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モルディブ生活記2🇲🇻

何かを変えよう。キリもいい。私はふと自分の伸びきった髪の毛に目をやった。いつの間にか肩まで伸びた。毛先はダメージでパサつき、ボロボロだ。どうせなら少し切ってやろう。ふと、そう思った。きっと髪の毛を切ったところで何か変わるわけではない。しかし、物理的な変化が欲しかった。

この日は前日に確認していた「ヴィリンギリ島」に向かった。マレ島からも比較的近く、フェリーで10分程度の世界だ。

島に着くと、まず目に入ったのは小さすぎる全体図。とりあえず歩いてみるのが私のスタイルだ。海沿いに沿って歩いて見るとあっという間に半周が完了。なんという小ささだろうか。エメラルドグリーンという言葉がぴったりの海に見とれながら歩く。本当にモルディブの男性はかっこいい。こんなにも海男という言葉が似合う男性はいるのだろうかと思うほど、かっこいい。フラフラしているとカフェを見つけた。入ってみる。そこにはボブ・マーリーのフラッグが飾られており、なんとも言えない雰囲気が漂っていた。簡単にシェイクとドーナツを頼む。これが実に美味であった。日本にいるときは全く食べなかった甘いものになぜか飢えている。チョコレートの甘さが身体中を巡る。身体が変化しているのがよくわかる。カピカピになった肌に染みていく。真っ黒に焦げた肌に少し潤いを与える。そんな感覚であった。少し休憩したのち、私はビーチに向かった。ここもローカルなビーチ。観光客などおらず、地元の人々ばかり。皆服を着て、イスラム典型のあのスカーフをかぶり楽しんでいる。その後ろにはこの島唯一のモスクもあり、なんだが不思議な気持ちになる。海に入る予定などなかったが、気がつくと入っていた。目の前にエメラルドグリーンの海があるにも関わらず入らないわけがなかった。1人で海水浴。気持ちがいい。話すこともなく、笑うこともなく、ただ波に身をまかせる。案外こんなことが幸せなのかも知れない。

いつの間にか、日も落ちかけていた。戻ろうと決めフェリーに乗ると、あるおじさんが話しかけてきた。よく見るとつい2時間ほど前に島で話していたおじさんではないか。彼は日本で仕事をしたこともある人物でモルディブでは有名人らしい。彼は現在モルディブで新たな宿泊施設を建設していて、なんと日本テイストにしているという。そして、2ヶ月後にはオープンができるところまで来ていると話していた。真実かどうかはさておき、彼は友好的で、日本人である私を可愛がってくれた。お茶を一緒にいただき、友達もたくさん紹介してくれた。その友達とも翌日ご飯を共にすることになったのだから感謝しかない。素敵な国民性だと思う。

そしてその晩私はモルディブの海に髪の毛を沈めた。これは比喩でもなんでもなく、実際に海の目の前で髪の毛を切った。切った髪の毛は実際に海に沈めた。髪の毛が軽くなると同時に少しばかり気持ちも軽くなった気がした。案外人間なんてこんなものだ。今はそう思う。生き急いでいたのかも知れない。別に時間なんていくらでもある。ゆっくりいけばいいのだ。私は自分にそう言い聞かせた。風に靡かれながら、「生きている」そう実感することができる。

イチローが引退会見で言っていた「外国人になるという経験」これがいかに大変なものか改めて感じる。知らない文化に土地に、投げ出されたとき、何ができるか、どこまで気を張ればいいのか、注意し、観察し、見極める。これがいかに難しいか。だからこそ、小さなことに敏感になるし、臆病になる。同時に人間としての五感が研ぎ澄まされていく。まだまだビギナーではあるが、少しは何か変化しただろうか。私は案外変わっていない自分にも気づいた。こんなものだ。

モルディブで人の温かさを感じた私は次の旅に向けてまた準備を始めるのである。