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写真漂流 - 天体写真(2)

shot with SIGMA dp2 Quattro
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最近は「星景写真」といって,星空と風景をマッチングさせた写真をよく目にする.日周運動で星を流したのもあるし,短時間露光で切り上げてよりリアルな夜空を再現した写真も見る.

いやほんと,デジタルになって,それも高感度に強いイメージセンサーが普通になってから,天体写真,それも夜空の写真は容易に撮れるようになってきた.レンズも昔と違い視野の隅でも像が流れない,開放付近から高性能なものが数多く販売されている.

そもそもフィルム時代の星野写真といえば,三脚にカメラを固定して,レンズフードとケーブルレリーズつけて,フィルムはTri-Xか富士のSSS,絞りは開放.天の赤道付近なら20秒くらいが星を点像にする限界で・・・とか,わりあい定番的なルールがあった.また何時間にもわたる日周運動を撮影するのであれば,夜露がつかないようにレンズにカイロをくくりつけたりとか.そして現像はパンドール20℃12分で4倍増感・・・いやあ懐かしい(笑).

もう少しハイクラスになると,天体望遠鏡の赤道儀にカメラを載せ,恒星の動き(実際は地球の動き)に合わせて赤道儀を作動させることで,長時間の露出でも星を点像で撮ることができる.これがガイド撮影である(今でもこの言葉は残っているのだろうか?).望遠鏡を覗きながら人が手で赤道儀を操作するのが手動ガイド,モーターで赤道儀を動かすのが自動ガイドと,低レベルからハイレベルまで,星野写真の世界だけを取り上げても,ものすごく幅が広かったのである.

ちょうど40~50年前頃は光害が問題になってきた時期だ.都市部では星が見えないので,暗い場所へ撮影機材を運んで撮影する人が増えてきた(といっても天体写真ファンの中だけの話だが).望遠鏡のセットを運ぶのは大変だからと,撮影専用のポータブル赤道儀を自作して,それで星野写真を撮る人たちも現れた.

何を隠そう私もそのポータブル赤道儀を自分で作って,実際に星野写真を撮影した者の一人である.総金属製で精度はそこそこあったと思う.135mmの軽い望遠で数分程度なら問題なくガイドできた.28mmの広角レンズなら最長30分程度の撮影でも星は点像になっていた.これは1986年,ハレー彗星の地球最接近の頃まで活躍した.今にも先にもあれだけ力を入れて物を作ったことはない.たぶん現在でも使おうと思えば使えるはずだ.

ところでフィルムで長時間露光を行う時,大きな問題が立ちはだかる.それは「フィルムの相反則不軌特性」だ.恒星のような微弱な光源では,露光時間を増やしても,乳剤面の黒みはそれに比例して増えないという性質だ.だから5分露出と10分露出とで,写る微光星の数がそれほど違わなかったりする.

これにはいくつかの対処方法があった.感光剤面を極度の低温にする(ドライアイス冷却).あるいは相反則不軌特性の低い天体写真専用のフィルムを用いる.前者では霜が発生しないように真空にするか乾燥剤を封入する必要があった.後者の場合,たしかコダックからフィルムが販売されていたように思うのだが,今調べても判明しなかった.

また長時間の露光中にフィルムがカーリングして,ピンボケが発生するケースもある.よってフィルムを巻き上げたら巻き戻しレバーを回して固定し,フィルムをぴーんと張った状態にしておくのが好ましいとかは,天体写真家の常識であった.このようなノウハウが当時の天文雑誌には満載されていたので,貪るように読んだものである.

さてハレー彗星後も,いくつかの巨大彗星が地球の傍を通り過ぎていった.そのほとんどを撮影したが,いつしか夜の活動が億劫になり,今現在は天体写真からかなり遠ざかってしまっている.

現在居住しているのは大阪国際空港(伊丹空港)に近い地域で,夜空の見え具合は最悪に近い.月とか金星,木星といった明るい星しか写真の対象になりえないのが残念である.いつか空の暗いところへ出かけるような機会があれば,高感度に強いデジカメと明るいレンズで星空を写してみたい,そう考えているのだが,いつか夢は叶うだろうか.

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