第2章 アテンション その1 「一瞬で興味を持ってもらう」

もしクルマのキーがDMで送られてきたら?!

今回の章は「アテンション」、つまり、注意を引くということをお話ししたいと思います。
 新聞・雑誌広告ではビジュアルとキャッチフレーズによってアテンションを引きます。まさにキャッチフレーズというように、見る人の視線をキャッチして、最も言いたいボディコピー(長い文章)に誘導するわけです。

 DMの場合はどう考えたらいいでしょうか? もう、お分かりだと思います。そう、封筒こそがこのキャッチに当たるものなのです。つまり、封筒は中を開いてもらうためにある最も重要なものといっても過言ではありません。
 ここでは、私がDM大賞の金賞を受賞した例をご紹介したいと思います。クライアントはBMWで、新しいBMW5シリーズの発表イベントへ集客するためのDMです。そのDMは縦15cmの小箱サイズで、窓からBMWのキーが覗いているという仕立てでした。これを受け取った方は、「なぜ、BMWのカギが送られてきたんだ!」と驚くに違いありません。
 小箱には、「この鍵を、ショールームにお持ちください。かつてない試乗体験をご用意しました」とキャッチフレーズが入っていて、その下には大きな文字で「ニューBMW5シリーズ デビュー」と続くのです。
 実は、このクルマのキーを使ったDMをBMWでは随分前から行っていました。クルマのキーが試乗するためのチケットとして、さらには抽選会への参加権として使われていたのです。もちろん、キーを入れたのはDMを開封させることがいちばんの目的です。しかしそれだけでなく、顧客の気持ちを高揚させることで試乗会への期待を高めたのは言うまでもありません。

 それから何年も経ち、クルマのキーは鍵穴に入れるものから、手で触ればドアが開くリモートコントロール機能付へと進化しました。そこで、BMWでは新しいタイプのキーDMを制作しようと考えたのです。使い方はキーが試乗会の参加権となることは同じなのですが、実は今回のキーはUSBになっていて、コンピューターに差し込むと、ニューBMW5シリーズの魅力を紹介したページがモニターに映し出されるという寸法だったのです。
 このキー型USBにはもう一つ大切な機能が用意されていました。それは、ニューBMW5シリーズを試乗するときに、このUSBを使って音楽が楽しめるというものです。5シリーズの「5」に併せて、ジャズ、クラシック、ロック、邦楽、ハウスという5つのジャンルの曲を収録して、ドライブしながら楽しめるという作戦です。つまり、この特典によって、顧客にニューBMW5シリーズにはUSBメモリーの挿入口があり、音楽データを読み取って音楽の再生までできることを知らせ、さらに実体験までしてもらおうということです。ここまでこだわり抜いたクリエイティブを採用してもらえたのも、BMWという妥協しないブランドだからこそと、今でも感謝しています。
 さて、ここまでお読みいただくと、「やはり、BMWという大企業だからできるのでしょ?」と思われるでしょうか。その誤解を払しょくするために、ここからは「お金をかけずに開封してもらうにはどのようにすべきか? 」を考えていきたいと思います。
 
 私は、封筒を開かせるには2つの方向があるように思っています。
 一つ目の方向は「異物感で開けさせる」ということ。先ほどのキーを封入したDMもまさにこのタイプでしょう。この異物感というのは、私が広告代理店時代に自然発生的に生まれた言葉で、マーケティング用語ではまったくないのですが、的を得ている言葉だと思い使っていました。

 例えば、「レギュラーコーヒーを抽出するコーヒーバッグ(ティーバッグのようなもの)」を入れた記憶もあります。これも、BMWだったのですが、封筒の窓から「コーヒーバッグ」が見えていて、「1日コーヒー1杯分のお支払いで、BMWに乗れる」というようなキャッチフレーズが入っていました。当時、残価設定型ローンのバリューローンというファイナンス方法をBMWが業界でいちはやく導入して、このサービスをアピールするDMを打ったというわけです。この残価設定型ローンというのは、車両価格から予め3年後の下取り価格を引いた金額をローンで支払ってもらうものです。3年後はクルマの返却か、残りの残価を改めてローンで支払うかを選ぶことができました。例えば、280万円の新車の3年後の下取り価格(残価)が180万円とします。顧客はこの残価を差し引いた100万円を12ケ月×3年=36回払い、さらにボーナス月は10万払いを加算するとして、 [100万円-10万円×6回(ボーナス月)]÷36=月々約11,000円。さらに31日で割ると、1日約350円となります。ローン金利も新車登録時の諸経費も別にしてざっくりと計算した金額ですが、まさに1日スタバのコーヒー1杯分のお金でBMWが買えるということが言えたわけです。

 この異物感のある物を入れるという戦略は街の商店でも使えるのではないでしょうか? 例えば、お花屋さんだとして、「もうすぐ母の日です。事前のご予約がお得になっています」というメッセージとともに、カーネーションの押し花が封筒から覗いているとします。封を開けると花のさわやかな香りまでして、案内状を読んでいただくという寸法です。
 もう少しお金を掛けられるのなら、先ほどのBMWほど手が込んでなくても、USBメモリーを入れるのもありかもしれません。今なら、コストも下がり8GBなら400円以下で手に入れることもできます。例えば、Webの制作会社が新規で顧客を開拓するときに、自社で作ったWebの作品集を紹介した動画データを入れるなども考えられます。多少、お金が掛かっている感のあるDMなら、開封率は高くなるし、とりあえずメモリーとして使えるのだから取っておこうという気持ちも働くと思います。但し、しっかりとした挨拶状は必要でしょう。いきなり得体の知れない人からUSBをもらい、それを自分のコンピューターに差し込むのは不安感があるからです。

 開封させる二つ目の方向は、「個人宛の手紙感で開けさせる」です。
 この本の最初の方で述べたように、究極のDMとは個人宛に書かれた手紙です。直筆で書かれた宛名が、自分の名前なら、大概の人は気になって封を開けて読むと思います。さて、ここで言う「手紙感」と、敢えて「感」を入れたのにはわけがあります。それは、「手紙を書けば良い」というのが、この方向の趣旨ではないからです。「個人宛の手紙感で開けさせる」は、言葉を変えると「あなただけ感によって開けさせる」ということでもあります。
 例えば、郵便ポストの中にいくつかのメールが来ているとします。先ほどの話の通り、手書きの手紙は必ず捨てずにいるでしょう。そして、見るからに売り売りの派手なDMは中身も見ずに「また来たよ」といってごみ箱行き。残るは、何だと思いますか? 「そう、請求書です」。大概の請求書は、白封筒でシンプルなつくり。売り売りの部分はまったくありません。では、なぜ、中を開けるかというと、「来月にいくら口座から引き落とされるか」という、自分にとってかなり重要な、「あなただけ感」のある内容が書かれていると知っているからです。この顧客心理を上手に突いているのが、クレジットカード会社からのタイアップDMです。皆さんも、クレジットカード会社からの請求書のお知らせだと思って開封したら、実は生命保険の案内だったということが一度は経験があるのではないでしょうか。

 これは保険会社などがクレジットカードの顧客リストを使って、保険の勧誘をするものなのですが、上手なのはそのDMの見栄えが、いつもの請求書と同じ点にあることです。しかし、封筒をよく見ると、「○○クレジットカードご利用の方へ特別なお知らせです」と、さりげなくいつもの請求書とは違うことが書かれていて、さらに「この特別なプランは○月○日までの期間限定です」と、期限を作ることでクロージングを後押しするといった感じです。つまり、下手にデザインされた封筒よりも、シンプルな白封筒の方が開封してもらえる可能性が高いということなのです。

 そういえば、BMWでは、このようなDMを作ったことがありました。それは、海外からのエアメールをコンセプトにしたDMでした。20年以上前の企画だったので詳細は覚えていないのですが、「BMW本社のドイツから日本のショールームイベントへ招待状が届いたら驚くのではないか」という発想でした。封筒は、いかにもエアメールらしい青と赤の縞模様に縁どられ、中身にはドイツ本社からの挨拶が和英併記で書かれているのです。日本で印刷したこのDMをわざわざドイツまで広告代理店の営業が運び、ドイツから日本の顧客へエアメールで投函したという、今から考えたら、なんともクリエイティブなDMでした。確かに手間がかかったDMですが、この戦略のポイントは、「わざわざ海外からあなた宛てに招待状が届いた」という「あなただけ感」を助長させる点にあります。

 この手法を街の商店でやるとしたら、いちばん安上がりで、一番効果のある方法をお伝えします。
 それは、顧客一人一人に手書きで、顧客のことを思いながら、文字通り手紙のようなDMを発送することです。これは大量に配布する大企業のDM戦略では不可能な方法であると同時に、実に効果が高い方法となります。この本でも、実例を後でご紹介しますので楽しみにしていてください。
「あなただけ感」というのは、言葉を変えれば「あなただけ、ひいきします」ということでもあります。それは封筒のキャッチフレーズひとつで表現することも可能です。例えば、BMWなら「既存オーナー」に対して、通常の一般イベント前に、ニューモデルをお披露目するプレイベントを開催するとします。封筒は、シンプルに白封筒で、キャッチフレーズには「BMWオーナーのあなた様だけに。一般発表前のニューモデルに出会えるシークレットイベントへご招待」というように、「あなた様だけ」「一般発表前」「シークレット」といった言葉をちりばめて、「ひいき感」を助長させるのです。
「あなただけ感」はアイデアを考えるうえで、ひとつのより所になります。自分のDMが「封筒を開けてくれるのか?」と疑問を持ったら、「あなただけ感があるか?」を見つめなおしてみると良いと思います。


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