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こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち/渡辺一史

一言でいうなら、すごい、としか言いようのない本でした。

副題のごとく、筋ジストロフィー患者とその生活に関わるボランティアたちのノンフィクションです。でも、巻末の解説(山田太一)にあるように、「よくある本ではない」。
そもそも中心に据えて語られる鹿野氏が世間的な患者のお手本のような人ではなく、しばしば「わがまま」と表現され、気に入らない(?)ボランティアには「帰れ!」などと罵声を飛ばすような人です。なのに、なぜか少なくない人が惹きつけられる、という。
それは鹿野氏がもともと持っている魅力というよりは、病気があるゆえに、生きていくために身につけざるをえなかった“人間力”なのかな、と。
終盤の、鹿野氏の死(通夜、葬式)に駆けつけた人の数や描写から、「人間の幸せって何だろう」と、考えてしまいました。

私はついつい「他人に迷惑をかけないように」と考え、またそれを子供にも押しつけてしまいます。
でも、かけていい迷惑もあるに違いない、とこの本を読んで思いました。というより、むしろかけたほうがいい迷惑もあるのでは、と(そもそも、一切迷惑をかけずに生きていくのは無理だと思う)。
自分の弱さを他人に見せる強さというか、他人に助けを求めることのできる図々しさ=強さというか。そういう社会は、暮らしやすそう。

キレイゴトをなるべく排除して、裏のキレイではないことも書こうとしている本だと思いますが、それでも書かれていないもっとドロドロしたものもあったと思います。
鹿野氏とどうしても合わず、とても傷ついてボランティアを辞めた人や、何かいきちがいがあって辞めざるをえなかった人、本に書くことははばかられるような諸々……。

決して薄くはないページ数の本なので、最初のほうを読んでやめてしまう人もいるかもしれません。
でも、どうか頑張って半分まで読んでみてください。
そうしたら、もう最後まで読まずにいられないんじゃないでしょうか。私はそうでした。

「自助、共助、公助」と、“とにかくまず自助で”と言う“公”の人に読んでほしいな(笑)。

映画化もされています(私は観ていません)。


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