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食べてくれる人のために、作る幸せ。

これは、上京して1年目、まだ一人暮らしに慣れていなかったときの話。

「料理しよう」
ふとそう思った。

料理など、したことはほとんど無い。母の手伝いで米を研いだくらいだ。
何を作ろう・・・。野菜炒め?
炒めるってどうすればいいんだろう。(このレベルである。)
いや、さっきチキンラーメンに乗せるために卵買ったし、
目玉焼き作ってみよう!!

目玉焼きの作り方くらい知ってる。
フライパンに油敷いて卵をパカって落として焼くだけ。
よしやるぞ。

IHにフライパン置いて~油敷いて~卵パカっと!
・・・・・・
なんの音沙汰もない。
白身が白くなったりもしない。IHの電源はついてる。
10分くらい待った。

ボコボコ言ってる!ボコボコ言ってるよ!
卵がいびつな形になってるよ!

とても慌てた。慌てたから卵をひっくり返した。
そしたら黄身が割れた。もう成す術がない。
マーブル模様の「卵焼いたもの」が完成した。

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目玉はどこに行ったんだろう。
仮に黄身を目玉とするのなら、もうこれはクリーチャー。
ただ固まったもの。

塩コショウをかけて食べた。卵は好きなので美味しかった。
でも、見た目が母の作っていたそれではない。クリーチャーだ。

明日リベンジすると決意した。


翌日、まず反省から始めた。
反省事項はただ一つ。慌てた事。慌てなければ大丈夫。
落ち着いて、呼吸を整えて、フライパンをIHに置いて油を敷いた。
そして卵をパカっとやった。なーにも起こらない。

また10分くらい待った。
その理由は、備え付けだったIHの火力が蝋燭のようなものしか出なかったからだが、そんなこと知る由もない。初めての一人暮らしで、自分にとって初めてのキッチンだったので、「こういうものなんだろう」と飲み込んでいたのだ。目玉焼きも10分くらい待ってやっと作れるものだと思っていた。

急に卵がボコボコ言い始めた。
ここだ。ここで慌てたから昨日は失敗したんだ。

深呼吸し、落ち着いて、卵をひっくり返した。

また黄身が割れた。なぜだ・・・?
そしてまた、クリーチャーができた。

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もう、やめよう・・・。
野菜炒めならできる。朝作ってみたら出来た。
だから、これからは野菜を炒めて生きよう・・・。

そう決意し、目玉焼きを作る試みは、一旦、終結した。


3ヶ月ほど経ったころ、革命的な知識を手に入れた。

「玉ねぎの輪っかの中に卵を入れて目玉焼きを作ると、形がキレイな円になる」

これは!試さなければ!!!!!!!

クリーチャーを作って意気消沈したあの時の自分はどこへやら。
すぐにIHにフライパンを置いて油を敷いた。
そして、玉ねぎを輪切りにしてフライパンに乗せた。
卵を、慎重に、慎重に、玉ねぎの中に、そっと、入れた。

すぐに溢れた。あっけない。玉ねぎが小さすぎた。もう意気消沈。
そして数秒後、重力と玉ねぎに挟まれて、形がいびつになった黄身は割れた。

もうどうしようもない。どう頑張ってもクリーチャーが生まれる。
そう覚悟し、ひっくり返した。
そして塩とコショウをかけて、お皿に移し、食べた。

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火力が弱いから玉ねぎが生だった。
それも相まって、美味しくもなかった。

完全敗北である。目玉焼き生活は、終わりを告げた。


誰か笑ってくれるかな、それがこいつの供養になれば、と思い、
Twitterにこの写真を載せた。すると、
友人からリプライが来た。

「なんでひっくり返した?」

心底驚いたのを覚えている。

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