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2021年、楽曲オタクが"泣いた"楽曲10選

この記事は「楽曲オタク Advent Calendar 2021」1日目の記事です。

お世話になっております。namaoziです。
毎年恒例になりつつある「楽曲オタク Advent Calendar」(以下、「本アドカレ」もしくは「アドカレ」)は今年で3回目の開催となりますが、本アドカレは以下のような企画目的で開催されています:

  1. 自分の知らない音楽を知る機会をつくる」こと

  2. アウトプットの機会をつくる」こと

  3. 音楽を語る人をふやす」こと

音楽を語るのは、とてつもなく大変なことです。耳で聴いて感じた抽象的なことを、具体的に言葉にしなければなりません。私自身、思いを言葉にするのはいつまで経っても得意だと思える領域に達せておらず、毎回悩みながら・苦しみながら言葉をひねり出しています。

この抽象→具体の言語化の過程は非常にクリエイティブで、音楽を作る過程に勝るとも劣らないほど創造的であると私は考えています。

しかし、音楽を語るにあたって、読み手に面白いと思ってもらうことはさして重要ではありません。文章がうまくなくても恥ずかしがる必要もありません。重要なのは「思いを精いっぱい言葉にしようと試みること」だと思っております。

さて、アドカレの記事ですが、去年は「思い出の楽曲10選」と銘打った文章を書きました。今年も2021年に聴いた楽曲で記憶に残った10曲を紹介する文章を書こうと思うのですが、少し違った切り口で、私が泣いた楽曲を10曲紹介したいと思います。

みなさんは音楽を聴いて泣くことはありますでしょうか。私はまれに感涙することがあります。ハリウッド映画のキャッチコピー「全米が泣いた」はあまりにも有名ですが、映画でも本でも音楽でも、それを鑑賞して「泣いた」というのは、受け手として最上位の体験であり、かつ作り手への最上位の賛辞なのではないでしょうか。

今年はなぜだか音楽を聴いて泣くことが多かったように思います。ある意味感受性が豊かになってきているのかもしれませんね。私が思い返せるだけで10曲以上ありましたので、その中から特に紹介したい"全俺が泣いた"楽曲を10曲選び、当時のツイートを振り返りつつご紹介いたします。お楽しみいただければ幸いです。

※2021年にリリースされた楽曲とは限りません。
※非常に私的な語りになっていますが、それはこの記事の信念に基づいて書いているからです。
※以下では「である」調で記事を書きます。

1. 星をめざして / 芹沢あさひ (CV.田中有紀)

作詞:下地悠
作曲・編曲:三好啓太

1曲目はアイドルマスターシャイニーカラーズ(以下、シャニマス)のアイドル・芹沢あさひの初のソロ曲『星をめざして』を選んだ。リリースは1月20日。

シャニマス(283プロ)は、無印アイマス(765プロ)のシステムを受け継いでおり、キャラクターの数がシンデレラやミリオンなどに比べて少ないかわりに1人1人のキャラクターのエピソードが豊富に用意され、キャラクター性の掘り下げが深く行われているアイマスブランドだ。

そのシャニマスは2018年4月にローンチされて以降、ユニットで歌う楽曲しか出さない姿勢を貫いてきた。それがついに「ソロ曲を歌う!」とファンの間で話題になりリリースされたのが2021年の1〜3月だった。

283プロにスカウトされたアイドル・芹沢あさひは弱冠14歳ながら、作中でも「天才」と呼ばれるほどの才能を持つ。一方では、自由奔放で固定観念に囚われず、人から何かを押し付けられるのを嫌う。そんなユニークなキャラクターが一体どんな楽曲を歌うのかを、私は非常に楽しみにしていた。

そんな芹沢あさひが歌うソロ曲・『星をめざして』は「自由奔放」を音にしたような楽曲に感じる。イントロのリフからは、くるくると回る地球や、気ままに遊び回るあさひの姿を思い浮かべる。非常にキャッチーなイントロの47抜きメロディやマリンバのサウンドには星野源のテイストを感じる方も多いのではないだろうか。

私が感涙したのはもちろん、2番のAメロだ。ここまで4拍子で進んできた楽曲は突然制御を失う。コミカルなイントロのリフが曲のオケとポリリズムを奏でるように、自由気ままに進んでゆく。メロディラインも1番のAメロとは異なり、歌詞も「飛んで 飛んで 飛んで いくよ」と3拍子のリズムを強調し、聴衆を欺くかのように軽やかに、”芹沢あさひ”が世界を跳ね回る

芹沢あさひは他の追随を許さない強いカリスマ性を持つアイドルだ。あさひのプロデューサーですらもあさひの扱いに手を焼き、彼女を理解しようと奔走する。そんな彼女の持つ世界観とそれに追いつけない周りの人々との関係性を見事に音風景として描写した楽曲に感動を禁じ得なかった

リリース当時の初見の感想は見つけられなかったが、しばらくしてから私はこのような発言をしていた:

作編曲の三好啓太さんは私が最も敬愛する音楽家のひとりだ。特に「ぺのれり」としてリリースしたアルバム「Floating Sweets World」は、私が最も愛してやまないアルバムの1つである。今や入手困難になってしまっているのが悔やまれる。


2. 雨色回遊 (feat. 紡音れい) / Ray_Oh​

気鋭のトラックメイカー・Ray_OhさんがMOTTO Musicという音楽レーベルにてリリースした楽曲。歌唱はVTuberの紡音れいさんが担当されている。

この楽曲の素晴らしさはダイナミズムにある。イントロは曇り空を思わせるような仄暗い空気感のなか始まるが、楽曲は徐々に表情を変えてゆく。この楽曲は1番の中にサビとおぼしきセクションが2つあるのも特徴的で、サビAのビルドアップで雲間から太陽が顔を出してゆき、ドロップのサビBでエモーショナルを爆発させる。1周の展開のなかで、まるで1日が過ぎていくかのようなドラマがあるのだ。

この楽曲のエモーショナルさを加速させているのは、非常に綿密に組み上げられたハーモニーの和音だ。コードを1つ1つ書き下すことはしないが、サビA→Bの進行は注意深く練られており、並々ならない複雑な進行になっている。並のコンポーザーでは「複雑な進行を使いたい!」という意志がどうしても先行してしまいがちだが、Ray_Ohさんはハーモニーを完璧に飼いこなしている。和音の配置により、メロディラインの軌跡がテンションノートに位置する工夫もされており、聴く者の琴線に触れてゆく。

私が感涙したのはDメロ。Ray_Ohさんの最大の持ち味である、情報量過多と言えるほど音数が多いオケが倍テンで始まる。私はここで人生の走馬灯を見ているような感覚に陥る。感情のざわめきが理性より先立ってしまい、私は涙を堪えられなくなる。

浮かない気持ちの時でも『雨色回遊』を聴きながら街角を歩けば、きっと気分は晴れやかになることだろう。是非とも、いや是が非でもたくさんの人に聴いてほしい楽曲だ。

なお、私がRay_Ohさんを知ったのは2020年、秋M3のサークルチェックをしていた時にただならぬトラックをひっさげていたツイートを発見したのがきっかけだった。その時に出会った「Eternal Rouge」はRay_Ohさんの様々なテイストのカワイイ楽曲を存分に味わえるオススメの作品である。


3. ただいま / 一条 蛍 (CV.村川梨衣)宮内れんげ (CV.小岩井ことり)越谷夏海 (CV.佐倉綾音)越谷小鞠 (CV.阿澄佳奈)

作詞・作曲:ZAQ
編曲:松田彬人

2021年1月期に放送されたTVアニメ「のんのんびより のんすとっぷ」のED『ただいま』を選んだ。のんのんびよりのTVアニメは2013年に第1期、2015年に第2期が放送されており、私を含めたファンは第3期を心待ちにしていた。それが6年越しに放映されたのがこの「のんのんびより のんすとっぷ」だった。

私はこのアニメをほぼ毎回リアルタイムで見ていた。おそらく半数近くの回を涙を流しながら見た。『ただいま』は間違いなく2021年最も私の涙を搾り取った楽曲である。

この楽曲の素晴らしさについては、作詞家の八城雄太さんと私がアニソンを聴いて語るラジオ『やしなまアニソン勉強会』の第13回で存分に語ったので、そちらをぜひ聴いてみてほしい。

以下に私が感極まっているオタクツイートをいくつか紹介する。コンテンツへの、楽曲への思い入れをご想像いただければ幸いだ。


4. 夜明け色ホール・ニューワールド / 青田圭

作詞・作曲・編曲:青田圭
Vocal:安田みずほ
Guitar&Bass:凪沙かにも
Drums Programming:Happiya
All Other Instruments&Programming:青田圭

私のtwitterをフォローしてくださっている方ならば、私が頻繁にこの楽曲の良さを喧伝していることをご存知であろう。私が2021年最も多く言及した楽曲、それが『夜明け色・ホールニューワールド』である。

この楽曲については、以下の記事でかなりの長文で語っているので、楽曲自体の感想については以下を参照してほしい。

上の記事を書いてから半年以上が経った今も、この楽曲はかなり頻繁に聴いており、私の中で2021年を代表する楽曲として大きな輝きを放っている

改めて聴いてみて思うことは、純粋な思いが込められた楽曲が大好きだということだ。思いの結晶が音になった楽曲は、いつまでも輝きを失わないのだろう。この楽曲に出会えたこと、この楽曲が生まれたことに感謝の念に堪えない。歌詞も大好きなので是非とも味わってみてほしい。

なお私が一番好きなのは、落ちサビからアウトロにかけての展開である。「格好もつかず保証もなく でも夢なら どうしようもなく 抱えきれないくらいに抱えて 生きてゆこう」という決意で歌が終わり、そこから喜びを爆発させるアウトロが始まる。このアウトロがどうしようもなく好きで、今でも毎回感極まってしまうのだ。

5. スリーピングドリーマー / CHOUX


私がこの楽曲、ならびに作者のCHOUX(しゅー、と読む)さんを知ったのは、2021春M3の時。Ray_OhさんがCHOUXさんのアルバムにリミックスで参加しており、告知ツイートをしていたのが直接のきっかけだった。

このアルバム「HEART BEAT ORBIT」はCHOUXさんが音街ウナをフィーチャーした楽曲をあつめている。その中の4曲目、『スリーピングドリーマー』を選んだ。

この楽曲はとにかく純粋な気持ちを思い出させてくれる楽曲で、なおかつ『雨色回遊』で語ったのと同様に、複雑な和音の進行を繊細に組み上げて作られていて、私の琴線に触れてくる。
特に、以下に貼るツイートでも語っているが、サビの『その気持ち「オトナ」になっても忘れないでね きっと…』のフレーズが歌詞も和音もサウンドも素晴らしく、何度聴いても感極まってしまうのだ。是非とも聴いてみてほしい。

なお、CHOUXさんの歌モノ楽曲の和音の使い方や感性にはRay_Ohさんのそれに通ずるところがあると私は感じており、両氏が互いに絶大な信頼を置いているのも頷けると思っている。

6. 夏色DROPS / GEMS COMPANY

作詞:辻純更
作曲・編曲:瀬尾祥太郎

MONACAの誇る俊英・瀬尾祥太郎さんがGEMS COMPANYに書いた楽曲。

この楽曲がリリースされた2021年7月28日は、オリンピックを目前に控えているなかで新型コロウナルイスの感染が再び急拡大していた頃で、何度目とも分からない緊急事態宣言の再発令で世間に負の感情が満ちていた頃であった。
そんな中、グラマラスなサマーバケーションを思わせるこの楽曲がリリースされた。真夏の太陽を浴びながら、バケーション気分を満喫していたことを思い出す。

この楽曲はリリース直後に聴き、あまりの良さに興奮しながら楽曲の感想をツイートにしていた。

特筆すべきはコーラスの美しさ。合唱出身である瀬尾祥太郎さんが生み出すコーラスは、誰にも引けを取らない美しさを湛えている。GEMS COMPANYのように大所帯のグループにおいては、瀬尾さんの良さが特に存分に発揮されると言えるだろう。

私の感涙ポイントは、3:18からの間奏ともDメロとも言えるセクションだ。「オーエス!Say Yes!」の掛け声のあとに「ラララ」っとメンバーが合唱するパートがあるのだが、この合唱があまりにも繊細で美しいハーモニーを紡ぎ出しており、私は感極まって泣いてしまう。是非とも内声の動きに着目して聴いてみてほしい。合唱の裏で後藤貴徳さんの泣きのギターがさらにエモーショナルに拍車をかけているのも素晴らしい。

また、この楽曲のEarth Wind & Fire然としたリフからは、田中秀和さんの『Never Was The Cloudy Twilight』や『刀身をやさしくタップ』などといった楽曲を思い起こすし、グラマラスなサマーバケーションの音風景からは石濱翔さんの『GLAMOUROUS BLUE』を想起する。往年のMONACAカラー も存分に味わえる2021年の名作と言えるだろう。

なお、今や公式となったMONACA Wikiを見たら、なんとこちらでもほぼ同様の楽曲紹介がなされていた。おそらく曲評を編集しているであろうMONACAの今川凌さんへの信頼が高まるばかりであった。


7. Primary / Rita

作詞:marie
作曲・編曲:MANYO (LittleWing)

この楽曲は2021年ではなく、2009年リリースの楽曲であるのだが、あまりにも私好みの楽曲に出会えたことの感動で、私の中では2021年で非常に思い出深い楽曲の1つとなっている。

この楽曲と出会ったのは6月のこと。偶然の出会いだった。

私は見たことのないアニメやプレーしたことのないゲームのサウンドトラックを聴くのが好き、という卑しい趣味を持っており、サブスクでサウンドトラックを聴き漁っている。許しがたいと感じるアニメやゲームのファンもいると思うが、私はジャケットやブックレットといった限られた視覚情報と音楽だけで作品世界を味わって好き勝手想像するのが好きなのだ。

私は今年6月に職種を変えてみたのもあり、普段の行動の中で今までやったことのない新しい選択肢を意図的に取り入れるようにしていた。この曲と出会ったその日は、中古CDショップで気に入りそうなCDをジャケ買いしてみよう、という小さな思いつきを実行し、選んだのが「Primary」というR18美少女ゲームのサウンドトラックだった。

この楽曲の感涙ポイント。まずはイントロ。年代を感じさせつつも上質なバイオリンのアルコとピチカートの音色。そしてなにより、ハープのグリッサンドのあとに控える、ありえないくらい低い音域のギターリフなんと最高音が1弦の最低音よりも低い。この低くて伸びやかなギターは、私に「温かい」「懐かしい」という感情を与えている。
美少女ゲームで頻出する、Bメロでの突然の転調。サビではスネア頭打ちのリズムになり、素直な4536進行の上にどこまでも伸びやかなRitaさんの歌声が響く。そして間奏で再度イントロの調に戻り、例のギターリフ。素直で純粋な気持ちを思い起こさせる。

この楽曲にハマって改めて思う。私は2000年代の美少女ゲームテイストの楽曲が大好きだ。今や懐かしむ対象にすらなってしまった「萌え系」オタク文化の中で、素直で明るく、しかし少しあざといような音楽が大好きだ。

ちなみに、なんとこのサウンドトラックのCMムービーというものがYouTubeに存在するのを発見した。2000年代のもはや”古き良き”美少女ゲームの雰囲気を満喫してみてはいかがだろうか。


8. 2 Polskor efter Schedin / MUJI BGM

作者不明(インターネットで軽く調べただけでは分からなかった)

この楽曲は、2021年に配信が開始された無印良品の店内BGMの楽曲である。
無印BGMは02〜25の24作品が配信されており、私が選んだ『2 Polskor efter Schedin』は「08 Stockholm」に収録されている。

感涙ポイント。情景と和音の美しさ。ここまではっきりと音楽から光景を想像できる曲も珍しいのではないか、と私の主観では感じている。以下、私の脳内イメージを言語化してみた。何か共感するところがあれば嬉しく思う。

天空へと続く、純白の階段。
その先には開けた場所があった。
陽の光がまばゆく、あたりは白んでいる。
ふたりはここで音楽を奏でている。
ひとりは大きなグランドピアノを弾き、ひとりはバイオリンのような弦楽器。お互い目を配ることもなく、互いを知り尽くしているかのように、美しい旋律が奏でられている。

「バイオリンのような」と書いたが、楽曲からフレットのような木の軋む音が聴こえるのと、ストックホルムの音楽であることから察するに、ニッケルハルパの音であろう。

そして私が感極まるのは、1:54と2:00, 3:45と3:52の地点の一瞬の和音である。2つの楽器、ふたりの演奏家が生み出したこの一瞬の煌めきに、私は感動を禁じえない。
野暮なことを言うと、ピアノが力強く B7(#9) の和音を鳴らす上で、ニッケルハルパがGメジャーのスケールノートをなぞって登りつめ、B7(#9, b13)のようなテンションが成立するアッパー・ストラクチャー・トライアドになっている。

いくらピアノが楽器の王様で、ひとりでたくさんの和音を奏でられるといえども、この一瞬の和音は2人でなければ絶対に出せない響きだ。上で書いた音以外にも繊細なハーモニーとメロディに満ち満ちた情感あふれるこの楽曲、是非とも堪能してほしい。

なお、この無印良品BGMについては、ケルト音楽に造詣が深い作編曲家の水里さんが素晴らしい記事を書かれている。こちらも是非参照してほしい。


9. Little Universe / 山本真央樹

作曲・編曲:山本真央樹

山本真央樹さんの1stアルバム「In My World」より『Little Universe』。この楽曲の感想や、聴いて感涙した経緯については以下の記事に詳しく語っているのでよければ見てほしい。

インスト曲でありながら、キャッチーで最高にハッピーなメロディー。あっけらかんとした明るさは、逆説的に深い悲しみを乗り越えてきたことすら感じる。楽しさ全開、幸せ爆発の音楽に、私は心を揺さぶられる。

この記事では私が泣いた楽曲を紹介しているので選ばなかったが、単に2021年の楽曲10選を作るとしたら、私はこのアルバムのタイトル曲『In My World』も追加で選ぶだろう。22分55秒間の山本真央樹さんの音世界、未聴の方は是非とも味わってみてほしい。


10. Growing♡Dreaming / 夢芽

作詞:夢芽、namaozi
作曲・編曲:namaozi

最後は自作曲『Growing♡Dreaming』を選んだ。
この楽曲はボーカルの夢芽さんに全てを託しているので語るのを避けていたが、この場で再び紹介することになったので、少し思いを書いてみることにする。

この楽曲は作る過程の苦しさと悔しさで、出来上がったあとの喜びでそれぞれ泣いている。

私はこの当時歌モノ楽曲を4曲書いた経験があったが、すべて自分が得意なガットギターを活かす形のアレンジであり、作曲経験はごく浅かったとはいえ、自分本位でやりたいことをやれる範囲でやったに過ぎず、誰かのための楽曲を作ったこともなかった。

サークル「MOタク」のコンピレーションアルバム参加募集がかかった時、私はテーマを探していた。そこで思い出したのが、敬愛する元MONACAの田中秀和さんの仕事に対するモットー「作品に寄り添って、シーンに囚われない。」だ。私はこれに倣い、「徹底して歌う人に寄り添った楽曲をプロデュースする」ことをテーマとして制作に取り組んだ。

知り合い、というかtwitterで繋がりのあった夢芽さんが「歌ってみたい」と言っていたのを目ざとく見つけて声をかけ、ご自身の背景を共有いただいたうえで打ち合わせを行い、楽曲方針をゼロから探っていった。「音楽以外の部分を全力で頑張る」、これも制作のテーマの1つであった。

作詞の経験も浅かったので人に寄り添う歌詞を作るのに四苦八苦したし、エレキギターやエレキベースはまともに録った経験が無かったので試行錯誤してレコーディングした。ベースは音作りが分からず楽器屋の店員さんに教えを請い、エフェクターを買ったりもした。「全ての困難から逃げずに正面から向き合う」、これもテーマの1つだった。全てに向き合って作ることで楽曲の思いを強くすることができると考えたからだ。

そうして楽曲が出来上がった時の感情は忘れられない。晴れやかで清々しくて、作った楽曲が自分以外の誰かのために羽ばたいていった喜びに打ち震えた。

私は歌モノ楽曲を作るのはせいぜい年に数回程度で、2021年はこの1曲だけであった。クオリティはこの記事で挙げたような素晴らしいクリエイターに到底及ばないのは重々承知している。
それでも私が楽曲を作る意味があるとしたら、ほんの少しでよいので、自分以外の誰かを変えられる楽曲を作ることだと思う。もちろんそのためにはまずは自分自身が心から大好きになれるくらいの音楽を作らねばならない。今後も折に触れて作曲していきたいと思うが、「私が作る意味」を常に忘れずに作っていきたいと思っている。

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以上になります。2022年も素晴らしい楽曲に出会えるのが楽しみです。


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