見出し画像

合唱コンクールとわたし

3年1組は今で言うところの意識高い系だったに違いない。定期テストの平均点だったり体育祭のリレーの着順だったり、とにかく何かにつけて何がなんでも他の2クラスより抜きん出ていなければならなかった。やるからにはなんであれ必ず勝つつもりで、というクラスの一部の目立つ男子たちと一部の派手な女子たちの意向である。もちろんわたしは目がつぶれるほどに輝かしいそのグループに属してなどいない。闇に隠れて生きていた。妖怪人間である。

まるでジャイアンツのように常勝をうたっていた3年1組は事実負け知らずで、合唱コンクールも同様にテッペン獲る気まんまんだった。わたしはピアノ伴奏だったが、楽譜どおりに弾いたにもかかわらず「それじゃ音が取れなくて歌えない」とかイキった女子に言われたりした。しぶしぶソプラノのメロディーを取り入れて弾き直し「それなら歌える。それにして」みたいなことを上から言われ、むしゃくしゃしてやりかねなかった。他のことなら何を言われても構わない。ただ音楽のことをこのわたしに指図するのだけは絶対に許さん。清々しいくらいに厨二だった。

コンクールの日が近くにつれ練習は熱を帯びていった。2組と3組に勝つために。一部の目立つ男子たちと派手な女子たちが「もっと声出せや!」「ちゃんと歌って!」と偉そうに、いや失礼リーダーシップをいかんなく発揮すればするほど、正直わたしの気持ちは冷めていった。なぜそんなにも勝ちたいのかがわからなかった。

コンクールの結果は3位。2組にも3組にも負けたのだ。「なんでらぃや(※新潟弁:なぜなんだ)!」と目立つ男子たちがブチ切れ椅子を蹴っぽったりして暴れ出し、派手な女子たちは「○○くん(指揮者)、あんなにがんばったのに……っ!」と泣いた。ケッ!と思った。○○だけががんばっていたわけじゃない。目立たない男子も地味めな女子もちゃんと一生懸命歌っていただろうが。だいたいモテる○○によく思われたくて泣いているのが透けて見えるんだよ。しかし女子たちは続々と泣き出した。わたしは一体何を見せられているのかと驚愕した。常勝クラス3年1組にあるまじき最下位を、一丸となって嘆き悲しまなければならないのか。なんでらぃや!はこっちのセリフだ。

わたしは最後まで泣かなかった。妖怪人間には本当に意味がわからなかったのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?