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PJ06-ナナメの関係の作り方(従属関係のある中、進めていくプロジェクトの場合)

 行政と市民といったように「個人と組織」という関係性は、どうしても対立構造に陥りやすい。そこで前回はファシリテーターがナナメの存在として、いかに振る舞うか、どういう心構えで立つか、最小限に衝突を押さえながらどう進めるか、といったことを前回のコラムではお伝えした。

 例として、あかし市民図書館内の「市民による夢の図書館プロジェクト」の立ち上がりとプロセスを紹介し、「図書館と市民」という対立構造になりがちな状況を極力回避し前向きに進めていったことをお伝えしたが、実はその裏側でこのプロジェクトも館長中心のプロジェクトから職員によるチームによって進めていくボトムアップ型のプロジェクトに移行していくプロセスデザインが行われていた。

 いかにボトムアップが行われる雰囲気を作るか、いかに意欲を高めていくか、どう部下の主体性を育み進めていくか。そこでは組織内の管理職と部下、学校における先生と生徒という上下関係や従属関係では、前回とは違ったナナメのデザインが求められる。今回のコラムでは、そこに触れていきたい。

 そもそも会社組織や学校の場合、従来の上下関係が強固で、もとより言いにくい雰囲気がある。いくら「ボトムアップの提案を」「部下の自主的な発言と行動を」と願っても既存の関係性は変えづらく、結果的に上司が痺れを切らして上意下逹(トップダウン)のコミュニケーションとなり、ますます組織の硬直化と部下の萎縮が進む。上司はいつまでたっても任せられず、部下はずっと顔色を伺うという状態だ。

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 この場合、上司となるAさんが悪い、と言う風に見えるかもしれないが、従属の関係性は、構造上よほど意識しなければ先述の状態になる。この場合は、両者の力のバランスをフラットにすることに注力したい。とは言え、Bさんたちに裁量権を全て渡すわけには中々行かない。やはり組織は組織の考えや枠組みがあるし、その責任を負うのは上司なのだから。

 なので、やはりこの場合もナナメの存在としてのファシリテーターの出番となる。しかし、ここでは対立構造のナナメの存在の関わり方とは違い、日常的に恒常的な従属関係であるのだから、Bさんたちにとって安心・安全の場を設定するには、段階を踏んでいかねばならない。むしろ、日常としては従属関係が当然として「このプロジェクトではそれが一時的になくなる」という状況をつくるのがふさわしい。

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 段階的には図のように、まずはAさん(上司・依頼者)に今回のプロジェクトの狙いや位置付けなど大きな方向性や考えられる選択肢についてヒアリングを行い、その案件の幅を確認することから始まる。その次にBさんたち(部下)だけのチームミーティングでファシリテートを行い、Bさんら自身が決める結論を支援する。そしてそのミーティングの最後にAさんを招き入れ、この会議の結論を合意として伺い、進めていく。順序を書くと簡単なものだが、この流れの中でファシリテーターはナナメとして作用することでモノゴトを進めるばかりでなく、プロジェクトの幅やAさん、Bさん共に意識の変化に作用しようと仕掛ける部分がある。

STEP1 力関係の強い立場の人へのヒアリング

まずAさんにヒアリングする際、目的とするのはその案件の幅であるが、ファシリテーターとして関わるならば、Aさん自身の意識や認識について新しい気づきや考え方を拡張してもらうことをこの段階から目指し、それを目的とする。

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そもそもAさん自身、想定している結果や成果の範囲を限定的に定めていたり、実はぼんやりとしか見えていないことが多い。そのため、ヒアリングを通し、質問や提案を投げかけ、その幅と”あり”と”なし”の境目も探る。

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ここで注意したいのは、Bさんらとのミーティングの際に結論を誘導するためではない、ということだ。考えられる展開の幅をAさんに確認し、どこまでがOKかを確認しておく、と言うことが重要なのだ。なので、この場合、ファシリテーター役には、会議の進行力に見通し力、そのジャンルへの理解力など、一定の経験値が求められる。
 加えて言えば、この段階で単に表面的な幅を確認するばかりでなく、Aさんの想いもヒアリングし、引出し、想定している結果、成果の幅ばかりでなく「なぜ、その幅はOKで、ここから先はNOなのか」といった射程範囲の照準にまで理解を深めたい。

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ヒアリングによって、照準が見えてきたらこの段階では十分だ。照準が見える、ということは、結果や成果の幅ばかりでなく、「なぜそうなのか」という相手の状況、考え、価値観といった“奥行き”まで見通しがつき始めた証拠だからだ。

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奥行きまで見え始めたら、今度はその状態で提案を重ねていきたい。ここで目指したいのは「そう、そういうこと!」というよりも「あーー…(言われてみれば)、それもあり(その手があったか)」というリアクションだ。つまりこの反応は、“ファシリテーターがヒアリングによって、AさんよりもAさんのことがわかってきた”ことを告げる合図だからだ。

STEP2 部下で構成されるブレインストーミングやミーティング

そこまでたどり着いたら、場をホールドできる状況を獲得したと同義であるから、Bさんたちとのミーティングに突入できる。そしてここでは彼らの自己選択自己決定で進めていく。また、発案のみならず、実行者は彼ら自身であることから、実践的な会議として進めていく。Bさんらのキャラクターに合わせてモノゴトのルールや仕組みを構築していくことが重要である。

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一口に

Bさんらの自己選択自己決定を促す。

実践的な会議として進める。

キャラクターに合わせてルールや仕組みを構築していく

と言っているが、ここでは「みる・きく」というファシリテーターにとって、基本的な対人スキルや、ちゃんと前進させていく実行スキルが求められる。

スキル①質問力

 ”自己選択自己決定”を促す場合は何よりファシリテーターにとって「質問力」が求められる。オープンクエスチョン(答え方が自由な質問)、クローズドクエスチョン(Yes,or,Noといった選択肢の中から答える質問)を上手に使い分け、相手から「自分はこう思う」という意思や言葉を引き出していくことと、曖昧な部分については輪郭を際立たせていくことが求められる。特に従属関係が強い場合、もともと「自分はこう思う」と表明する機会が少なく、また「言ってしまったら自分に押し付けられる」みたいな状態だったりすることから、最初は中々出てこない。そこをどうときほぐし、「安心安全の場」として認知してもらうわけだが、ここでもやはり「発散」と「収束」を使い分けることが求められる。「とにかくどう喋ってもOKな”発散”の時間」をつくることによって、発言する個人の心理的負荷(言ったらやらされるor言っていいのかな)を軽減させる。そして発散後は、今まで出た意見を見える化し「いろいろ出たけど、どれを選択していきましょうか?」という収束で全員の合意にしていくこと。全員で話し合い、全員で決める、という場をいかにデザインするかで「あ、ここでは言っても大丈夫なんだ」という状況をどれだけ早くつくるかがファシリテーターの腕の見せ所となる。

スキル②表情を見る

と言っても、グループでミーティングする際、なるべく全員が喋ってほしいが、喋りずらそう、、、と言うか、喋らない人は少なからずいる。その時思わず「何か意見ある?」とオープンクエスチョンで訪ねてみても「…いや、別に…」となるので、クローズドクエスチョンで聞いてみると良い。無表情で動かない人、手元で遊んでいる人、上を見ている人、首をかしげている人に遭遇した場合は、そう尋ねてみるのが効果的だ。ファシリテーターは発言を促すばかりでなく、全体を観て、発言しない人たちの表情や仕草についても敏感になっていたい。きっとそれは今とは違う言葉を持っている合図なのだから。

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 ここでのクローズドクエスチョンは「今までの意見に賛成?反対?」という類ではない。そもそも発言をしていない、ということは、発言しない理由があるからと理解しておきたい。問題は”発言しない理由が他の人たちはわからないし、ファシリテーターもわからない”ということなのだ。だからこそ、ここでのクローズドクエスチョンは「みてるとずっと〜な状態だけど、話の流れが早かったり複雑だから、その流れを掴むために整理するために考え込んでいる?もしくは、出ている意見に疑問や質問があるけど、言うタイミングがなかったから?それとも全然意見を持っているとか?」といった選択肢から選んでもらおう。選択肢から選び、Yes or Noで答えられる、というカタチは最初の一言目としてはいいやすいと思う。こういう時ほど、議論の展開点になることが多いので、沈黙気味な人には要所要所でこのような促し方をすると実は全体の促進率は上がるし、場の安心安全の度合いは上がる。

スキル③プロジェクト議事録に応じた進行力

 安心・安全な場ができ上がりつつあれば、今度は実行を前提として煮詰めていく話し合いをファシリテートしていく。Bさんらの意見をすくい上げ、Aさんとのヒアリングで確認した幅と奥行きの中から「場が納得する・温度があがる」反応を引き出しながら内容を決めていくが、作成する議事録の項目から抜け落ちる事項がないように進めていく。”議事録”と言うと「誰が何を話して、どうだったか」という発言者や何を言ったか、みたいなものを想像するかもしれないが、プロジェクトにおける議事録では「誰がどう発言したか」がわかることは却ってリスクになるし、議事録作成にエネルギーや時間を無駄に使用するのはもったいないので、なるべく簡潔にする方が良い。必要な項目とは「会議の目的」と「それに応じた決定事項、未決事項」「今後の動き」や「役割分担」がハッキリされていれば十分だ。

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 その都度その都度「前進している」という実感を伴ってもらうことと、プロジェクトがブレないということが大事であり、議事録はそれを支える屋台骨となる。また欠席者が次の会議の時に決定事項を覆すようなことを言って、ふり出しに戻る、なんてこともプロジェクト会議ではあるあるネタだが(本当はソレを避けるために議事録があるのだが、これを盾に強固に「前回、これで合意したから反論はなし」というやり方では決裂してしまう)、「決定事項となっているけど、このままでは全員が納得して進められないので、一旦前回の議題に戻るということで良いでしょうか?」と伝えて合意を図った上でもう一度議論し直すのと、曖昧なまま同じような話題をするのとでは、場の納得度は大きく変わることも伝えておきたい。

 また何度もプロジェクトの会議をしていると、目の前の議題ばかりに気持ちが取られて「そもそも何を目指していたのか」と言ったことが見失いがちになる。併せて、回数を重ねていると、プロジェクトの芯になるキーワードが合意されていくようになるため、それについては一回限りの議事録だけの掲載にするのではなく、毎回冒頭に書き記す。冒頭に毎回書かれ、そして徐々に追記されていくことでメンバー全員に意識化されていくことと、前進している感が生まれるのが重要なのだ。

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スキル④メンバーに合わせた進め方のデザイン(役割分担のコツ。よく観る)

さて、発言しやすい場づくりや実行していくための議論と議事録の作り方が進めば、あとは「誰が何を分担する?」ということである。もし、その分担もフラットな関係で1から決められるのなら、参考にしてもらいたいコツがある。ソレはズバリ「イメージが見えている人が担当する」である。議事録に応じた項目について話し合い、各自の宿題となる資料作りや作業を分担するわけであるが、その際、ファシリテーターは「じゃあ、お任せします」というのではなく、宿題をやる際に、担当者が「実はどうしていいかわからなかった」という事態を避けるためにも、「〜なイメージで資料を作って欲しいんですけど、わかります?」と言った投げかけを場にする。その時、まっすぐ目を見て、頷ける人に、今度は「どのソフトを使って作ります?」「どういう順序で進めます?」みたいな質問を投げかけることで、細部にわたって答えられるならば、その人に担当してもらう方が良い。これをするとできる人に仕事が集中するじゃないか、という風に聞こえるかもしれないが、実はそうとも限らない。モノゴトの進行や進め方を整理するようなフローチャート資料作成は理数系思考をもった人が得意だし、書類や資料をわかりやすく管理しやすくするのは合理性が強い人、ルールなどTODOリストなどは事務処理能力が高い人など、得手不得手は幅広い。むしろ、仕組みやルールを作成していく際には、チームの得手に寄り添ったカタチの構築が望ましい。不得手なことを仕組みにしても、結局は運用されないからだ。

STEP3 ボトムアップ型の合意

 さて、Aさんへのヒアリングで確認した幅と奥行きの間で紡いだBさんらの意見や役割分担やルールなどを決めた会議のあとには、結論を組織の決定事項とするために、最後の段階でようやくAさんに合流してもらい、Bさんらの中から誰かにプレゼンしてもらう。「自分たちは今回、このように考え、このように実行していきたいと思っている」と発言することは、やはり力が宿る。そして、ソレをAさん(上司)がその場で「なるほど、わかりました。〜だけには気をつけて進めてくださいね」と短くコメントし承認することで、チームとしての達成感が得られる。

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こうした進め方が従属関係のある組織の中で一つの型として定番化していけば、プロジェクトのプロセスデザインは成功である。一見するとファシリテーターが関わることによるAさんBさんの割かれる時間は、ファシリテーターがいない進め方と比べてもそれほど違いはないかもしれないが、チームビルディング、ボトムアップ型の組織形成など長期的なメリットを考えると、ファシリテーターが関わる意義については理解してもらえると思う。

なお、今回は会社といった組織内プロジェクトを想定して書いたが、学校の生徒と先生という閉じられたコミュニティで行うワークショップとも実はこの構造は似ている。

事前に校長先生や先生に学校の雰囲気、クラスの雰囲気を確認し、子供らとファシリテーターによってモノゴトを決めて行ったり、ワークショップを行う。こうすることで、勉強とスポーツに限らない、いつもと違う序列や関係性が発生し、「あのこ、あんな生き生きするんだ」みたいな風通しが生まれたり、クラス内での生徒一人一人の見え方も変わって、豊かな関係性が出来上がる。

さて、今回は組織に代表されるような従属関係にあるボトムアップ型のプロジェクトのプロセスデザインについて、いかにナナメの存在を機能させていくかについて述べてきたが、次回は、さらに日常の固定化した関係性の中にあえてエラーやバグのような仕掛けを施すことによって、思いもがけない関係や交流、コミュニケーションが発生するナナメの存在への番外的なことを記述していきたい。

ナナメの存在に幅広い理解を深めることこそ、ファシリテーションが発揮される状況への判断力が身に付くと思うからだ。

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今までのnote記事
<プロジェクトのHOWTO もしくはAtoZ>

・はじめに
「平成」という時代とファシリテーター、ワークショップデザイナーに至るまで

・プロジェクトが始まる前に気をつけたいこと
プロジェクト型チームの危険性と心構え

・さあ!スタート!そんな時に
【コトの立ち上げ方、進め方】

・プロジェクト、少し慣れた頃の次のステップ
【プロジェクトが拡がるコツとチームづくりの一歩】

・プロジェクトを拡げるにはチームづくりから!
【プロジェクト型チームを作るコツと注意点】

・プロセスで衝突しがちな「そもそもさん」「とりあえずさん」
【ナナメの存在とプロセスデザインの話】

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今までのnote記事
<ワークショップの記録と振り返り>

「HOW TO or NOT HOW TO」(アイデア創出系)

「ツレヅレ市場弁当」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)

「ワイルド午後ティー」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)

「いつも何度でも(ワークショップデザイナーver)」(学びなおし系(メタ認知促進型))



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