エルデンリングの物語全体の仮説2

前回の続き。


女神マリカの決意

 すべてを知ったマリカは神ながら絶望した。ラダゴンとの子、ミケラとマレニアも歪な存在だ。黄金律に瑕疵があるのは明らかと、二本指への反逆を決意する。
 まず、マリケスから死を奪い、ゴッドフレイを殺して狭間の地を追放した。いつか、再び王になれるように。
 それから、融合したラダゴンが神になる前に、自分とラダゴン、そしてエルデンリングを破壊した。「さあ、共に砕けようぞ!」
 こうして、二本指は気が付かなかったが、ラダゴンは意思を失いエルデンリングを守るだけの亡者になり果てた。

第六パラグラフ

巨人戦争に勝利した時の余韻はどこへやら。二本指の導きに従って黄金律を信奉した結果、マリカは大変に辛いことになった。ゴッドフレイとの子であるモーゴットとモーグは忌み子だという理由で井戸に捨てさせられた。さらには、ラダゴンの妻になり、ゴッドフレイを捨てることにもなってしまった。

前回に書いた部分だが、ラダゴンによって王位を簒奪された、ということを説明するフレーバーテキストはない。だが、マリカの感傷は見て取れる。マリカがラダゴンを好んでおらず、罵倒している。一方でゴッドフレイを嫌った描写は見られない。

「おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ。お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない。さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!」(女王の閨)
「我が王よ、王の戦士たちよ。お前たちから、祝福を奪う。そして、その瞳が色褪せるとき、狭間の地を追放する。外に戦を求め、生き、そして死ぬがよい。そして、お前たちが死した後、いつか奪ったものを返そう。狭間の地に戻り、戦い、赴くままにエルデンリングを掲げるがよい。死と共に、強くあれ。王の戦士たちよ、我が王、ゴッドフレイよ」(第三マリカ教会、巡礼教会)

ラダゴンは犬呼ばわり。しかし、ゴッドフレイに対しては追放という厳しい措置をとっているが、死地からの帰還を祈るような言葉を掛けている。ラニによれば、二本指の強制力は強力と推測される。そうでなければ、ラニは自らの体を捨てることはなかった。なので、マリカも自分の意思を貫くことはかなり難しかったと想定される。

「…そして私は、二本指を拒んだ。死のルーンを盗み、神人たる自らの体を殺し、棄ててでも私は、あんなものに操られたくなかったのだ。…それ以来、私と二本指は、お互いを呪っている。」(ラニ)

こんな状況でマリカに何ができただろう。陰謀の夜はその1つだろうが、二本指に支配されている状況を変える手段にはならない。ならば結果に着目してみればよい。

黄金樹の中で褪せ人が見たものは、崩壊しきったマリカの姿。胴体に大きな穴が開き、片腕がもげたラダゴンであった。五体満足っぽいゴッドフレイとは対照的である。なにが起きたのか、これはマリカの言葉で明らかになっている。

「おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ。お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない。さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!」(女王の閨)
「女王マリカは、エルデンリングの宿主、その幻視を宿す者。すなわち神さね」(指読みのエンヤ)
「偉大なるエルデンリングは、黄金の律。それは世界を律し、生命は祝福と幸福を謳歌する。だが、それは砕かれてしまった」(指読みのエンヤ)

要するに、マリカは自分もろとも融合していたラダゴンをエルデンリングごと破壊してしまったのだ。これで、肉体の崩壊したマリカは二本指の支配から逃れることになった。ラダゴンにも手酷い損害を与えた。褪せ人と会っても何の会話もない。知性がない亡者のようである。エルデンリングが壊れた件は、ゴッドフレイがいつか掲げてくれるだろう、とみることができる。

「狭間の地に戻り、戦い、赴くままにエルデンリングを掲げるがよい。死と共に、強くあれ。王の戦士たちよ、我が王、ゴッドフレイよ」(第三マリカ教会、巡礼教会)

もちろんラニのように自由に動けるようにはならなかった。まさに壮大な自爆攻撃であった。

陰謀の夜、マリカの誤算

 マリカもまた壊れたが、反逆は終わらない。近しい稀人たる黒き刃に、忌み子でないゴッドフレイとの子であるゴッドウィンも殺し追放しようとした。
 だが、誤算が起きる。レナラの子供たちも、二本指に反感を持っていたのだった。二本指から壊れたマリカの後継者に指名されたラニは、どうしても従いたくなかった。師匠から永遠の都市の顛末を聞いていたのだ。法務官として黄金律の理不尽に怒るライカードも協力した。
 かくして陰謀の夜が起きる。ラニは二本指の支配を脱し、夜の律を掲げるべく動き出した。
 その後、破砕戦争が起きた。凄惨を極め、デミゴッドは誰もが狂った。ただ、肉体とルーンを捨てたラニだけが正気を保った。

第七パラグラフ

さて、陰謀の夜である。ラニの目的は明確に語られている。すなわち二本指の支配からの脱却にある。ライカードの協力も不自然ではないだろう。ここでは正義の法務官という設定を前に出したが、黄金律から外れ死に生きる者(ゴッドウィン)を生んで二本指を困らせてやりたい、とかでも良いかもしれない。

いずれにせよ、ラニ側の動機はそう難しくない。だが、魔術師ロジェールはラニを主犯といったが、そもそもゴッドウィン殺害の企画発案者は母であるゴッドウィンである。子殺しなのだ、ただ事ではない。

「マリケスは、神人に与えられる影従の獣であった。マリカは影従に、運命の死の封印たるを望み後にそれを裏切ったのだ。」(黒き剣の追憶)
「…マリカよ、なぜ…。我を、欺いた…。なぜ、壊した…。」(獣の司祭グラング=獣人マリケス)

このようにマリケスを欺いて死のルーンを奪ったのはマリカである。そして息子を殺そうとした。しかも、忌み子ではないゴッドウィンとの唯一の子供である。唯一無二の存在であるはずだ。なのに殺すなど、相応の理由がなければならない。

そして、ここで不思議に思うのが、運命の死を与えられたらどうなるのか、ということだ。それは、黄金律からの脱出なのだが、具体的にはどういう意味を持つのだろう。

「蝕の太陽が描かれた、金属の大盾。首のない、霊廟騎士たちの得物。蝕まれ、色を失くした太陽は魂無きデミゴッドの守護星であり、彼らを、運命の死から遠ざけるという」(蝕紋の大盾)
「ルーテルが殉死し、守り続けた魂無きデミゴッドが再誕した時、彼女は英雄として、還樹を賜った。」(首なし騎士、ルーテル)

このように、運命の死を避ければ黄金樹によって復活できる。だったら、運命の死とは復活できなくなるということだ。黄金律信者にとっては想像の埒外であろうが、運命の死とは黄金律から逃れる手段なのである。

では、運命の死によって黄金律から逃れたらどうなるのだろうか。やや強引かもしれないが「狭間の地からの脱出」という説を提示したい。明確な根拠は無いが、弱い傍証のようなものがある。

まず、狭間の地からの脱出を考える前に、どうやって狭間の地に戻るのか、を考えていく。

「そして、その瞳が色褪せるとき、狭間の地を追放する。外に戦を求め、生き、そして死ぬがよい。そして、お前たちが死した後、いつか奪ったものを返そう。狭間の地に戻り、戦い、赴くままにエルデンリングを掲げるがよい
死と共に、強くあれ。王の戦士たちよ、我が王、ゴッドフレイよ」(第三マリカ教会、巡礼教会)

マリカの言葉にあるように、褪せ人が狭間の地へ戻る方法は外界での死だ。実際、オープニングシーンではホーラ・ルー、金仮面、糞食い、ギデオン=オーフニールの死が描かれている。ならば、外界に向かう方法も死であると考えられなくもない。

ところで、ゴッドフレイ王が外界へ向かう時、船を使ったことが示唆されている。

「かつて褪せ人が、王と共に狭間を離れた時一隻の船が、取り残されてしまったという」(錆び付いた錨)

では、運命の死が外界へ向かう手段であるというのは誤りなのだろうか。だが、本当に物理的に船で赴けるとしたら、そんな簡単でいいのだろうか。誰でも出られてしまうではないか。それに、同じく船で帰還できても変ではないことになってしまう。

もし、船が暗喩だとしたらどうだろう。海にほとんど存在感のない本作品において、船で連想できるものは1つしかない。それはディビアの呼び船だ。撃破すると死の根が得られるため、死に強い関連性がある。死の根があるということは、肉体はそのままで魂だけが死んだ「死に生きる者」、つまりゴッドウィンの眷属であるということだから、ディビアの呼び船にゴッドフレイが乗ったわけではないだろう。だが、船が死者の乗り物であるという隠喩は残る。

もし、この考え方が正しければ、運命の死とは狭間の地を逃れる鍵となる。ゴッドフレイにも運命の死が使われたはずだ。ならば、マリカがゴッドウィンに運命の死をもたらそうとした動機は明白だ。マリカは、その父と同じくゴッドウィンも外界に送り出そうとしたのだ。結果はラニによって失敗してしまったが、これなら子殺しの説明ができる。再三になるが、マリカによってゴッドウィンは唯一生まれの苦しみがない子だ。モーゴットとモーグは忌み子、ラダゴンとの間に成したミケラとマレニアはどちらも呪いのようなものを持っていた。

「ミケラとマレニアは、唯一人の神の子供である。故に二人は神人であるが、その生は脆弱であり一方は永遠に幼く、一方は腐敗を宿した。」(腐敗の女王の追憶)

そして、破砕戦争が起きる。デミゴット同士が激しく戦ったとあるが、マリカ視点から見れば「子供同士の凄惨な殺し合い」で、結果は悲惨極まる。ラダーンは心を失った野獣になった。マレニアは地の底で廃人状態。ライカードは強くなるために自らを蛇に食わせた。モーグとミケラを殺害し強奪。ゴッドウィンは死王子となった。まともなのは、モーゴットとラニぐらい。これが元は人であった母マリカにとって悪夢で無かったらなんだというのだろう。

だが、マリカやラダゴンが破砕戦争を止めようとした気配はない。エルデンリングと共に砕かれてしまい力が無かったからか。はたまた、死王子の件で絶望したから。それは定かではない。分かるのは、マリカとラダゴンにもはや世界を動かすことはできないということだけだ。

夜の律Endとは何で、メリナは誰なのか

ここからは、主人公たる褪せ人が活躍し、ラニの夜の律が掲げられる話に移る。

ラニENDが最も存在感が強いことはあまり異論ないであろう。少しメタ的になってしまうが、これが真END的でないとしたら、ラニが冒頭に登場する必要がないし、条件が複雑すぎるし、フロムソフトウェアの定番武器「ムーンライトソード」たる暗月の大剣が報酬である意義が分からなくなる。途中、ラニのお笑いシーン(人形のあたりとか)もあるし。何より、夜の律が大事でないのなら永遠の都あたりのエピソードは全部蛇足である。

 ずっと後のこと、狭間の地に名もなき褪せ人が外界より戻る。彼の者は狂ったデミゴッドを倒し、ラニそしてメリナと共に黄金樹へ至る。
 メリナは、追放直前に生まれたマリカとゴッドフレイの子。死を受け継ぎ、指の誘惑を払い、褪せ人を導く使命をマリカから授かっていた。
 夜の律が掲げられた時、ゴッドウィンは救われなかったが、確かにマリカとラニの願い、黄金律の破壊は成就したのだった。

最終パラグラフ

これまで見てきたように、マリカの願いはゴッドフレイの子孫にエルデンリングを掲げさせ、あわよくば黄金律を葬ることにある。対して、ラニの願いは夜の律を掲げること。これは好きだった母レナラの願いでもあった。

だから、ラニの願いが叶った時は、マリカの悲願が成就した瞬間でもあったのだ。痴呆気味だが、レナラも嬉しいはずだ。ゴッドウィンだけはちょっと可哀そうなのだ、まあ特別エンディングが用意されていることだし、物語としてはハッピーエンドの類と言えよう。

そしてこれは、指に滅ぼされた3つの永遠の都の意趣返しが成った瞬間でもある。ラテン語でノクステラは夜の星(Nox Stella)、ノクローンは夜の王冠(Nox Krone)=月。星の世紀とは、永遠の都の文化勝利のようなものだ。住民はもう死に絶えているが。つまり、稀人たる女神マリカの勝利であり、ラニが師匠である雪魔女の勝利とも言えるだろう。

というわけで、エルデンリングの3大ヒロイン(今回ミリエルは除く)のうち、ラニと女神マリカの願いは叶ったことが分かった。ならば、最後の1人、メリナの立場から見たら星の世紀はどう見えるのだろうか。

メリナの動機は、情報不足ということもあるがシンプルでもある。狙いは第1に主人公にエルデンリングを修復させること、第2に狂い火から褪せ人を守ること、にある。

「…大丈夫よ、トレント。まだ、助けられるわ。やっと見つけたのだから。この人はきっと、エルデンリングを求める。…黄金律をはずれても。」
「…貴方がもし、狂い火に向かっているのならそれだけは、やめて欲しい。あれは、触れざるもの。全ての生を、その思いを喰らう混沌。この世界がいかに壊れ、苦痛と絶望があろうとも生があること、産まれることは…きっと、素晴らしい」
「黄金樹よ、燃えるがよい。新しい王のために。…ありがとう。私を連れてきてくれて。炎と共に歩む者。いつか、運命の死に見えん。さようなら。」(メリナ)

そして、最後にあるように運命の死を嫌っていないから、黄金律の信奉者でないことは分かる。

狭間の地に戻った褪せ人を助け、黄金律を尊敬しない。この動機に会う人物と言えば、もう女神マリカしかいない。となれば、メリナに使命を与えた母とはマリカしかないであろう。

であれば父は誰か。メリナの言葉から父が語られたことはないから、そもそも父は重要ではない。ただ、順当に利害関係で考えればゴッドフレイとなる。運命の死を使ってゴッドフレイを追放する際に二人は出会っているはずだ。もう1つの可能性としてはゴッドウィンもありえる。これだと近親相姦を彷彿させてしまうが、ドラマ第1話から姉弟の性行為を直球ストレートでぶっこんできた「ゲーム・オブ・スローンズ」の作者なのだから、否定できない。どっちであっても、あるいはミリセントのようにメリカの分け身であっても物語としてはそう重要ではない。

大事なことはメリナ(Melina)がマリカ(Marika)の代理人的存在であるということだ。つまり、マリカ/メリナ、ラニ、主人公、そして夜の王の大逆から始まった指の物語が終わったということが大事なのだ。

終わりに:他のEND、特に金仮面について

フィアの願いを叶える死王子ENDは、True Endの補完として必要だろう。単なる不完全な黄金律の修復も、コンシューマーゲームとして必要なことだ。これが不可だったらクリアできる人口が大幅に減ってしまう。

狂い火ENDも、まあフロムソフトウェアなら入れるよね、って感じだ。メリナがブチ切れてる分かりやすいBad Endで、これも華であろう。

少し興味深いのが糞食いENDをメリナが止めないことにある。ただ、これは忌み子がもっと生まれる世界とみるならば、実のところマリカには反対する点がなかったりする。それは、忌み子であるモーゴットとモーグを尊重する道なのだから。ならば、メリナがマリカの代理だとすれば、止めないのも理解できることだ。

最後に、完璧な黄金律をもたらす金仮面ENDについて、これまでの仮説が正しいという前提で考える。金仮面は人の心の弱さを糾弾する。

「金仮面卿が見出したルーン。エルデの王が、壊れかけのエルデンリングを掲げる時、その修復に使用できる。それは、黄金律を完全にせんとする超越的視座のルーンである。現黄金律の不完全は、即ち視座の揺らぎであった。人のごとき、心持つ神など不要であり、律の瑕疵であったのだ」(完全律の修復ルーン)

金仮面らしい難しい抽象的な言い回しであるが、例えばどういうことなのだろう。金仮面は「心持つ神」、それが「黄金律の瑕疵」だと言う。

では、神の心が瑕疵とはどういうことか。それは、まず子を思う母として心だろう。モーグとモーゴットが井戸に投げ込まれたとき、マリカは悲しまなければ良かったということだ。忌み子は淡々と投げ捨てればよいのだ。また、夫がゴッドフレイではなくラダゴンになった時も、黄金律が反映するのであればマリカは歓迎すべきだったのだ。

なかなかに、苛烈である。だが、黄金律の信奉者であれば、当然すべきことであろう。さらには、狭間の地の混沌、すなわち狂い火があり、まともな集落もなく、亡者ばかりだと見れば、マリカが人の心を失うことでいったいどれだけの人が救われるのだろうか、という気もする。

そういうわけでエンディングの切り分けは、生粋の黄金律派としての完全律、マリカ&ラニ&永遠の都として夜の律、その中で救われなかった犠牲者を弔う死王子の律(無いとフィアのファンが怒る、際どいパンツまで作ったエンジニアが悲しむ)、実は祖霊というか坩堝に近い糞食い律、外なる火の神に騙される狂い火(バッドエンド)となる。

さて、あなたはどうエルデンリングを捉えるのだろう。とりあえずは、黄金律の信仰騎士を作って完全律を、神秘ビルドで糞食いか狂い火END、というのは整合性が取れているのかもしれない。






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