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危険!!フリーランスの地雷原・2

■CAUTION!!!

フリーランスの荒野で起きた超ヤベェ、ビジネスの話だ…。

■更新履歴

Episode 4「あんた、炊飯の後にパンを焼かされたいか?」(2015/4/12)
Episode 5「それでも、やるんだけどよ…」(2015/5/12)
Episode 6「道を往け」(2015/6/11)

Extra 1『フリーランス怪談 本当にあった怖い話』(2015/8/2)
Extra 2『体調不良 Dead or Die』(2015/9/16)
Extra 3『新人漫画家のきみに』(2016/2/4)
Extra 4『結界の呪文』(2016/2/4)

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*更新ルールやお値段の仕組みなどは「総合案内」をご参照ください。

■収録ナビ

書籍化は検討しましたが他作の編集作業が詰まっているので、目処は立っていません。購読はnoteのみとなります。
収録マガジン:こちら






「危険!!フリーランスの地雷原」



Episode 4


よお、元気にやってるか?

【謎オーダーの森】ではトンだ災難だったな…。

いやぁ、すまなかった。
俺がついていながら、あんたにあんな仕事を
させちまうなんて。

俺も用心棒としてはマダマダだったんだな…。

油断しないで行くぜ…。


————————と、

言いたいところなんだが、スマねぇ。
実は俺の仕事に、修正が入っちまったんだ。
絵をどこかしら描き直さなきゃならねぇらしい。

「修正」ってのは名ばかりで、
実際は、モチロン「追加」で「変更」
だろうさ。

打ち合わせで言ってくれりゃあいいものを、
今になって「もっとこうしたい」ってよ、
どうせ言い出すんだ。

まあ、よくあることさ。

これに慣れたらお前もイッパシのフリーランスだ。
だがよ、慣れてもいいが、正当だとは思わなくていいぜ。

…ったくよ。

これを当たり前だと思ってるクライアントは、
考え方を改めて欲しいもんだぜ。


よお、ご飯を頼まれたからご飯を炊き出しました。
よお、いいか、炊けました。

いいかよ、もうな、

炊けました。ご飯。炊いてしまいました。

それでよお、盛ってやろうと思っておしゃもじ突っ込んでよ、

その瞬間だぜ?
「やっぱりトーストが食べたい」って言われて、よお、

どうだ?

よお、どうだよ?おい、どうなんだよ?


どうなんだよお!!!!!!!


これで心がピクリとも動かねぇヤツならしょうがねぇが、
普通はよ

「え!?炊いちゃったけど!?」ってよ、思うだろ。

「修正」っていうのは、パンを頼んだのに
米を炊き出したヤツに投げるもんだぜ。
よろしくな。


さてさて、追加の変更、おっとと、修正、の時間だぜ。
まずこれが俺の納品した絵だ。

『羣青』っていう、昔描いた漫画があってよ、

それのファンだっていう編集さんがよ、仕事をくれたんだ。
「羣青みたいな絵の表紙がいい!」って、熱いメールをくれてよお。


ま、メールのタイトルによると
修正点は一点だけらしいから、そこだけが救いだな。
メールを読んでみようぜ。


なになに?


̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
日付:2015年3月10日 16:42
宛先:中村珍
差出人: yasushi-iuwa@henkousya.co.jp
件名:一点修正をお願いします!
-----------------------
中村珍様

いつもお世話になっております。
変更舎書籍編集部の井宇和です。

先日は素敵な表紙イラストを納品して頂き
ありがとうございました!

編集者としても一人のファンとしても感激です!

一点だけどうしても修正をお願いしたい箇所があり
ご連絡しました。

作風だけ変えて頂けないでしょうか?
構図も被写体もそのままで問題ありません!
画風だけ修正して頂けると幸いです!


当初、『羣青』のような感じで、とお願いしたのですが、
レイアウトなどに関する打ち合わせを重ねるにつれて、
もう少し荒削りな形がいいのではという話になりました。

個人的には羣青の大ファンですし魅力的な絵柄だと思うのですが、
今回は著者の方の希望を汲んで、修正をお願いいたします。
本当に申し訳ありません…。
中村さんのご著書の『誰も懲りない』風でお願いいたします。

変更舎 書籍編集部
井宇和 保志(いうわ やすし)
yasushi-iuwa@henkousya.co.jp
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶



た、確かに、そうだな。一点だ。
おお、
違いネェや。へへ…。一点だな…。

……。



作風…という、一点だけだな…。

それはつまり、宇宙が一つ、みてェな単位だな。


まあ、そうだな、こ…、この編集者の言う通りだと思うぜ。
これは、「本当に申し訳ありません」だな。

本当の本当の本当にな。

どういうつもりだぜ…………?




いいか、
修正で「作風」っていうのはな、
恋人によお、

これ言われるようなもんだからな。覚えとけ。


̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
日付:2015年3月10日 18:05
宛先: 井宇和保志<yasushi-iuwa@henkousya.co.jp>
差出人:中村珍
件名: ご依頼頂いた修正の件です/Re:一点修正をお願いします!
-----------------------

井宇和様

お疲れ様です、お世話になっております。
中村珍です。
ご連絡ありがとうございました。

ご相談頂きました修正の件、
確かに一点には違いないのですが、
作風の変更というのは、描き直しを意味します。

ピアノの伴奏で録音した歌を想像してください。
(ピアノのトラックと歌のトラックは別々の録音ではなく、
その場で両方、レコーダーで録音したと思ってください。)
もう、ピアノと歌が混ざった楽曲になっているわけです。
ここで、「やっぱり伴奏はギターが良かったな」となると、
たとえ歌はそのままで良くても、歌詞を変える必要がなくても、
何もかも録音し直しになります。
作風の変更というのは、要するに、そういうことです。

卵とじのカツ丼をソースカツ丼に変更するのにも似ています。
一度卵でとじてしまったカツも、それを乗せてしまったご飯も、
もうお出しできないのです。カツは卵で水気を吸っていますし、
ご飯にツユもかかってしまっておりますよね。
このご飯とカツを使ってソースカツ丼を作ることもできますが、
仕上がりが悪いことだけはご想像頂けるかと思います。
それよりは、一から作り直したほうが仕上がりも悪くありませんし、
私も自分の名前で世間に出すわけですから、
仕上がりの悪さによって付いてしまう悪評も回避できます。

ただ、やはり重要なことですので
最初に伺っておかないと、結果的に修正の域を超えて
別物の絵を2点納品することになってしまいます。

今回は原稿料を、当初ご提示頂いた額面ではなく
こちらの言い値にして頂いた分がございますので、
料金内ですべて描き直しいたしますが、

本来これは時間的にも予算的にも大変厳しいことですので、
今後はご容赦ください。

また、納品の翌日に当初ご指定頂いた〆切を迎えており、
それから本日に至るまで5日ほどの空白があるため、
もう、だいぶ時間がないのではないでしょうか?

もちろん最大限早いほうがいいというのは理解しておりますが、
最悪の場合はいつまでに完成させてお戻しすれば良いでしょう?
ご教示ください。

中村珍

̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶


どっちみち、不本意なものを載せたくはネェし、

修正に応じなかったことで嫌な思い出にもさせたくネェし、

まあ、やるしかネェっつうかよ、俺は、やるんだけどよ、

ただ、最初に言ってもらえりゃあ、

もっと早くになんとかなって、予算も充分でよ、

みんなが幸せだったのによ、っつうのは、思うよな。


打ち合わせの時も、ラフを送った時も、

引き返すチャンスは、いくらでもあったじゃねぇか。



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日付:2015年3月10日 19:16 
宛先:中村珍
差出人: yasushi-iuwa@henkousya.co.jp
件名: Re>ご依頼頂いた修正の件です/Re:一点修正をお願いします!
-----------------------
中村珍様

いつもお世話になっております。
変更舎書籍編集部の井宇和です。

ご返事ありがとうございました!料金内とのこと、とても助かります。

急で申し訳ないのですが13日の朝に届くよう、お願いします。

変更舎 書籍編集部
井宇和 保志(いうわ やすし)
yasushi-iuwa@henkousya.co.jp

̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶


ははは、大したモンだぜ。


よお、日付を見てくれ。

2015年3月10日は金曜日さ。

指定された13日ってのは、月曜だ。


どういうことかわかるか?

俺に土日を潰せとよ。

自分は土日、何やってんだろうな。

とにかく週明け出社したら出来てて欲しいんだろうな。

いいご身分だぜ。

仮に先様も休日出勤だったとして、だからってよ、

俺の知ったことじゃネェよ。気の毒だとは思うがな。


せいぜい出世して、偉くなってからも

俺によろしくお願いしますって感じだな。

まあ、大抵こういうワガママ聞いちまうと、

いい仕事よりも、面倒な仕事が回ってくるだけの

便利屋扱いになっちまうけどな。


おい、あんた。

自分の安売りとサービスのし過ぎに気をつけろよ。




ふう、終わったぜ。

ったく、勘弁してくれよ。

人物画の仕事で助かったぜ…。

東京タワーや都庁の描き直しだったら

とんでもネェ騒ぎだ。

送信。よし、

これで納品完了だ。





ん?

新着メールだな…。


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件名: 再度修正のご相談です!

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再…度…

…——————な…ッ、なんだ!?










Episode 5


わかってんだ、俺は。

わかってる。

メールボックスのよお、お手紙のマークの上に、

何か来てるみてぇな印がついてよお、

そこに「1」って書いてあらあ。


わかってんだ。

一通、修正依頼という名の変更要求のメールが来ているのは。

わかってンだぜ?

だがよ、正直、開きたくねえ。




だってよお、俺は、

〆切の前日に納品したんだぜ。

それから5日も連絡がなかったんだ。


その後、「作風を直してください」っていう

全否定の変更要求が届いて、それに応じた。

料金内でだ。

〆切も過ぎてるってことは、

予定していたスケジュール外での対応だぜ?

先様の言った通りの日程で再納品したんだ。


それなのに、

もう一通、変更要求が来やがった。

「修正のご相談」っていうタテマエでな。



いいか、

対応期間っていうのは、無限じゃねえ。

〆切があって、まあ、そうだな。

仕事の規模にもよるが、〆切後の2日間か3日間だな。

修正対応ができる余裕を持った日程を、俺は組んでるぜ。


だがよ、〆切後に5日も6日も経ってから修正を頼まれてもな、

他の仕事が始まってるんだ。そんな時期にゃあ。とっくによお。

次の仕事が遅れちまうだろ。やめてくれよ、

遅れた分の責任も取れねぇくせによ。



俺が、“事前に依頼されたことをしなかった”なら話は別だ。

いつまでだって対応すべきだぜ。そういう時は、完全に俺が悪い。


だがよ、後出しで増えた要求のために、

おれがスケジュールをひっくり反す筋合いが一体どこにあるんだ?

スケジュールは無限じゃねえ。俺の責任は無限じゃねえ。

その日は、あんたたちに買い取られた日じゃねえんだ。

頼まれてネェことを後出しされて叶えるかどうかは、

こっちの胸三寸の世界だぜ?


どうしても叶えてェこたァ、先に言うんだな。

先に言われたことへの責任っていうのは、取るからよ。


昔は俺も、望みを叶えることが仕事の全てだと思っていたさ。

修正は修正だと思っていた。

クライアントが「うん」と言うまでが仕事だと思っていたさ。

何もかもが俺の責任で、一撃でOKを貰えない俺が悪いと思っていた。

言われていないことを汲み取れない俺の不徳が諸悪の根源だと信じてたさ。


今か?

今は違う。


適当な注文は、ある。

いいか、あんたがまだ生真面目なら、教えてやる。

適当な注文は、結構、ある。


適当な注文は、思ったより、あるぜ。


無責任にならない程度に、自分を責めるなよ。


俺は、適当な注文があることを知った。

やる気があるクライアントの仕事でも、適当な注文はあるぜ。

情熱的なクライアントの仕事にも、適当な注文はあるぜ。

適当っていうのは、ビジョンが甘いことだ。

ビジョンが甘いのに、人に任せることだ。

情熱的な適当な注文っつーのも、結構多いぜ。


情熱と適当は両立するんだ。


あるだろ、あんたにも。熱意はあったのに、ビジョンが甘かったこと。

それを仕事でやるヤツ、結構居るぜ。


何を頼まれたか分からねぇ時。

何で頼まれたか分からねぇ時。

頼んでる側も実はよく分かってネェ、分かってネェけど、

希望や妄想を語って丸投げすればなんとかなると思ってる。

—————なんてこともよお、あるんだぜ。

覚えときな。



俺は、仕事で楽をしてェんじゃねえ。
『したって意味のねえ苦労』をしたくねえんだ。

どんな苦労にも意味があるって?
そうだな。
どんな理不尽にも耐えられるようになるだろうよ。

それだけさ。

あんたがなりたいフリーランスは、そういうのか?


喜ばれもせず、死ぬまで修正が当たり前みたいな顔をされて、

無理を重ねて、応じて、応じて、応じて。

なんなんだよ、それが。それをしたから、なんなんだよ。

本当に、本当にそれ、良くなってんのかよ。



納品物の良さと、

修正の回数、

比例しねぇどころか、ほとんど関係ねぇからな。


ソコ、関係あんのはよお、

事前の打ち合わせの質だけ。

だからな。



どうせな、明確なビジョンなんかねえんだ。
大きな変更を入れてくる奴は。


ビジョンがあったら、やり直しなんか生じるわけがねえんだよ。
微調整で済むんだよ。


決まってねえことを!決まってるみたいに!
頼んでくるんじゃねえよ!


それでも直し続けることを仕事の正義と呼ぶなら、
俺は悪いフリーランスでいいぜ。



直して「良くなる」なら俺はやる。

死ぬまで直し続けたっていい。


こういうのは、

うな重の並が特上になるタイプの修正だ。

俺は好きだぜ、そういうブラッシュアップ。



だがな、

直して「変わる」修正は、

並のうな重捨てて、並の白焼き作れって話なんだ。

もったいねぇだろ最初のうなぎ。

買い取れよ。

変える修正は、嫌いだぜ。虚しいだけだからよ。


『うな重』を『白焼き』に「変えた」ことで浪費した時間を、

『並』を『特上』に「上げる」ことに充ててェんだ俺は。



よお、なあ。聞いたことあるだろ?

「作品は子供」なんて、物書きや絵描きは言うな。

クライアントも「産みの苦しみ」なんて言葉を
気安く使ったりするもんだな。

おい、いいか、じゃあ、ガキに例えて考えようぜ。

クライアントがフリーランスに仕事を持ちかける時、

それはよお、子作りしましょうって言ってるようなもんなんだ。

新しい何かを自分たちで生み出しましょうって、話だぜ。


それでよお、ポイポイポイポイ修正出しやがってよお。

打ち合わせ不足で作っちまった、日の目を見ねぇ俺たちの作ったガキは、

計画不足で作って育てられなくなっちまった俺たちのガキは、

おい!一体どうなるんだよ!

死産か流産か虐待みてえなもんじゃねえか!?

どういうつもりなんだよ!

最初からちゃんと計画すりゃあいいだろ!


その場のノリで「責任取るからとりあえず作ろう」みたいなよお、

無責任なこと言うんじゃねぇよ!


気軽に可愛いガキ殺しやがって。

「とりあえずやってみましょう」?
「とりあえず作ってみましょう」?

責任取れねえガキ仕込むんじゃねえ!避妊しろ!
計画をしろ!育てねえなら作るんじゃねえ!

希望通りに育たなかったら殺せばいいと思ってんだろ!
苦労して産んで毎回目の前でガキ殺される身にもなってみろ!


多いぜ、そういうクライアントも。

作ろうって時が面白いから、その時は頑張るんだ。

「責任取るから」「きっと大きく育つ」ってな。言うんだぜ。


いざ育てる時になって、「思ってたのと違う」って言い出すんだぜ。

おいおい、

あんたの遺伝子混じってっからな!

こっちが想定外の子供産んだみてぇな言い方すんじゃねえよ、

何が修正だ。


いいか、
避けられるからな!!!
しっかり計画すりゃあよ、
大抵の変更は、避けられるからな!!


修正重ねるたびに険悪になっていくフリーランスを
「辛抱が足りねえ」とか
「直されると機嫌を損ねる」とか言うヤツも居るぜ。

どこの世界に何度も目の前でガキ殺されて
「また作りましょう」ってニコニコしてられる親が居るんだよ、
しかも、あんたが
「一緒に作りましょう」って言ったんだろうが!!!って話だぜ。


いいか、もういっぺん言うぜ。


避けられるからな!!!
しっかり計画すりゃあよ、
大抵の変更は、避けられるからな!!!




ああ…開きたくねえ。

メールボックスを見たくねえ…。

<新着> 2015/3/13 22:29 Iuwa Yasushi 再度修正のご相談です!


22時29分…。

夜だ…。百歩譲っても、夜だぜ。


どっちみちこんな時間だぜ。
悪いけど今日はもう眠いんだ。仕事にならねぇ。

寝るぜ。
また明日読むからよ。

あばよ…。

おやすみ…。


それにしたってよ、〆切から5日間寝かせて、

一回修正があって、

それでもまだ直す時間があるっていうのは、

どういうことだ?

本当の締め切りはいつなんだよ。


もともと勝手に修正対応させまくる気だったのか、
早く原稿を仕上げさせるために嘘ついたのか、
どっちでもいいけどよ、

本物の〆切は教えといて貰わねえと…、

ここまで引っ張ったら、…いつか来る本当のデッドが、

こっちからじゃ…見当つかねえ…ぜ。




zzz....





「中村さん!


 そろそろまずいんですが、



 原稿どうなってるんですかっ?!」








…はあ?…



なんだ、えれぇ剣幕じゃねえか。

昨日の夜メールしてきたんだから、対応が今だって問題ねぇだろ。

まだ朝の10時だぜ?


̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
日付:2015年3月13日 22:29 
宛先:中村珍
差出人: yasushi-iuwa@henkousya.co.jp
件名: 再度修正のご相談です!

-----------------------
中村珍様

度々すみません!修正、これで最後です!

作風はカンペキなので、人物の髪のなびいている方向を、

現在の向かって左から

向かって右に変えて頂ければバッチリです!

デザイナーとの打ち合わせの際に

タイトル位置の問題で右にと言われていたのを

お伝えし忘れてしまいました。

髪だけですので、他はそのままで問題ありません。


申し訳ないのですが、もうだいぶ待たせてしまったので

明日の午前中にデザイナーさんに回したいので、

よろしくお願いいたします。


担当としても、一ファンとしても、完成を楽しみに待ってます!

頑張ってください!


変更舎 書籍編集部
井宇和 保志(いうわ やすし)
yasushi-iuwa@henkousya.co.jp

̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶





———————…感じは、いいんだよな。

熱意もある。

ただ、注文と伝達が、適当だな。


「直すのは髪だけ」?

「顔から外は全て描き直しです」の言い間違いだろ。

何、少なく見積もってんだよ。


昨日の夜メールよこして午前中納品ってよ、

俺の寝る時間、ねぇじゃねえか。




「もうかなり苦しいので、何時頃までとかじゃなくて、

 一刻も早くお願いします。本当にヤバイです。

 デザイナーにはずっと待機してもらってるんで!」





そうかよ。そりゃあ、デザイナーさんもとんだ災難だな。

なあ、

ところで、

俺の作業が終わってないって、俺の責任にして待機してもらってるのか、

それとも「僕が変更出しまくったから確定原稿が出ません」って、

ちゃんと言ってあんのかよ?


————って思っても、聞けねぇけどな。





はあ。



デザイナー、Kさんだって言ってたっけな。

ツイッターかなんか、やってっかな。


進行遅くて困ってるだろうな、気の毒にな。













Episode 6


沼を、泳いだことがあるか。


沼だ。


沼っていうのはよ、

死ぬよりマシだから泳ぐが、

好きこのんでは、泳がネェ場所だな。

そうだろ?


ズブズブじゃねェか。



沼だ。

沈む。

底なし沼なんて言葉もあるぐれェだぜ?


実際の沼っつーのは、

池や湖のちっこいヤツでよ、草が生えてて、

水深も湖ほどネェし、5メートルかそこらで、

もちろん、底はある。

言葉通りの底なし沼は存在しねぇ。

本当に底がなかったら、地球に空洞ができちまうな。


底なし沼っていうのは、沼に飲み込まれた仏さんが

上がってこねェから、底なし、なんて呼ばれるのさ。



ただよ、池や湖よりちっこくて

浅いなんて言うと、

大した危険のネェ場所に思えるかも知れネェが…。

いいか、沼っていうのは、

植物に覆われていて岸辺が分かりにくい。

陸だと思って進んだら上澄みを踏み抜いて

そのまま沼ってこともあるぜ。

それに、泥だらけだろう。

綺麗な水みてェに、バシャバシャ泳げるわけでもねぇ。

足を取られてもがけばもがくほど、

自重で沈んでいくんだ。


恐ろしい場所だな。


俺は、“意味”の分からネェ修正がくるたびに

沼を思う。

直す意味の分からネェ修正がくるたびに。


まるで地続きの陸地みてぇに草が生い茂ってるからよ、

言われるまま進んだら、突然足を取られて沈むんだ。

マトモな水の中みてぇには、泳げねぇ。

自分の抱えている仕事が重ければ重いほど、

沈み込んでいく足。

もがきすぎると抱えてる他の仕事まで全部

その沼にこぼれちまう。

こぼしちまった他の仕事を拾おうとしてもがくと、

また俺はその沼に沈んでいくんだ。









この道をただ、まっすぐ歩く事ができれば、
安全な橋を渡って、その先に進めるんだが、



こっちの森に迷い込んだヤツや、
こっちの沼に沈み込んだヤツは、

その先の川をなかなか渡れネェ。




思い出したくネェが…、

…そのまま帰ってこなかった仲間だっている。









最近だって、また一人。

俺の可愛がってた若いヤツが、

沼に何度も何度も落とされたことに疲れて、

潰れちまった。


もうこの荒野には来ねぇとよ。


才能のあった若手さ。

何本か載せたけどよ、

原稿描いちまってから描き直しが続いたんだ。

俺も何度か手伝ったから知ってる。


くっだらねぇ修正だぜ。

ここの背景のビルがカッコ悪いとか、

ここの車の車種が気にくわねぇとか、

女の子の服装はこういうほうがいいとか、

つり目よりたれ目のほうが人気が出ると思うとか。


先に言ってくれりゃあ間に合ったものを、

気まぐれみてぇに、後から言うんだ。

話を作ったってそうさ。

何か気にくわねぇんだろうが、

ハッキリと指摘は入れてこねぇ。

気まぐれと好みに、指示になるほどの理屈はネェからな。




「俺の仕事が軌道に乗ったらすぐ」って

いつも言ってた、

ずっと結婚したかった彼女がいたけどよ。

彼女が子供欲しがってたからよ、

金もねぇし、先も見えねぇから、

かわいそうで自分から別れたそうだ。

俺を待ってたら産めない歳になっちゃうけど

こんな働き方じゃ育てる金がねぇしって。


漫画、描いても描いても直されるから
休日はねぇし、他の仕事もできねぇ。
貯金もなくなったから、無理やりバイトし始めたけどよ、
ずっと寝ないでいたから体壊して、

ダメになっちまった。



修正の積み重ねってそういうことだろ。

一週間に1日か2日しかない休みを全部

修正に費やすってそういうことだろ。

よお、おい。



地図だけを見りゃあ、最短コースってのが

分かるだろうがよ、

実際に入ってみると、そうじゃねェんだ。


森の中は

どこが北か、南か、東か西か。

わからネェ。


入っちまって、

やっとの思いで出たら、

ゴールから遠ざかってたってこともある。


沼だってそうさ。

元の岸辺に戻れりゃあいい。

或いは

そのまま〆切まで泳ぎ切れる体力とな、気力とな、

運がありゃあいいかも知れネェ。


でもな、

もがいてもがいてどうにか辿り着けた岸辺が

ゴールの真逆ってことだってある。

そうしたらもう一度沼に飛び込むしかねぇ。



沼から上がったその足で

森に連れ込まれることだってある。


森から出たその足で

沼に引きずり込まれることだってある。



よお、

この中に、

物を頼む側の人間は居るか?



そうか。



いいか、あんたがもし

頼みごとの相手とうまくやっているなら、

これはあんたに言ってるんじゃねぇ。

俺はあんたとやりあうつもりはネェし、

あんたを責めるつもりなんかネェから、

疑心暗鬼にならずによお、そのまま

聡明な働き方を続けてくれ。

これは本心だ。

(そしてそういうあなた様は俺に仕事をください。)

俺は本当は誰とも争いたくねぇ。



だがな、もしだ。

いいか、

あんたがもし、

これまで依頼してきた修正の理由を、意図を、効果を、

すべて。

すべてだ。

すべて整然と説明できないなら、

直した結果を誰からも感謝されていないなら、

俺の話を聞いてくれ。


俺は、修正の結果が芳しかった時は、

必ず礼を言っているんだ。

知恵を借りたのに俺の名前で出しちまうんだからな。

功績泥棒になっちまう。

だから、俺の名前で手柄を横取りしちまって、

申し訳ねぇって、言ってるんだ。

直った結果が功を奏した時はきっとみんなそうだぜ。

感謝してるはずさ。

自分じゃどうしようもなかったことを、

自分の手柄みてぇに支えてくれた人がいるんだからよ。


だから、なあ、直した結果を感謝されていないなら、

直した理由に自信がないなら、

俺の話を聞いてくれ。



誰かに何かを頼む時は、

道を知らない若いヤツを

森に連れ込まないでくれ。

その森以外に道があるだろう。

道がないなら、作ってくれ。

作ってくれないなら、

好きにやらせてやってくれ。

好きにやらせられないなら、

道を作るか、

道を作る場所を丁寧に考えてくれ。


声の小さいヤツを

沼に落とさないでくれ。

なあ、みんながみんな俺みてぇな

荒くれじゃねぇんだ。

みんながみんな、沼に落ちた時に

叫べねぇんだ。

助けてくださいとも、

ちきしょうよくもやったなとも、

死にたくないとも、

言えねぇヤツがほとんどなんだ。


誰のことも

使い捨てないでくれ。

この一回さえ乗り切れれば

どうなったって知りやしねぇみたいな

頼み方をしないでくれ。

続き物の仕事をよこせって

言ってるんじゃねぇよ。

後腐れを絶縁で片付けるような働かせ方を

しねぇでくれって言ってるんだ。


道だけを一緒に歩いてくれ。

いいか、

森に入らなくても、

沼に落とさなくても、

まっすぐ進める道はあるからな。

なかったらきちんと考えて一緒に作りゃ

いいじゃねぇか。


沼を渡らせたり

森に送り込んだりして、

「なかなか出てきませんね」

みたいな顔しないでくれ。

「間に合わなくなっちゃうんですけど」

みたいな顔しないでくれ。


急いでいるなら道を行け!!!!!

道がないなら作れ!!!!!

道作りの手間を惜しむなら

どうなったって、どんなに遅くなったって、

逃げられなかっただけいいと思ってくれ!!!


急いでいるなら道を行こう!!!!!

道を!!


道だけを!!!!




往け!

たった一度、

往け!

戻らなくてもいいように!

“往”け!!!!




何かを直す時は、

本当に直さなきゃいけないか

よく考えてくれ。


それを直したら

何が変わるのか。

本当に良いものになるのか。

そこを直せば売り上げが変わるのか。


それとも、

あんたがそこを直したいだけなのか。

あんただけが、そこが直れば

いいものになるって思ってるんじゃないのか。

あんたの好みの問題じゃないのか。


あんたのワガママじゃなくて

そこを直しゃ良い数字を出せるってならよ、

そりゃあ直すべきだぜ。


あんたのワガママじゃんくて

そこを直しゃ世間的に
問題のある表現じゃなくなるってならよ、

そりゃあ直すべきだぜ。



だがよ、

あんたの納得のためだけに入れてる直しなら、

やめてやってくれ。


もしも社長が出てきて

「直す前のほうがいいなぁ」

っつったら元に戻すような修正なら、

直すんじゃねぇ。



直さなかったことをよお、

あんたがもし一年後も今と同じ熱量で

気にしてるなら、

直しゃいい。


来週になったら忘れるような、

家で家事でも始めりゃあ忘れるような、

明日他の仕事のトラブルが湧きゃあ忘れるような、

そんな熱量のことなら、

何も言うんじゃねぇ。


こっちは、一度作ったものをブチ壊して、

一度時間をかけたものをブチ壊して、

あんたのワガママ叶えることになるんだぜ。


ゆっくり休む時間を捨てて。

恋人に会える時間を捨てて。

友達と笑う時間を捨てて。

家族と食べる食事を諦めて。

他の仕事にかけられる時間を削って。


あんたの!!!!


ワガママを!!!!!



いいか。

落ち度は当然直すべきだぜ。

失敗は当然直すべきだぜ。

ミスは当然直すべきだぜ。


だがな、

ワガママで直すっていうのは、

ナシだぜ。



よく考えてくれ。

よく考えるっていうのは、

よく、しっかり、きちんと、考えるっていう意味だぜ。

よく考えてくれ。

まっすぐ、道だけを進むことはできないのか。


迷いながら苦しみながら進むことが

良いものを生むって思い込んでないか。

そりゃそうだ、一理ある。

だがな、苦しみの場所が無闇に森である必要はネェ。

だがな、苦しみの場所が無闇に沼である必要はネェ。



いいか、

森で苦しむのは、

沼で苦しむのは、

道の歩き方をしっかり苦しんで考えずに

出発したせいだからな。

地図を叩き込まずに出発したから迷っただけだからな。

ルートを確認せず出発したから迷っただけだからな。


いいか!


いいか!!!


いいか!?


いいか!!!!!


おい!


頼むぞ!!!!




あんたが気まぐれな修正で削るのは、

あんたのいい加減なオーダーが削るのは、

二度と帰ってこねぇ誰かの一日だぞ!!!!






よお、もし、

心当たりがあるなら、

俺の話は耳が痛テェだろう。


そうか。


痛くならなきゃイケねェ場所は、

耳じゃなくてな、

あんた、

心だぞ。





Extra 1

夏だから背筋も凍る怪談話でもしようかの…。

ふぉっふぉっふぉ…。


これはワシが今より若い頃の話じゃ。

怪談話にするくらいじゃて、そうそう起きることではなかろうが、

だからと言って起きないとも限らん、恐ろしい話よ。

お前さんたち、明日は我が身と思って備えておくんじゃぞ…。

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