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【光免疫療法に注目】画期的な抗がん効果が期待できる新規治療法登場❗❗

(1) 今注目を集める「光免疫療法」とは⁉

2021年11月21日に配信された神戸新聞NEXTに注目の記事が掲載されました。

タイトルには「光免疫療法」ってどんな治療?点滴した抗体が、がん細胞をキャッチ 光を当ててがんのみ破壊というセンセーショナルな文字が❗❗

そこにはがん治療に革命をもたらすことが期待される「光免疫療法」の概略が紹介されています。

現在がん治療は手術、放射線、抗がん剤、がん免疫薬が主な治療法となっていますが、新たな第5の選択肢として光免疫療法が注目を集めています。

米国の国立衛生研究所 (NIH) 主任研究員の小林久隆氏 (60) が研究開発した光免疫療法はその成果が2011年に著名な医学雑誌「Nature Medicine」に掲載され、2012年には当時のオバマ大統領の一般教書演説で紹介されましたが、その当時はまだこの治療法で何故がん細胞が死滅するのか解明されていませんでした。

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小林久隆氏

その後、「抗体につけて投与する特殊な物質が近赤外光をうけて構造が変化する可能性がある」と「とある研究者」からの指摘を受け、現在までにがん細胞を死滅させる機序が明らかになって来ています。

光化学反応を起こしやすくするためには光のエネルギーが高いこと (波長が短かいこと) が条件になってくるので、生体に無害な光を使用する中では一番エネルギーが高く (波長が短く) 、体の奥まで透過する短波長の近赤外光が用途に最適の光として採用されました。 

小林久隆博士と北海道大学大学院理学研究院の武次徹也教授、北海道大学大学院薬学研究科の小川美香子教授らの研究グループは島津製作所、名古屋大学大学院医学系研究科の佐藤和秀S-YLC特任助教らとの共同で、新規がん治療法である光免疫療法の治療メカニズムに関する研究を行いました。

引用:北海道大学 PRESS RELEASE 2020/5/26

光免疫療法では特殊な物質であるIR700を (がん細胞だけに特異的に結合する) 抗体に結合させた薬剤を用いて、これをがん細胞に結合させます。

これに近赤外線を照射するとIR700に付随する水溶性の軸配位子が切断されて薬剤の凝集が起こり、薬剤が結合したがん細胞のみを殺すことができます。

この治療法にとって主役となるのはIR700という化学物質で、体に無害な700~800ナノメートルの近赤外光に反応して細胞を殺せる物質を探す中で発見されたもので元となる化学物質は「フタロシアニン」という色素です。

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フタロシアニン

フタロシアニンは全く水に溶けないため、生体内で使用できる物質にするため修飾を加えました。

フタロシアニン骨格の中心にケイ素原子を入れ、そこに軸配位子として四級アミンにつけた六つの硫酸基を結合させた側鎖をフタロシアニンのリングの上下に入れて水に溶けやすい性質に改良しました。

水溶性になることで抗体への結合が簡単になる上に、抗体の体の中での挙動にも影響しないことが明らかとなりました。

この水溶性のIR700を抗体に結合させ、静脈注射することでがん細胞に届くまで1~2日待ちます。

軸配位子切断の機序

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IR700に近赤外線が照射されるとIR700は励起状態という活性化された状態になりますが、この活性化された状態から直接水溶性軸配位子が切断される反応が進行するわけでないことが明らかになりました。

IR700は励起状態になった後、システインなどの電子を与えやすい化学物質から電子を受け取り、「ラジカルアニオン」という状態になります。

量子化学的計算というコンピュータシミュレーションの結果から、IR700のラジカルアニオン状態では容易に周囲の水分子と反応して軸配位子が切断されることが示唆されました (加水分解) 。

水に溶ける軸配位子が加水分解で外れると、フタロシアニンの水に溶けない部分だけが残り、抗体と抗体がくっついたがん細胞上の抗原の水に溶けにくい部分がフタロシアニンに巻き付き凝集し、抗体がついたがん細胞に傷が出来、がん細胞の破壊につながります。

このように光免疫療法はがん細胞だけを選択的に殺傷できる画期的な治療法ですが、がん細胞に結合させたIR700に近赤外線を照射することでがんの破壊が開始されるため、近赤外線が届きにくい生体深部のがんに適用するには光ファイバーを患部に埋め込むといった侵襲的な処置が必要となるため現在のところ適用部位が限定されます。

フタロシアニンに結合させた軸配位子の加水分解に関与するラジカルアニオン状態を別の化学的方法で作り出すことが出来れば近赤外線を用いなくてもより生体の深部にあるがんにも適用可能性が拡がることが期待されます。

(2) 小林久隆博士と楽天グループ三木谷社長との偶然の出逢い❣😲

楽天グループの三木谷社長は2012年に父がすい臓がんであることがわかり、様々な治療の可能性を探っていた時、友人から電話をもらい、友人のいとこの小林久隆さんが米国国立衛生研究所 (NIH) で「光でがんを治す研究をしている」という情報を得て、最初はうさんくさい話と受け止めましたが、藁にもすがる気持ちで、すぐに小林さんに会いました (2013年4月) 。

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その時はまだ早期の技術ということでしたが、三木谷さんは直感的にも論理的にも上手く行くと感じたようです。

それと物理的にがん細胞を破壊する機構が従来の化学療法や手術、放射線療法とは異なっていて、新たな有効ながん局所療法になりうると考えました。

小林さんから研究資金の確保で困っていることを聞いた三木谷さんは最初に出会ってから約1週間後に個人として数億円の資金援助を決めました。

万一上手く行かなくても、また父の治療に間に合わないとしても、この研究に賭ける価値は十分あると思ったようです。

支援を決めてから約半年後の2013年11月に父は83歳で亡くなりましたが、小林さんの研究への支援を続けました。

世の中にはがんで苦しんでいる患者、家族が沢山いるはずなので、その方々を助けられればと考え、資金援助を続けたようです。

将来につながる多くの貴重な基礎研究に対して、これまで日本政府の科学研究費や企業の資金投入は極めて貧弱と言わざるを得ませんが、三木谷さんの英断はこのような閉塞状況に風穴をあけることになったのは間違いありません。

引用:朝日新聞DIGITAL

(3) 楽天メディカル 世界初となる「光免疫療法」の薬承認を取得‼

楽天グループの楽天メディカル (米カリフォルニア州) は2020年9月25日に「光免疫療法」と呼ぶ新たながん治療に使う薬剤について、日本の厚生労働省から製造販売の承認を得たことを発表しました。

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先ず、従来の治療が効かない頭頸部 (とうけいぶ) がん患者を対象に実用化されます。

引用:日本経済新聞

承認された薬剤は光免疫療法で用いる「セツキシマブサロタロカンナトリウム」(製品名:アキャルックス) 、近赤外光に反応する物質によりがん細胞を破壊する「光免疫療法」に用いる薬剤で、抗EGFR (ヒト上皮細胞増殖因子受容体) 抗体セツキシマブに光感受性物質である色素IR700を結合させた抗体薬物複合体で点滴静脈20~28時間後に専用の医療機器「BioBlade」でレーザー光を照射することにより患部に集積した光感受性物質が活性化し、がん細胞を壊死させる仕組みです。

楽天メディカルは光免疫療法と称して世の中に出回っているほかの治療法と区別するため、光免疫療法に関する自社の技術基盤を「イルミノックスプラットフォーム」、それをもとに開発された医薬品・医療機器による治療を「イルミノックス治療」と呼んでいます。

引用:AnswersNews 2021/09/01更新 前田雄樹

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楽天メディカル社によるとアキャルックスによる治療が行える医師は2021年8月24日時点で、全国で97人いて、治療が可能な医療機関は2021年秋までに約40施設に増える予定です。

(4) 治療の現状と今後の展望

がんの標準療法を目指す

光免疫療法の実際の治療効果について、2021年9月25日の説明会に出席した国立がん研究センター東病院の林隆一副院長はこれまでアキャルックスによる治療を3例行っていて、手術後に再発した頭頸部がん患者に光免疫療法を実施したところ、左あごにあった5cmほどの腫瘍はほぼ壊死したものの、わずかに残存が認められたため4週間後に2回目の治療を行った症例について紹介しました。

林副院長は「印象としては、腫瘍選択性と治療効果が非常に高い治療で、レーザー照射も1サイクル5分程度で済み、繰り返しできるのも利点」と述べました。

臨床試験で多く報告されている「痛み」や「腫れ」といった有害事象も「十分管理可能で安全な治療法」と指摘しました。

今後レーザー照射の手技の均てん化が課題で、機器の改良や照射状況を確認できるモニタリング機器の開発が必要と話しました。

適応拡大では、日本で食道がんに対する局所療法の医師主導臨床1/2相試験が行われているほか、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法で胃がんや皮膚がんを対象とした初期の臨床試験が日米で進行中です。

がんの免疫抑制に関与し、がん細胞を増殖させる制御性T細胞を壊死させ、がん免疫抑制を解除する治療への応用も研究していて、臨床試験の開始に向けた準備をしています。

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林副院長は全身療法との併用療法や、早期がんへの適応拡大が望まれると指摘、EGFR発現が認められる他のがん種への適応拡大やセツキシマブ以外の抗体と組み合わせることでEGFR以外の分子を標的とした光免疫療法の開発に期待を示しました。

今後第5のがん治療法として標準療法に発展することが期待されます。


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