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生きているだけで "◯◯"

最近イラストレーターまがいの仕事をしているので、納品後に邦画3本を観るという最高な時間を過ごしていたけどめちゃくちゃ心に土足で上がってくる映画をみたのでメモ。ネタバレ嫌だと読まないでください!

https://filmarks.com/movies/78260/reviews/79064905

主人公の寧子(やすこ)は鬱で過眠症なので人のようにまともに生活力がなくて、転がり込んだ彼氏とも言い難い男・津奈木の家で寝て過ごす毎日で。

ふとしたきっかけにカフェでアルバイトするようになって、社会復帰していくようにみえるんだけど、他者の『人を理解しない心』とか『取り繕うちぐはぐな言葉』の違和感が見え隠れしていて

終盤で寧子は大爆発する。

言わずもがなバイト先は最低な辞め方で飛び出し、自分の少しずつ積み上げてきたであろう社会復帰までの微かな自信も粉々に大破させて最終局面に向かう。

寧子という人間は、普通の人間だったら人にそんな心のつるつるの無垢な部分なんか見せることってないでしょう?みたいな部分を曝け出して生きている。ただし津奈木、実姉の前でのみ。

カスカスのしゃがれ声で愛嬌もなく相手が嫌がりそうなことをあえて言ったりもする。

癇癪も起こすし、嫌なことを平気で"嫌だと感じています私、今からウザいを体現します"と言わんばかりにあからさまにモノにあたったりぶっきらぼうな態度をとったりする。

そんな彼女が周りに急かされたり、鬱の状態が少し寛解して気分が良くてちょっとハイ(躁)になっちゃっているときに、いつもと180°違うこととか、絶対に明らかにやらない方がいいのに頑張ってしまう場面があった。

それはいつも疲れながらにコンビニ弁当を2種買ってきて、寧子の好きな方を食べさせてくれる津奈木にごはんをつくってあげようとしてしまう場面だ。

私は診断がついて鬱になったことはないけど、きっと誰しもがその危ういラインにまで行ったり来たりすることがある機会に見舞われるのは不自然なことじゃないと思う。

そういう機会(受診には至らなかったけどかなり抑うつ状態になったこと)に見舞われてしまったことがある私は、寧子の津奈木の食べたい晩ご飯を❶買い出しに行って❷つくってあげるという行動に対して『そこまでやっちゃうとヤベェんじゃないのかそれは』と素人ながらに思った。

だって❶をする前にまずは津奈木が食べたいと言ったハンバーグと目玉焼きに必要な材料を把握して買い物には行かなくてはいけないし、❷の料理という行為をするには作業工程が多すぎて、材料を切る、混ぜる・焼くなどする、盛り付ける、洗い物をするなどの複雑な作業は鬱の状態にある人にとってカナリハードルがたかいんじゃないかと心配になる。

案の定スーパーでは挽肉が売り切れていて、玉ねぎは傷んだものしか残っていない、卵を買えば人にぶつかって割れる。

家に帰ったら絶対になきゃいけないと思った味噌汁の味噌を買い忘れ、気分を紛らわせるためにタバコを吸おうとしたら何のタイミングでかライターはオイル切れ、イライラして電子レンジを起動させるとブレーカーは落ち、真っ暗に…。寧子はブチ切れて叫びながら泣いていた。

同じ境遇かとか、心の感じ方が似てるかどうかとかは置いておいて、かくいう私も白か黒か、0か100かとかで物事を考えてしまうバキバキの人間なので、挽肉がないってなったら狼狽するし、買い忘れに失望するだろうし、たまたまつかないライターに向かってなんで今日なんだよってキレ散らかすだろうし、多分泣くと思う。

こういう誰にでもありがちな偶然起こる小さな不幸の連続は、怒りの琴線に触れてすぐ大爆発を起こしやすい。

そんな寧子を壊れ物を触るかのような、大丈夫大丈夫などと楽観的に励ます周囲の人間の立ち振る舞いへの違和感がつもりにつもり、寧子はひょんなきっかけからせっかく築いてきたその人間関係を木っ端微塵に破壊する。

よくないのはわかってるけど、いつも本腰入れて何事にも感情レベルを高めにしてぶつかっている自分にとって、"機嫌を損ねないような"、"当たり障りのないような"、"猛獣を怒らせないような"言葉選びや行動の選択は単なる侮辱で怠慢で、真摯に向き合おうとしない不誠実な人間だと写ってしまう。

それが積もると全てをサラ地に戻そうみたいな感覚でダイナマイトみたいなものを使って大爆発させて終焉させてしまうような危うさがある。

その寧子の姿が妙に自分の中にあるものと重なってひどく痛々しかった。

真正面でぶつかって、同じくらいの熱量で苦しんで欲しい。話してほしい。

私は私と付き合うことをやめられない、私を辞めることができない、生きてるだけで疲れるしつらい。

みたいな言葉(曖昧)がめちゃくちゃ痛々しかった。

アドラーの嫌われる勇気を勧められたり、怒る方が疲れるじゃんと鼻で笑われたり、自己啓発本を読み漁っても、わかっているふりをして何も分からずに自分の心をケアしていない自分の存在をひどく可哀想に思ったからだった。



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