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自主財源の確保が科学研究には重要~「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付…「研究所の教職員は9割が非正規雇用」…」【投げ銭note】(キャリコネニュース)

1.再び研究資金のこと~iPS細胞の山中さんの場合~

何かを研究しようとしたとき、特に科学研究については、リソース。もっと言えば、資金の確保が必要だということ。その実践例として、ノーベル賞の受賞者たちが設立した財団のお話を14日の更新記事で、致しました:

14日の記事では、大隅さんの設立した財団「大隅良典記念基金」は、寄付の形について、

 ・企業には年100万円の会費で会員登録を求める
 ・市民の寄付は1千円から(非会員の状態で可能)

といった方法を資金調達のための寄付方法として、とっていることはお伝えしました。特に、大隅さんが目指しているのは、「企業と大学の研究者の交流を促す仕組みづくりにも取り組」み、

 ・長期的な視点で、企業と大学の双方に利点のある関係を築くこと
 ・「(科学技術予算の)限られたパイを奪い合うのではなく、パイを大きくすることを真剣に考える必要がある」

といったことを新聞の取材で述べています。大隅さんらしい、大学の職業研究者でありながら、企業と新しい形のパートナーシップを築くことで、日本の科学研究、特に基礎的な分野の研究をサポートする目的で、財団を運営していこうという気持ちが見えてきます。

それに対して、研究所の所長であり、現場で非正規のスタッフを抱えながら、研究資金を募るための手段を模索していた、iPS細胞の研究で知られる別のノーベル賞受賞者の山中教授が、「iPS細胞研究基金」を設立していたニュースをキャッチしました:

「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(2017年9月15日、キャリコネニュース)

山中さんの研究所の担当者曰く、企業との共同研究によって資金を得ることは、「製薬会社や研究所にとってメリットが十分大きくないことが判明したり、当初の研究目的が達成されたりした場合には、共同研究が終了することになり」、長期的な資金獲得による研究は困難であることを指摘していました。スタッフの多くが非正規であることと合わせて、研究プロジェクトには独自の資金調達の手段を持っていたほうがよい、といったことを担当の方は仰っていました。

このことは、同じ科学研究の助成制度であっても、大隅さんが応募者の基礎研究をサポートしていくこととは異なり、ご自身が率いるiPS細胞の研究プロジェクトのスタッフの長として、どうにか研究資金を得て、優秀な非常勤のスタッフが作業できるような環境を整えてやる。そして、成果を上げて、バックにあるスタッフの生活が支えられるようにしたい、という切迫した思いが、インタビューを受けたスタッフの方に隠れていることが窺えます。

そこで、本記事ではキャリコネニュースの「iPS細胞研究基金」のオンライン記事を読むことで、山中さんが背負っている事情を見ていきたいと思います。


2.「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース)から見える科学研究の現場

 2-1.iPS細胞研究所職員の9割が不安定な有期・非正規雇用の事実

さっこく、このオンラインニュースを読んでいきましょう。途中、適当なところで切りながら、コメントをしていこうと思います。

山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼  
2017.9.15|キャリコネ編集部 

ノーベル賞を受賞した研究者ですら、潤沢な研究資金に恵まれているわけではないようだ。京都大学のiPS細胞研究所は、「iPS細胞研究基金」という名称で、研究資金の寄付を募っている。9月14日からネットで話題になり、「こういう所にお金回して欲しい」といった声が相次いでいる。
(「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース))

ノーベル賞を受賞した前後から、山中さんはマスコミに研究現場を取材させ、部下の助教職にあるスタッフを名前付きで出演させていたことは、テレビのニュースを見ていた私も、きちんと覚えています。研究室にいて、iPS細胞の仕事に真摯に取り組んでいる研究職員のほとんどが有期雇用であり、安定した収入のもと生活が送れず、切羽詰まったような精神状態のスタッフもおられるのだろう、と当時、院生だった私は肌感覚で記憶しました。

ニュースの続きを読んでいきましょう。

「こんなレベルの人たちの仕事が非正規なんて日本の滅亡ほんと近い」

同研究所は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、京都大学の山中伸弥教授が所長を勤めている。研究所の財源の多くは「期限付きの財源」であるため、2009年から「iPS細胞基金」を開始し、「長期的に活用できる資金」の確保に努めているという。 

同基金の「ご支援のお願い」というページには、山中教授の「皆様へのメッセージ」が掲載されている。最先端の研究を担う同研究所でも資金に余裕があるわけではないようだ。

”「iPS細胞実用化までの長い道のりを走る弊所の教職員は、9割以上が非正規雇用です。これは、研究所の財源のほとんどが期限付きであることによるものです。(中略)皆様のご支援は、長期雇用の財源や、若手研究者の育成、知財の確保・維持の費用などに大切に使わせて頂きます」”
「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース)

そう、「iPS細胞研究基金」は、「そのスタッフ個人でなければ、できない技術」をもって研究に従事する有期・非正規雇用で、現場にいて仕事をしている職員の方々が、明日を食つなぐためのお金になっているんです。これは、何もiPS細胞の研究に限らなくて、他の医薬関係の研究を支える研究プロジェクトにおいても、似たような状況だそうです。

「研究所の財源のほとんどが期限付きであること」というのは、ここ「分室」の別記事「【書評】大学教員の冷汗と狂喜の日々に憧れて:前編(先生の日常)~漫画『あくびカレッジ』~」で、大学教員の先生方が書くのを面倒がる書類に含まれ、国から支給される通称「科学研究費」があります。

親しい助教先生が申請して通った研究テーマは、5年くらいで期限が切れるものだったそうです。そういう研究プロジェクトが「科学研究費」に通り、新たに設立された研究室があって、そこに必要な研究スタッフを後から求人を出して、研究資金の期限までの任期付きポスドクとして雇用する。実は、このような形で若年世代の博士号取得者の雇用が決まってしまうことは、可能性として十分、あり得ます。

さて、次は山中さんの「ご支援のお願い」に対する反応を確認してみましょうか。

ノーベル賞受賞者が率いる研究所ですら、職員のほとんどが非正規雇用であるという現実に衝撃を受けた人が多かったようだ。はてなブックマークのコメント欄には、「おかしいだろ」といった書き込みが多数寄せられていた。

”「ノーベル賞も取った研究所の9割がなぜ非正規雇用なんだ」「日本のトップクラスの研究所が『9割が非正規なんですorz』みたいな態度で寄付をお願いする、ってのは、嘆くしかない」”

そして「こんなレベルの人たちの仕事が非正規でかつ寄付を募らなきゃいけないなんて日本の滅亡ほんと近い」と日本の将来を憂う人も多かった。
「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース)

一般の方々は、「ノーベル賞受賞者が率いる研究所ですら、職員のほとんどが非正規雇用であるという現実」、本当にご存知ないということが分かりました。文理総合系の大学院の部局で院生時代を過ごした私の周囲には、ノーベル賞じゃなくても、その分野でノーベル賞に匹敵しそうな賞を受けた先生が主宰者のの研究室でも、そこのポスドクや助手などの研究職員がみんな、非正規雇用だった。そんなことは、ごく自然なことであると受け止めはしていました。一方で「こんなレベルの人たちの仕事が非正規でかつ寄付を募らなきゃいけないなんて日本の滅亡ほんと近い」という、暗い感情はもうその頃から現在まで、持ち続けています。


 2-2.企業の資金提供の限界

ニュースに戻りましょう。

また「製薬会社は投資しないの?」と民間投資に期待する声もある。

基金担当者が湘南国際マラソンに参加し、知名度向上を目指す

同研究所の担当者は、キャリコネニュースの取材に対して、寄付募集の背景を語った。

”「研究所の運営は、競争的資金に頼っているのが現状です。これは配分を受けられたとしても、数年などの期限がついています。そのため、有期雇用の職員が多くなってしまいます」”

製薬会社が研究開発へ投資する一環として研究所が企業との共同研究を行うことは多くある。しかし、継続するかどうかは企業の意向にも大きく左右される。

”「製薬会社や研究所にとってメリットが十分大きくないことが判明したり、当初の研究目的が達成された場合には、共同研究が終了することになります。研究所の安定的な運営にはやはり、期限のしばりなく使える自主財源が必要なのです」”

(「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース))

つまり、製薬会社と大学等の研究機関が共同研究を行っているケースはあるが、会社側にとって「メリットが十分大きくないことが判明したり」、得られる成果が得られたという意味で「当初の研究目的が達成された場合には、共同研究が終了することになり」ます。そこで研究所の職員たちの給与の供給源である研究プロジェクトが終わってしまうことが十分あり得て、研究所のスタッフは失業をして、路頭に迷う可能性さえ出てくるということです。

だから、研究所のスタッフがこの仕事で生きていくためにも、研究の発展のためにも、「研究所の安定的な運営にはやはり、期限のしばりなく使える自主財源が必要」だと言えます。そのために、「iPS細胞研究基金」は設けられたのでしょう。


 2-3.自主財源の確保は日本の科学研究全体にとっても重要

更に、iPS細胞研究所の担当者の方は、日本の研究財源の事情についても、こうお話しされました。

自主財源の確保が重要であるという点は、同研究所だけでなく、日本の科学研究全体にも言えるという。 

”「日本では、米国に比べると公的研究費の総額自体が大きくありません。その中では、iPS細胞の研究は非常に恵まれてきた分野です。そのiPS細胞の研究でも自主財源確保のために一生懸命努力していますので、基礎研究を主とする研究所や地方大学ではもっと研究費や自主財源が不足していると思います」”
「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース)

自主財源の確保と言えば、先日の「科学研究の支援財団設立と維持の難しさ【結論まで無料】~「ノーベル賞受賞の大隅さん、財団設立」(日経新聞)ほか~」の最後、「4.おまけ」でリンクした、クラウドファンディングで大学院の授業料を含む納入金の獲得を目指す「お嬢様な院生芸人」や、自販機の特定商品を買うとその購入金額の数パーセントが大学の寄付金に組み入れられると学生や教職員に公表して行っている京大など、先例はいくつかあります。気になる方は、課金を検討の上、「4.おまけ」をお読みになるか、熟慮なさって下さい。

また、重要なキャリコネニュースの指摘として、「日本では、米国に比べると公的研究費の総額自体が大きくありません」ということが、あります。どうして、日本の公的研究費の総額自体が小さいのか。そういった日本政府の目指している学術研究や教育の方向性については、次の拙記事をご参照ください:

現在のドイツの科学研究政策から~西川伸一「ドイツ科学の卓越性の秘密:Nature 最新号の記事を読んで」(Yahoo!ニュース-個人)~ - 仲見満月の研究室



4.まとめ~自主財源の確保が日本の科学研究には重要~

キャリコネニュースのiPS細胞研究基金のニュースを読んで、今まで研究財源の確保をこれからの日本で行っていくには、もう自主財源で何とかしていくしかないと感じました。そして、自分たちで「お金、下さい!支援してください!」と積極的にアピールするしか、ないのではないかと確信し始めております。

実際、iPS細胞研究所のほうでもアピール、つまり広報として、新たな方法をとろうとしている模様です。

2016年度には約23億7千万円を集めた同基金。これまでの積み立ては約70億6千万円になるという。さらなる知名度向上のため、基金担当職員は、12月3日に神奈川県で開催される湘南国際マラソンに出走する予定だ。
(「山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼」(キャリコネニュース))

スマ―トホンで、湘南国際マラソンに出走する予定を話題に寄付金を募るファンディングサイトのページを見ると、次のような様子でした。ちなみに、ゼッケンを見ると、マラソン出場のための旅費や道具は、研究所か出走するマーケッター職員の方の自前なんでしょうか。

(画像:https://japangiving.jp/fundraisings/33480、スマホ版も同じ)

もとのキャリコネニュースのキャプチャ画像と比べると、
 ●5万500円→5万3000円
寄付金の額が3000円ほど、一日で増えていました。地道な広報活動ですが、「塵も積もれば山となる」の精神で、資金集めに文字通り、奔走されているんだなと、私は悪い気はしませんでした。むしろ、「こういう資金調達の広報の方法があるのか!」と気がつかせられた新鮮さのほうが気持ちとして大きかったです。

そういうわけで、まとめとして、国際マラソン出場でなくてもいいでしょうが、何かしら、これからの日本では大学や大学院の付属研究所だろうと、自治体の公立研究所だろうと、自主財源を集めて管理する団体と、本業の研究開発を阻害しない程度に、資金を集めるための広報活動が重要性を増してくると考えられます。例えば、軽音サークル出身の方だと、研究資金について、路上ライブを駅前で行い、その投げ銭を充てる。出来れば、自分が勤めている研究機関の寄付金集めのアピールに結び付ける方法になるでしょうか。

方法は様々でしょうが、全国の研究所の資金調達部門の皆さま、ご一考の価値はあると私は思います。どうぞ、ご参考までに!

おしまい。


*本記事は、投げ銭制を採用させて頂いております。もし、お読みいただいて得るものがあったとか、少しでも暇つぶしになったとか、ありましたら、寄付をして頂けたら、執筆者の励みとなります。

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