8_1600、リンク切れ確認済み)によれば、研究室のボス=大学教員が忙しそうなのは、「理由として「研究活動」が忙しいからではなく、「学内事務」に忙殺されている可能性が高いこと」が示されています。つまり、実際には日本の大学の先生方は、学内事務に忙殺され、好きな研究に関する活動が「自由気ままに」行える時間がとれていないと解釈できるでしょう。

学内事務と研究活動、教育指導など、特に実験や観察の実習のある理系分野の先生は日々、せわしなく走り回っています。その大学教員になれる確率について、文科省の調査では、博士研究員(ポストドクター)からの昇進は1割程度という厳しい結果が出ました*1。

以上のデータから見た大学教員の姿は、なるにも茨の道、なってからも茨の道を行く険しい職業です。その道を通り、大学教員になった大学院時代の私の先輩方は、たまの飲み会や歓送迎会で再会すると、どなたも「事務仕事や広報業務で冷汗をかくこともあるけれど、それでも、短い研究時間やゼミでの指導で新しい発見があると狂喜しちゃうんだ」とおっしゃる方がいました。 

大学教員とは、かくもドMな人向きの職業なのでしょうか。そこで、今回は世にも珍しい大学教員のコミックエッセイ『あくびカレッジ』(原作:こづかあきとも、漫画:高田ゆうき、リブレ出版、2015年)のレビューを通じて、大学教員の実態を紹介すること致しました。大学の先生は、なるまでも、なってからも「冷汗と狂喜に満ちた日々」の職業なのか。スリリングな日々を超えた先にあるモノとは、読者の皆さんに何をもたらすのか。本書を紹介しながら、考えてみたいと思います。 

*1:大学ジャーナルオンライン編集部「ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ」、最終更新:2017年8月14日(http://univ-journal.jp/15339/?show_more=1)参照。


2.主要登場人物の紹介

大学の先生方の毎日を漫画形式に仕立てたのが、本書『あくびカレッジ』です。ストーリーがわかりやすいよう、主要な登場キャラクターの紹介イラストとプロフィールを作成しました。軽い感じで、頭の隅に入れておいてください。

こづか先生の補足事項として、独身であり、シュナウザー系の犬を2頭、飼っています。

4人の先生方の研究分野を比べると、どれも大学では生物、土木、物理といった、理系の学部や大学院の部局に教育課程があるものです。先生方の研究分野が理系に集中していることから、本書のタイトルに「カレッジ」の言葉を入れ、物語の舞台が理系の単科大学であることを想起させているのかもしれません。

さて、研究テーマ、趣味や習慣が異なる個性的なこの先生方は、同じ大学という職場で、どのような日々を送っているんでしょうか。ちょっと、その毎日を観察してみましょう。


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