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【note出張編】「発達障害者とは?」を考える起点として #借金玉『 #発達障害 の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を読む

1.はじめに

営業マンであり、はてなブロガーの借金玉さんが、発達障害者の生存に向けて書いた『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(以下、本書または『すごい仕事述』と呼称)。2018年12月第3週、私が執筆管理人をする「研究室ブログ」のほうで、2回にわたって、次のような書評企画をやっていました↓

企画の第1弾で研究者向けの「ライフハック編」は、本書について、「研究業界に推定・少なからずいる「発達障害っぽい」人たちが、就職・転職により業界の外部の人たちと「新たな社会生活」をしていくにはどうしたらよいのか?」を考えたレビューです。第2弾の「文化論編」では、主に職場で良好な人間関係を築くための技術や訓練、それから新人歓迎会を含む飲み会、薬やお酒との付き合い方と文化的側面といった著者の指摘に対し、お隣の中国に関する習慣を紹介した書籍や、ファン・へネップ『通過儀礼』を使って、文化論の視点で『すごい仕事術』を読み解きました。文化論編には一応の結論があって、発達障害者は「内なる『異邦人』」であるということです。

本記事は、企画シリーズ第3弾で出張編に当たります。今回は、本書を起点として「そもそも、発達障害って何だろう?」、「発達障害者って、どんなことで困っている人たちなのかな?」といった根本的なことについて、外部のWebメディア記事を参照しつつ、紹介させて頂きます。

(*サムネイル画像:うさぎの表情 1の2イラスト - No: 582148/無料イラストなら「イラストAC」 )

2.『すごい仕事術』における発達障害やそれを抱える人たちのこと

 2-1.本書では主にADHDとASDを包括するのが「発達障害」

本書における発達障害を抱える人たちについて、私はライフハック編で次のように説明しました。

本記事では、『すごい仕事術』冒頭の「発達障害について」の説明に、先の「社会性」の定義に加えると、「社会生活を他者と送るための(能)力について、「発達の凹凸が大き」くて、大なり小なりの困りごとを抱えている者」と、まとめさせて頂きます。重要なのは発達障害者と一口にいっても、「一人一人症状や困りごとが」違い、「得意なこと、苦手なことがそれぞれ全く違う」ということです(注1)。しかも、人間のCPUに当たる脳(とその発達)について、発達障害者はそうじゃなに人に比べると凹凸があるせいか、困りごとが起こるらしい、と。
研究者向けライフハック書として #借金玉#発達障害 の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を読む('18.12.21、21時台に文化論編のリンク追加) - 仲見満月の研究室 )

上記前半の説明は、注1に入れた借金玉さんによる長々しい説明を私なりにコンパクトにしたものです。注1は本書冒頭のp.6~8にまたがる長さ!

それだけ丁寧で、著者(以下、”僕”)によって詳しく書かれたものですので、ここにも転載いたします。

とりあえず、この本ではADHDとASDという障害を念頭に書かれています(中略)。
 一応、ADHDは注意欠如・多動症。ざっくりした説明をしますと、「不注意」「多動性」「衝動性」という問題があるとされております。
 例えば、僕は「行列に並ぶ」とか落ち着いて考える」ということが大変苦手です。ケアレスミスは、「どうしてそんなところを間違えられるの?」と驚かれるくらい得意です。映画を1本じっと見続けるのは不可能に近く、未だに克服できていません。(中略)なくし物は名人戦に出られるくらいの腕前と自負しております。
 また衝動性も強く、「言うべきではないことを衝動的に言ってしまう」「やるべきではないことを脈絡なくやってしまう」は、かなり強いです。スケジューリングや整理整頓などは破滅的で、人生は常に追い立てられるような有様でした。
 そういうわけで、文句なしのADHDと診断され、薬を処方されています。「注意欠如・多動症」の名前どおりの問題は確かに僕には全てあります。
 今度はASDという概念についてです。こちらも専門的に説明するとこの本1冊で足りないくらいの量になりますが、「自閉症スペクトラム症」と訳されています。自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などを包括する概念なので、かなり広いカテゴリーです。
 概して、社会的な、つまりは人との関わりが難しい障害とされています。いわゆる「空気が読めない」に象徴される問題ですね。コミュニケーションに難があります。
 また、感覚敏感や逆に鈍麻、あるいは独特のこだわりを持つ行動をする人が多いとされています。好き嫌いが極端、自分のルールやルーティンにこだわり変更ができない。他者の気持ちを察すること、すなわち共感性が低いなどの特徴もあるとされています。
 僕の診断はADHDですが、周囲の発達障害諸氏に言わせると「おまえはADHDも強いがASDはもっと強い」と言われます。(中略)
 お医者さんに言わせると「大体みんな混ざっている」とのことです。(中略)発達障害者の大半は、ADHD的症状とASD的症状が混在しています。(中略)
 
 ASDは言葉が苦手、表現が苦手と言いますが、僕は言語表現が得意ですし、実際文章の特異なASD、喋りの得意なASDというのも結構います。(中略)
 発達障害の厄介な点は、「一人一人症状や困りごとが違う」ということです。得意なこと、苦手なことがそれぞれ全く違うのです。「発達」の「障害」、すなわち「発達の凹凸が大きい人」なのだと思います。
(本書p.6~8)

本書の発達障害とは、次のADHDとASDを指します。引用部分をもとに無理やり、まとめると、

 ・ADHDは「「不注意」「多動性」「衝動性」という問題があるとされる」もので、著者は行列に並ぶのが苦手だったり、「言うべきではないことを衝動的に言ってしまう」「やるべきではないことを脈絡なくやってしまう」は、かなり強く」、著者の場合、「スケジューリングや整理整頓などは破滅的」

 ・ASDは「自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などを包括する概念なので、かなり広いカテゴリー」の言葉で、「社会的な、つまりは人との関わりが難しい障害とされています。いわゆる「空気が読めない」に象徴される問題ですね。コミュニケーションに難が」あるとか、「また、感覚敏感や逆に鈍麻、あるいは独特のこだわりを持つ行動をする人が多いとされてい」る

となります。発達障害を持つ人たちは「お医者さんに言わせると「大体みんな混ざっている」とのことで」、しかも「厄介な点は、「一人一人症状や困りごとが違う」ということです。得意なこと、苦手なことがそれぞれ全く違う」ところ。

ある日のTwitteタイムラインでは、発達障害者のイメージマークを作ろうとしたら、個人個人で「症状の混ざり具合」や困りごとも異なるため、1つの統一したマークを作り出すのは難しい!と仰っている方々がおられました。ひとつ提案するなら、借金玉さんの仰る「すなわち「発達の凹凸が大きい人」」のところを取り出して、「発達」と書いた凸凹のキューブをイメージマークにする、ということでしょうか。

ちなみに、学校教育の現場では、ディスレクシア(識字障害)などを含む学習障害(LD)を包括する概念として、発達障害の語を使うことがあるそうです。教員採用試験の勉強をしていた時、参考書や問題集の解説で私が知ったことです。が、ひとまず、借金玉さんの『すごい仕事術』の発達障害とはADHDとASD(あるいはその混合型)をまとめるものを指すと覚えてください。

なお、「発達障害でないことを指す語として使われるものに「定型発達」、発達障害者と対になる概念として「定型発達者」なる語があります」。本書に関連して「定型発達」のことを調べたところ、九州看護福祉大学の水間宗幸さんが2006年に発表した論考に、以下のような説明がありました。

注1)「定型発達」という用語は、近年の発達臨床心理、特別支援教育領域などにおいて使用されているものである。「発達障害」と対概念として、「非発達障害=健常児・者」の意味で用いられる。
([研究ノート]「 成人期に発達障害を告知されたケースのライフステージからの検討  語りと手記から社会性の獲得を考える」、『九州看護福祉大学紀要』第 8号1巻,p. 83-92, 2006.3、九州看護福祉大学学術機関リポジトリよりPDFファイル閲覧可)

 2-2.発達障害は人間社会の変化によって作り出されたもの?

さて、発達障害の特性には、生活リズムに影響を与える特性があるのか、借金玉さん曰く、どうも不定型の生活リズムの人がいます。そのことについて本書では「第3章 朝起きられず、夜寝られないあなたへ【生活習慣】」の「「発達障害式「生活習慣」の原則 「普通に捕獲されてはいけない」」において、

ADHDは狩猟採取民の生活様式を受け継いでいる、みたいな話があります。この説の信憑性は疑わしいですが、それでも獲物を求めて追跡して何日も動き続けるハンターの睡眠は、必然的に不定型なものだったと思うのです。人類の中にはそういう生活を思考してきた者も、一定数いるのではないでしょうか。(本書のp.157~158)

と指摘がされています。研究者向けのライフハック編では、

この「俗説」は、実際に研究されていることが分かりました。(中略)借金玉さんのいう「規則正しい生活リズムを持つ人」は、定住して「時間をかけて作物を育てる」タイプの人のようです。それに対し、発達障害者には狩猟採集に向いていることが示唆されて
「研究者向けライフハック書として #借金玉#発達障害 の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を読む」の第3章の「発達障害式「生活習慣」の原則 「普通に捕獲されてはいけない」」('18.12.21、21時台に文化論編のリンク追加) - 仲見満月の研究室 )

います。

その研究とは、次のWebメディア『カラパイア』の記事で詳しく紹介さrています。ご覧ください↓

(「世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)」カラパイア、2015.1.25付)

カラパイアの記事によると、発達障害のうち、

突飛で落ち着きがないが、瞬発的機動力で、好奇心の赴くままに行動する「新奇探索傾向」があるADHDだが、農耕が開始された新石器時代以前の狩猟採集社会では、むしろ有利な特性であった可能性が指摘されている(「世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)」カラパイア、2015.1.25付

そうです。こうした人たちは、「米ニューヨークのワイル・コーネル医科大学の精神薬理学部長を務めるリチャード・フリードマン教授によると」、

退屈や決められたやり方を嫌い、新しいことや興味を引かれる方向に向かおうとするADHDの人は、あくまでも管理された定住型の現代社会にうまく適応できないだけで、狩猟や遊牧を行う原始的な社会では成功者だったのでは?」という仮説を立て、
「世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)」カラパイア、2015.1.25付

「2008年に発表されたケニヤのアリアール族を対象に行った研究」を仮説を裏付ける論考として挙げました。この論考の中身はカラパイアの記事をご覧いただくとして、その結果は、

集中力は続かないが新しい刺激に対して行動的なADHDの人は、狩りには向いているが、時間をかけて作物を育てることには向いていないということ
「世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)」カラパイア、2015.1.25付

だそうです。

行動的なADHDの人たちは、「定時に会社に行って、決められたことをやる」みたいな、「管理された定住型の現代社会にうまく適応できない」とカラパイアでは指摘されていました。本書では、ADHDとASDはそれぞれの「症状」が「混在して」おり、また特性の出方は、一人一人、差が大きいことは、先ほど確認しました。つまり、現代社会で発達障害者が合う職を見つけるには、個人個人の特性の出方を見極めなければならなさそうです。

狩猟が生活の柱の1つであった原始的の時代から、定住型の管理された現代社会に近づくにつれて、人類のライフスタイルは大きく変化していきました。ライフスタイルが変化すれば、人の働き方やそれに付随する習慣や「掟」といった文化も、狩猟採集社会と現代社会とでは大きく異なるでしょう。その変化によって、ハンティングに向いた特性を引き継いでいる現代の人間たち=発達障害者にとって、現代社会が生きづらいものであっても、不思議ではありません

つまり、狩猟に向いた特性を持つ人には、今の定住型の現代社会によって「発達障害者」として、社会的にカテゴライズされ、作られた「存在」であると解釈できます。なお、この指摘はTwitterかどこかで、指摘されていたように思います。

この社会的に作り出された「発達障害者」は、私のなかで、文化論編「内なる『異邦人』」に繋がってくる考えでもあります。発達障害者は、特性によって「社会的文脈」=「社会的バナナの皮」が見えないことで、それを見ることができる人たちが回避する物事に「突っ込んで」しまい(=社会的バナナの皮を踏んでしまい)、結果、ドツボにはまるように失敗してしまうことがある、と。ときに、発達障害者の人たちの「処世術」として、

「内なる異邦人」たる当事者が、ドツボたる「社会的バナナの皮」を踏まないようにするには、「我は『内なる異邦人』」たる自意識のもと、発達障害者でない人たちがつくる各「部族の掟」等の文化を観察し、知ること。時に、著者のような案内人を絵て、教えを求めて学ぶこと。そして、できそうな範囲で順応を試してみること。
(「文化論の視点で #借金玉#発達障害 の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を読む」 - 仲見満月の研究室)

について、時にクレバーになってもよいと私は思いました。

ここらへん、実際に「異邦人」として、海外の研究員になったバッタ博士が、アフリカのモーリタニアに行き、現地の研究所の上長や研究員たちとうまくやるケースが、『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎、光文社新書)に出てきます。気になる方は、次のレビュー記事をご覧ください。

3.最後に

だいたい、借金玉さんが『すごい仕事術』で想定する発達障害者、およびそこから私が考えた発達障害者は、以上のとおりです。

ところで、発達障害者でない人≒「定型発達」の人たちについて、著者はどんな捉え方をしているのか。それが窺えるのが、本書終盤のp.259あたりに、「強い日差しと水があれば、痩せた土でもガンガン育っていく」存在として、「どくだみの皆さん」という表現です。高確率で、発達障害者じゃない人たちを指していると思われます。対する著者たち発達障害者は、デリケートでスローな成長をする形容してか、「サボテン」だそう。

どくだみとサボテン。どくだみの構成する社会に、生きるサボテン。繁茂する速さは、逞しいどくだみにかないません。ゆっくりだけど、サボテンはそれぞれのペースで生きて、いつか花を咲かせよう!というところで、本書は締められていました。

『すごい仕事術』について、だいたい、語り尽くせたので、ここで終わりに致します。色んな読み方ができる本ですので、手に取ってみてください。

おしまい。

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