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【写真におけるカラーマネジメント】   第2章: 全体の流れをつかむ

この記事は【中上級者向け】です。

おはようございます。
アラスカの中島たかしでございます。

写真におけるカラーマネジメント(=Color Management System)。
前回の記事でその必要性がご理解いただけたかと思います。本日ご紹介の第2章では、写真撮影のゼロからスタートして最終のアウトプットまで、「ざっくり言って、カラーマネジメントって何をするの?」ということを、座学としてお話し、全体の流れを掴んでいただきましょう

太字だけを流し読みしてもざっとつかめるよう構成しています

また、この章で出てくるCMSに関する用語は、それぞれクイック引用できるよう、すべてリンクしました。マガジンの別の章で詳しく解説していますが、必要に応じてご参照いただければと思います。

※CMSについての具体的な実践内容は5章以降になります。

今回も、米国でプロフェッショナルの常識をつうじて写真学習をしつづけている僕が、欧米の情報をベースに、日本語で解説してゆきます。

【記事ジャンプ用】


今日の内容1:
カラーマネジメントで使用する機器
(=深く作品追求するための道具)

まずは、カラーマネジメント(CMS)を適切にハンドリングしてゆくのに必須の機材として、何が必要なのか見ていきましょう。

シンプルに、カメラ・モニター・プリンターですが、すこし細かく砕いてみると以下のようになります。

1.14ビットRAW画像で撮影できる、なるべくハイエンドのカメラ
2.処理速度の早いPC+画像編集ソフト
3.広い色空間で表示できるモニター
4.モニターを調整するためのキャリブレーションの道具
5.広い色空間を表現できるインクとプリンター
補足:撮影時に使用するカラーパレット

これに僕が使用している機材を記入してみると、以下です。

1.カメラ:SONY A6300, A7, A7II
2.パソコン:MacbookPro (メモリー:16GB 1600MHz DDR)
  ソフトウェア:Adobe Lightroom CC + Adobe Photoshop
3.モニター:EIZO ColorEdge CX241-CN(2022年現在 販売終了)
4.キャリブレーション:i1 Studio + Color Munki(2022年現在 販売終了)
5.プリンター:EPSON PX1V (米国:SureColor P700) + UltraChrome K3X(米国:Epson UltraChrome Pro10) インク

横文字ばっかり…

※実践編(第5章以降)では、上記機材を使いカラーマネジメントを追いながら作業していく流れを順に解説しています。

そして、このリストの中であえてあげるなら、いちばん重要なのがモニターです。次はインクかな。いずれにしても、写真のフィニッシュ(プリント作品づくり)にいちばん重要なのは、現在、カメラではないということ!

あるいはカメラは、もう全く別の次元で考えたほうが良いものと捉えたほうがいいかもしれない。

今日の内容2:
おおまかな作業の流れ
カラーマネジメント・ワークフロー

先述しましたが、細かいことは第5章以降の実践でじっくり学べますので、ここでは大まかな流れのイメージだけが頭に入れば問題ありません。

流れとは、CMSのための撮影 → デジタル現像 → 紙選び → プリントアウトです。

①【撮影】撮影時からカラーマネジメントの準備が始まっている

写真作品づくりにおいて、僕はカラーマネジメント(CMS)こそ中心に添えるべきだと思っています。そう考えたとき、撮影は準備でしかないことがわかります。ここで、あとで広い色空間を使用するために、14ビットRAW画像で記録しデータとして保存しておきます。

ここは詳しくは、「実践!第5章」で解説しています。

②【編集】写真データを取り込み、現像する際のロスを防ぐ!

編集作業の環境設定です。
たとえば、Lightroom CCでは、色空間の設定が自動でProPhotoRGBにちかいMellisa RGBになっていて、知らずに編集することになりますが、Photoshopと行き来する段階で、Photoshopの方の設定がAdobeRGBの色空間である場合、データロスが起こります。

このような、「知らずに写真のデータを小さくして、表現豊かにできる可能性を失っている」その事態を未然に防ぐことをしてゆきます。

くわえて、編集している部屋の明るさや、モニターのキャリブレーションもします。

ここは詳しくは、「実践!第6章」で解説しています。

③<仮想>ここで、最終フィニッシュを見据えた作業3つ

まず最終フィニッシュを、写真をウェブにアップすることを前提としてる場合、これまで扱ってきた色空間をsRGBに変換して、モニターで確認した後、ファイルを保存して終了となります。
以降の流れは、印刷・プリントの場合です。

1.アウトプットの紙選び
ここでのアウトプットは画面上ではなく、紙媒体に印刷することを想定していますので、どのような紙に印刷するのかをイメージする必要があります。
CMSの扱いに慣れてくると、最終のプリント紙をデジタル現像の段階で、あるいは撮影段階から想定しながら進められるようになります。
おおまかには、媒体がポスター、写真用紙、ファインアート紙、キャンバス。紙の種類が光沢紙・半光沢紙・マット紙に大別されます。


2.ICCプロファイルをダウンロード
紙が決まったら、ウェブ上で印刷用紙のメーカー各社が提供している、ICCプロファイルというものを探します。これが何かを簡単に伝えておくと、

「ICCプロファイルとは、使うプリンターと印刷する紙の色を適正マッチングさせるための暗号ファイル」

というイメージで良いかと思います。

自分でプロファイルを作らない人は、かならずこれを使って色管理してください。プリンターに色を任せると、大変なことになります。ICCプロファイルを扱っている僕から見ると、「なんで設定として『プリンターで色管理する』っていう設定があるんだろう」とさえ思います。

3.プルーフで最後の印刷の出方を事前予知
印刷前に、モニター上で最終プリントがどう出力されるかをとことんまで追求しておきます。ここをきっちりやっておくことで、CMSの目的である「継続的に、経済的に、正確な色を実現させる」ことができます。

ここは詳しくは、実践!第7章で解説しています。この章は特に大切です。


④【印刷】ここですべての評価が決まる

モニターで作り上げた色を、「変えることなく」印刷する行程です。
すでに以上の過程を経て準備万端であれば、以下の操作をするだけ。

・レイアウトの決定
・色空間の変換方法(レンダリング・インテント)を設定
・ProPhotoRGBのまま、用紙のICCプロファイルを使って出力
・その他、モニターとプリンターをマッチングさせる点を設定

ここは詳しくは、実践!第8章で解説しています。

以上で大まかな作業工程を把握していただけましたでしょうか。
イメージがまだ沸かない方は、実践編(第5章〜8章)を読んでいただき、ご自身で同時進行しながら作業をすすめると、僕が何を言っているのかを掴めます。

今日の内容3:
僕自身の作業工程をご紹介

では、以上のカラーマネジメント全体の流れを、僕がアラスカで行っている具体的な撮影からプリント作品完成まで、ストーリー的にご紹介してゆきましょう。

いきなり極寒のアラスカへ飛びます!(唐突!)

アラスカ厳冬期の2月16日、僕はログキャビンの中で目を覚まし、寝袋から出てコーヒをすすりながら、今日撮影するオオヤマネコの動きを想定する(プレビジュアライゼーション)。

そのイメージとともに、手元のカメラ、SONY A7、A6300の設定を再度確認する。14ビットRAW撮影。これだけでよく、カメラでの色空間の設定があるAdobeRGBかsRGBかは、RAWでは問題にならない。

幸運にも、新雪がコーティングされた新鮮な雪の中に、彼らの足跡を見つけ、少し離れていたものの、夕暮れ時に、なんとか撮影することができた。

キャビンにもどり、凍えた手を温めながら、撮影した画像239枚をすぐに外付けハードにバックアップする。ここまでやって、やっと安心。

その夜のうちに、あの夕暮れ時の凛と張り詰めたマイナス30度の空気の色合いの印象を失わないために、MacBook Proを開いてざっと調整しておく。(ポストビジュアライゼーション)

このマックの画面はIntel HD Graphics 4000 1536 MBだが、Adobe Lightroom CCで見る画像は、やはり撮ったままの画像のイメージとも少し違うし、僕が肉眼で見た印象とも違う。これを調整しておく必要がある…。眠いけど。

これを後日やると、印象は妄想というフィルターで彩度が上がる。たぶん大抵の人がそうなると思う。僕はそれを、経験から知っています。

暗い厳冬期のアラスカにある、森の中のキャビンは、暗い作業環境なので、デジタル写真編集作業にも向いている。

撮影旅をすべて終え、8日後、オフィスであるフェアバンクスの街に戻り、一日休んだあとで、デジタル現像をする。

15日前にモニターをキャリブレーションしたので、今回のデジタル現像ではモニターの調整は必要ない。しかし、EIZOのColorEdgeを一度電源オフにしようとしたとき、自動でハードウェアキャリブレーションがはじまる

終わった後、MacBookをリスタートしてAdobe Lightroom CCをたちあげ、デジタル現像。RAW画像をLightroomが広い色空間(Mellisa RGB ≒ ProPhotoRGB)で表示してくれるため、撮影現場で見たときより、あの夕暮れ時の青みの在る光具合が絶妙な階調をだしている。と感じる。

良い写真が撮れたので、今回はいっきに印刷の行程まで、作品草案づくりをしておいたほうが良さそうだ。

オオヤマネコの毛の質感が伝わるファインアート紙へのプリントが良さそう。ハーネミューレの「竹」(Hanemuhle Banboo 325gsm)に印刷することにして、ICCプロファイルを選択する。Lightroomのディベロップモジュールでこの紙を選択して仮想プルーフをつくる。(ここで僕が作業しているのは第7章に詳述されています。)

プルーフを見て微調整。プルーフ段階で、オオヤマネコ自体のコントラストが浅く、青みが強かったため、背景にはかからないよう、オオヤマネコだけマスキングしてここのホワイトバランスだけを200K(ケルビン)下げて、コントラストを引き上げる。ここまでの作業で約40分。印刷をしてみよう。

2020年夏に発売されたEPSONのSC-PX1Vでの印刷。このプリンターは、何が良いのかと一言でいうと、インクの色域がAdobeRGBを超えた!ということだろう。とくに黒と青、たぶん赤や緑もColorSyncの3D色域で比較する限り、良い。

EPSON Print Layout の無料ソフトウェアでプリンターの設定を済ませて、ハーネミューレの竹和紙に印刷。今回はレイアウトに印字しない外枠をつけて完成。


今日の内容4:
アウトプットを見据えることから始まる

先の僕の作業工程でも言葉として入れてありますが、プレビジュアライゼーション(事前に行う写真の可視化)をすることは、とても大切です。(経験談)

いつも通う撮影場所なんかがあると、どんな写真ができるか想像でき、繰り返すことでその想像と実際が近づきますが、はじめての場所でも、最終を見据える価値はあります。どこに価値があるのか。

プレビジュアライゼーション(事前に行う写真の可視化)をやっておくと、そのイメージに近いシーンが目の前に現れたとき、通り過ぎることなくシャッターを切ることができる。ということです。

このプレビジュアライゼーションは最終フィニッシュであるアウトプットを見据えると、より具体的な空気感、トーンを捕まえることができるようになります。

そしてさらに、なんの紙に印刷するのか。たとえば、(またアラスカで申し訳ありませんが…)ヘラジカという大きな立派な、それはたくましいシカがアラスカにいます。日本の子鹿ちゃんとはまるで違う大きな動物です。

体重700Kgにもなる!アラスカの雄鹿

このヘラジカの隆々とした筋肉、それが張り出てツヤを作っている毛皮、これらの肉体の美しさは、やや光沢がありそれでいて質感を残す、例えばバライタ紙、あるいはそれよりやや落とした半光沢紙などで活かされてきます。

もちろんそういったことは、実際に作品を作っていく上で経験値として積み上げられてゆくものですが、撮影前から最終のアウトプットのイメージと、インクを乗せる紙の表面までを意識しておくと、より精密な自分のアートが完成されてゆきます。

ぜひ、トライしてみてください!

さあ、では次章よりカラーマネジメントを分解し、より深い色と白黒の世界に入ってゆきましょう。

今日は以上になります。お疲れ様でした。

この【カラーマネジメント】シリーズでは、色(白と黒も含め)をどのように扱えば最高品質のプリント作品がつくれるか、ということに焦点を当てて解説を進めてゆきます 。

この記事をここまで読み進めてくれた方は、おそらく熱意を持って撮影に臨まれている方ですね!写真の作品づくりまでをも見据えておられる方だと思います。

これからも英語圏の教材をベースに、ハイクオリティな写真を制作するための内容を少しづつ記事にしていく予定です。

ぜひコメント・ご指摘くだされば幸いです!

                            中島たかし
              Nakashima Photography 公式ホームページ



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