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人名における凜/凛の字について

 これまで陸上の雑誌編集部にて、大量の人名(選手名。中学生〜シニアまで)を校正してきました。そのなかで、「凛」の字(つくりのしたが示)に、「凜」(つくりのしたが禾)の赤字を入れることが多々ありました。なぜこのミスは頻出するのか? 今さらながら気になり、調べました。内容はなかなか複雑です。校正や文字についての基礎知識がない方にも理解してもらえるよう書いたつもりですが、わかりにくいところや誤りがあればご指摘いただければと思います。

①前提 「凛」は「凜」の異体字
 異体字とは、「高」における「髙」のように、標準でない文字のかたちのこと。標準の文字の形は、国語審議会(文科省文化庁)によって定められています。
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/sanko/hyogai/index.html
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/joyokanjihyo_sakuin/index.html
 また、「溢」に対する「さんずい+益」のような字が俗字と呼ばれます。この場合、「凜」が正字、「凛」は俗字という認識です。正字は康煕字典体というもので定められているとするのが一般的なのですが、下に述べる通り、そうでない場合もあります。俗字は康煕字典体でなく字体表にも載っていない、世間で使われている文字の形です。
 デザイン差はまた別の話です。最近ホットなのだと令和の令の字ですね。また、フォントはもっと別の話です。フォントは文字のデザイン一式のことです。あくまで「文字の形」の話です。ここではこれ以上深入りしないことにします。

②1990年に「凜」が人名用漢字表に追加された
 子どもの名前に使ってもよい漢字は、「常用漢字表」に載っている漢字と、「人名用漢字表」に載っている漢字に限定されています。これは戸籍法によって定められているみたいで、法務省の管轄のようです。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji86.html


③【重要】当時JIS漢字には「凛」しか収録されていなかった
 JIS漢字は、「コンピューターなどでの日本語処理のため、JIS(日本工業規格)で定めた漢字の通称」(デジタル大辞泉より)です。1990年の改正時に、凜もJIS漢字に追加されたようなのですが、「なぜか変換できない」状態が続いていたみたいです。なんでだろう?
 たぶん、康熙字典という「漢字の原典」みたいな字典に載っていたのが「凛」だったのでは……。と思ってググってみたら、やっぱりそうみたいです。
http://www.asahi.com/special/kotoba/archive2015/moji/2011071700001.html
康熙字典の字体を正字と考えることが多いのですが、たまに国語審議会の漢字表と不一致があって、そういうときにこういう問題が起こります。

④2004年の戸籍法改正で人名用漢字の範囲が拡大、「凛」も追加される
http://www.moj.go.jp/content/000100941.pdf
相変わらず「凛」は俗字といっていい存在なのですが、名前には使ってよくなりました。


  調べてみると割と常識っぽかったのでちょっとシュンとしました。


 実務レベルの話では、2004年(厳密には法改正の時点)より前に生まれた子の名前には凜しか使われていないので、一発置換してしまってOK。(別に人名以外の本文中の凛の字が凜に置き換わっても問題ない。なぜなら同じ字であり、凜が正字だから。)2004年以降の生まれの場合は凜/凛のどちらも名前に使われている可能性があるので、チェックが必要。ということになります。
 そろそろ2000年代生まれの選手も日本選手権に出てきていますし、「凛」のつく名前の選手も現れてきそうです。


【以下の記事を参考にいたしました。】
http://kanjibunka.com/kanji-faq/pc/q0187/

https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/%E7%AC%AC16%E5%9B%9E%E3%80%8C%E5%87%9B%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E5%87%9C%E3%80%8D

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