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ミャンマー生活記2🇲🇲

今は何時だ。今日は朝からの移動なのに昨日は寝付けなかった。たまにこんな時がある。時刻は6時40分。7時にはここを出なくてはならないことを考えると少しばかり寝過ぎてしまった。まあ良い。死ぬわけではない。誰かに怒られるわけでもない。全て自分に返ってくるだけなのだ。そんなことを考えたいところだったが、私は今までにないくらいの素早さで準備をしていた。

7時ちょっと過ぎたあたりでしっかりと宿を出発。マイペース&遅刻常習犯の私にとっては上出来だった。私が向かう先はヤンゴンより北部にあるマンダレーという都市だ。ヤンゴンからは約11時間くらいかかる計算になる。

私はバスステーションまで1時間を掛けタクシーを走らせた。そこからはバス移動。バスから見える景色は何もなく、景色が変わらない。本当に現実なのか自分の頬を殴ろうとしてみるも恥ずかしく、できなかった。Wi-Fi難民の私は特にやる事もなく、必死で保存した動画を見るか、寝るかの二択しか選択肢がなかった。

昨晩あまり寝れなかった分を取り返そうというくらいに寝るつもりだったが、ワクワクしていたのか、あまり長くは眠れなかった。揺られること約11時間。なんとかマンダレーに着いた。ここからはまたタクシー移動。流石に疲れも出てきた。

しかし、今日もまた眠れない。そう。眠れないのだ。すでにお尻はパンパンで痔にでもなりそうだ。背中は痛い。しかしこれにも耐えなくてはいけない。
宿に着くと同時に今夜の食事を探し歩き、パパッと済ませた。時刻は22時だっただろうか。時計を見るのも億劫になる。なぜこんなハードスケジュールなのか。不思議でたまらない。

明日は早朝3時には宿を出なくてはならない。残り5時間。シャワーを浴びたり、カメラの準備をしたり、そんなこんなしていると24時になっていた。
今の私には起きれる自信がなかった。
ふと、外の様子を見ると、今日も暑い空気がこの国を覆っていた。
日本は桜の季節か。花見をしたいな。平成も終わるのか。新元号の発表をまさかミャンマーで迎えるとは。そんなことを思っているうちに時間は刻々と時を刻んでいた。
私は眠い目を擦りながら、また準備を始めた。2時45分の出来事であった。

3時に出なくてはいけないのには理由があった。ここマンダレーから出ている列車には1つ大きな特徴がある。それは世界で2番目に高い鉄橋を途中で渡ることが出来るのだ。高さは100mを超え、築100年も超えている。鉄橋会のレジェンドと言っても良いだろう。
しかしこの電車は毎日1本しか走っていない。しかも早朝4時の出発だ。そして所用時間はなんと11時間だ。聞いて驚け。もちろん片道の時間だ。

わずかな橋を見るためにここまで来たのだ。我ながら少し頭がおかしいのではないかと思う。
しかし、ここまで来て後戻りはできない。冒険というなの、拷問に向かった。

時刻は3時。まだ辺りは真っ暗だ。駅までは2㎞程度なのでもちろん歩く。誰もいない道。たまに通るバイクは日本と同じように若者の遊びのツールのようになっていた。たくさんの音が聞こえる。犬の鳴き声。鳥の声。生活音。そして私の足音。眠いのが幸いしたのか、一歩一歩地面を踏みしめる感覚がいつになく気持ちよかった。

しかし、その時は突然訪れた。目の前には野良犬の集会。こっちを見るなり、大きな声で吠える。その声に同調されたように右からも左からも後ろからも犬が姿を表した。
頭の中に「狂犬病」という文字がチラつく。しかし、こちらは何もするつもりもない。ただこの道を通りたいだけなのだ。なので目を合わすことなくゆっくりと横切る。正面の犬たちを横切る時は手に汗を握ってしまった。23歳にもなって犬に怯えるとは思わなかった。通り過ぎても振り向くことはせず、むしろ早足で歩いた。走ったら追いかけて来てしまう気がした。なんとかその場を回避し、駅の近くまできた。この角を曲がれば駅だという時、また犬だ。しかも今度のは元気が良い。
まだ、かなり距離があるのにも関わらず、とんでもなく大きな声で吠えている。

次の瞬間だ。2匹が勢いよくこちらに走って来た。
「あ、死んだ」「終わった」「今までみんなありがとう」そんなことを冗談抜きで思っていた。こちらに走って来た2匹は私の目の前で飛びかかってくる寸前であった。

「●●●●●●●●●●●●●●!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

どこからか怒号が聞こえた。思わず閉じていた目を開けると、目の前に2匹の犬がゼエゼエとよだれを垂らしながらこっちを見ている。声の正体は誰なのか。右側を見ると、一人のおじさんが「早くいけ」という風にしている。助かった。
私は感謝を伝えつつ、駆け足でその場を去った。心臓は高鳴り、身体中が汗ばんでいたことは今後も忘れないであろう。

やっと駅に着くとたくさんの人が地面に寝ている。まるで、Appleの新作の発売かのように。地面に毛布を引く者、ベンチで寝る者、仲間と酒を交わす者、皆様々だが、同じ一本の電車を待っている。観光客の姿はほとんど見当たらない。約280円でチケットを買う。もう眠気は覚めていた。窓際の特等席。扉も窓も全てが開けっ放し。日本では考えられないこの列車に私は身を委ねた。大きな汽笛と共に列車は走り出した。

時刻は4時2分であった。


次回に続く。