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【コラム】なんで歌詞の話しかしないん? (1)

以前、「なぜ人は音楽を評するときに歌詞の話しかしないのか」的なツイートをしたら地味にバズりかけたことがあって、意外にみんな興味を持っている話題なんだなと知ることができました。せっかくなので、この機会に長めの文章で自分の考えをまとめておこうかと思い立ったぼくです。ご興味おありの方はしばしお付き合いください。

■歌詞の話をするなとは言ってない

ぼくのそのツイートに対して脊髄反射的に起こされたリアクションの多くは、「いや歌詞は重要だろ死ね」とか「音楽通ぶってるやつに限って歌詞を軽視するのがカッコいいみたいに思い込んでたりするよな」的なものでした。いやちゃんと読んでくれと。「歌詞が重要じゃない」なんて一言も言ってないし、思ってもいない。むしろぼくは誰よりもポピュラー音楽の楽曲における歌詞を重視しているような自負がある(しかもそういう意味のことをその数日前にツイートしたばかり)。まあ「誰よりも」は言い過ぎにしても、だいぶ幼少の頃からずっと「歌詞とは一体なんなのか」っていうことを考え続けて生きてきたんですよね。

ぼくが当該ツイートで言いたかったことは主に「しか」部分に乗っかっています。楽曲について話すとき、歌詞のことに「しか」言及されない風潮に大きな疑問を持っている。「あの曲はこういう(内容の)ことを歌っているからいい曲だよね〜」みたいなことを平気で言う人って街には決して少なくないし、なんならうちの母親とかもそういうこと言っちゃうし、ヘタすりゃミュージシャンですらそういう物言いをしたりもする。歌番組なんかで司会者が「今回はどんな曲ですか」と質問するとき、多くの歌手は「これこれこういうことを歌った曲です」と歌詞の意味するところ“だけ”を答えるパターンがめちゃくちゃ多いわけですよ。

いや、それってあくまでほんの一要素に過ぎないし、そこを解説しただけで「それがどんな曲であるか」が説明できたことになっちゃう世界観は怖いなって。せめて導入に「歌詞の内容としてはですね……」という但し書きが一言入るだけでも全然違うんだけど、残念ながらあんまりそういう発言を聞いたことはないように思う。仮にスタジオでは言ってても、編集でカットされちゃうのかもしらんけど(だとしたらディレクターが相当うんこってことになる)。

その曲にとって一番の存在理由が“歌詞の意味するところ”=“内容”なのだとすると、それって別に音楽である必要ないじゃないですか。何か言いたいことがあるなら、歌うよりも普通にしゃべったり文章に書いたほうがよほど有効だと思いますよ。言語では表現しきれない何かを伝えるために音楽って存在するんじゃないですかね。

印象的なワードを“作品”として残したいということなら、商業分野ならコピーライティングという分野があるし、芸術界隈にも「書」という世界が存在します。あなたが歌を歌うとき、「本当にその曲は“音楽として”世に出すのが正解なのか?」は常に自問自答しながら制作活動に励んでほしいところです。そうじゃないと、曲がかわいそうだ。

■「詩の表現」と「詞の表現」は別物

ここでちょっとだけ横道にそれますが、詩(ポエトリー)なんかは言語的な内容そのものを伝えるための表現方法ですよね。その詩を広く聞かせるため、フィジカルに表現するために音楽を“使う”という方法論も歴史的には長く採用されてきました。吟遊詩人とかってそういう存在ですよね。で、現代のヒップホップはその流れを汲むものだと個人的には思っていて、言いたいことや伝えたいことをただしゃべるだけじゃ“表現”になりづらいから音楽の力を借りている、という種類のものなのかなと理解しています。

ぼくは音楽の根源的な力を信じているほうの人間なので、そういうふうに「言葉を支えるために音楽を利用する」という構図がどうも好きになれないんです。だって、それだと明らかに音楽の立場が下位じゃないですか。そこでは言葉こそが主役であり、旋律やリズム、和音や音色は主役を引き立たせるための装飾具に過ぎない。それではあまりにも音楽が根源的に持つ無限のポテンシャルに対して失礼すぎる、もったいなさすぎーマジでー! って感じちゃうんですよ。いくらバックトラックのクオリティが高かろうが、そういう問題ではないのであるですよ。

つまりこういうことです。「詩」を表現したい人にとって音楽の要素は「あくまで道具」でしかないんだけども、「詞」を表現したい人にとっては音楽が上とか下とかじゃなくて「もともと詞は音楽の一部であって、不可分なものである」となる。

つまりポピュラーミュージックとヒップホップカルチャーは、大づかみに言えば同じ土俵の上で戦う似たもの同士だけど、言葉に対する向き合い方という点においては、まったく全然完膚なきまでにどこまでも違う。違いすぎる。幸いぼくはヒップホップ全然知らないし、ここではヒップホップを論から除外しますという宣言をさせてください。あとでちゃんとさだまさしの話するからさ、ちょっと待ってておくれよ。

(次回【そもそも歌詞の内容を理解するヒマなんてなくない?】へ続く)

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