第1章 ターゲット 「誰に向けてダイレクトメールを出してるの?」

「そんな小さな文字じゃ、お年寄りは読めないよ!」
  
この章では、DMを送るうえで、いちばん重要となるターゲットについて考えていきたいと思います。なぜ、重要なのかというと、どんなに素晴らしい戦略を持ったDMでも、ターゲットを間違えただけで、その効果が得られないからです。極端な例でいえば、老眼鏡のDMを20代の若者に送っても、クロージングに結びつくとは思えません。お爺さんへのプレゼント需要はあるかもしれませんが、その効果は限定的です。
DMを送るということは、それなりのリストがあるわけですから、自分の売り込みたい商品がどういう属性の人たちに売れるのか、セグメントして欲しいのです。
ですが、「いやあ、うちのリストは年齢とか書いてないのでわからないんですよ」とか、「うちのターゲットは年齢や性別に関係ないんで」とか、答えが返ってきそうですよね。
はっきり言います。DMはターゲットを特定することで高いレスポンスが見込めるツールです。いや、集客するうえで、つまりマーケティング全般においても、ターゲットを絞れば絞るほど効果が高くなると覚えておいてください。

例えば、最高のDMとは個人あてに書かれた手紙に他なりません。考えてみてください。ある日、郵便ポストを開けると、いつものように請求書や、いかにも大量に配送された感じのDMの中に混ざって、手書きで宛名が書かれた手紙を見つけたら、まずはその手紙を開封するのではないでしょうか? しかも、その中身はあなたのことを良く理解された内容で、さらに手書きで書かれているので、人の温もりさえ感じられる。そして終わりには、「一度、ぜひ、お立ち寄りください。○○様のお越しを本当に楽しみにしています」などと書かれていたら、心はすでに「いつ行こうか?」などと考えているに違いありません。これこそ、DMの極意なのです。いかに、その人だけに向けたDMを作るかが重要になってくるのです。


先ほどの「リストに年齢が記載されていない」という話ですが、リストを健全化、つまり、今後DMを発送するうえで効果が上がるようにリストをリバイスして行ってください。まずは、新しく顧客にデータを入手する際は、「名前、住所、メルアドだけでなく、生年月日、性別、趣味、家族」についても書かれていると、今後、いろいろな展開が期待できます。例えば、生年月日が書かれていれば、バースデーカードを贈るという戦略が立てられますし、家族に小さな子供がいれば、子供が喜びそうな来場記念品を用意したDMも考えられます。すべての商売において「リストこそ命」なのです。

そういえば、江戸の時代、大火が頻繁に起こり、江戸商人も大変な思いをしたそうです。その商人が「いの一番」に火事の中から救い出したのが、まさに「大福帳」。つまり、顧客リストだったそうです。店や商品が火事で灰になったとしても、顧客リストさえあれば商売を再開することができるからです。昔も、今も、顧客リストこそがあなたの財産であることに変わりはありません。


また、マーケティングの知識として、「1:5の法則/5:25の法則」というのをご存知でしょうか?
「1:5の法則」とは、新規客に販売するコストは既存客に販売するコストの5倍かかるという法則です。そして、「5:25の法則」とは、顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善されるという法則になります。これは、明らかに新規客を開拓するよりも、既存客のロイヤリティ(ブランドへの忠誠心)を高めて、ここを積極的にセールスするほうが、売り上げは上がるという考え方です。まさに「リストこそ命」といえる理由なのです。

そして、もうひとつ問い合わせが多そうな「うちのターゲットは年齢や性別に関係ない」という方。気持ちはすごく分かるのですが、もう少し、突っ込んで自社の商品を見直して欲しいのです。
例えば、傘屋さんだとします。商品全体で見れば、確かにターゲットはかなり広い。しかし、女性用、男性用、お年寄りが好きな柄、若い人が好む柄と分かれるはずです。ひょっとして和傘があれば、和服を着る女性や男性もターゲットとして考えられますし、折り畳みで高機能の傘なら、ビジネス使用としてのニーズで絞れるかもしれません。その商品特徴に合わせてターゲットを立てれば、その傘は漠然とした「傘」という訴求ではなく、「○○の方にお勧めできる傘」として、ターゲット(つまり○○の方)に深く刺さる訴求ができるのです。このように分類ができたら、どのターゲットの傘があなたの店にとっていちばんの売れ筋なのかが可視化されていくと思います。それこそが狙いです。いちばん売れるターゲットに対して、集客する力を注げば売り上げは上がるでしょうし、いちばん良いタイミングでDMを打っていけばその効果は最大限になるはずです。


そして、売れ行きが悪いターゲットの傘に対しては、その傘をどのタイミングで、どのように訴求すれば売れるのかを考えてみるのも必要です。例えば、和傘は普段、売れ行きは悪いでしょう。しかし、卒業式、入学式シーズン、晴れ着を着るようなターゲットに絞ってDMを打てるなら効果があるでしょうし、浴衣を着るシーズンに日傘としてアピールすればセールスが見込めるかもしれません。
散々考え、戦略を練って、それでも売れなかったら、その商品は撤退するのもビジネスとしては有効な手です。

ターゲットが特定できたら、そのDMが属性に合ったものになっているかを考えてください。例えば、自分の失敗談を明かせば、かつて携帯キャリアのDMを制作しているとき、広告代理店の営業から「このDMはガラケー訴求でシニアが多いので、文字をもっと大きくしてください」と指示があり、「あっ、しまった!」と基本を忘れていたことがありました。
そんなこともあり、シニア層向けのDMについての原則をまとめたこともあります。さまざまなシニア向けのDMや小冊子を集めて、どのような点に注意すべきかを検証していったのです。そうして気づいたのは、単純に文字サイズを大きくするだけでなく、例えば、読んでもらう順番に数字を入れたり、ポイントになる個所を太字や黄色マーカーを引くなどと、徹底して読みやすさを追求するということでした。なぜなら、シニアの方にとって、長い文章は見た瞬間に「読むのが面倒だ」と認識されてしまうので、最低限に伝えたいいことを「ピッ、ポッ、パッ」と見て分かるようにする必要があるからです。

しかし、一方で、太字や黄色マーカー、数字などは紙面を汚すことでもあるので、デザイン的には美しさが欠けてきます。グラフィックデザイナーとは、このことで議論になることがあります。例えば、BMWなどのハイブランドでこの手法を使うと、折角のブランドイメージが損なわれてしまうこともあるでしょう。シニア向けでも、どこまで読みやすさを追求するかは、ケースバイケースと認識しておいてください。


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