歯医者は選べって話

 とはいえ、どうやって選ぶべきなのか、私には正解がわからないのですけれど。

 高校1年のゴールデンウィーク、私はアルタ前にいました。
確か月曜日、ダウンタウンがいいともに出ている日。学校休みだし生ダウンタウン見に行くか!と、ノリで友達と行ったのでした。
 「まっちゃん出てきた!」みたいなザワザワに釣られて、人々が走っている方向へ私達も走る。その時、履いていた靴の金具が外れ、外れた金具を踏みつけた私は盛大に顔面から転びました。
慌てる友達。慌てる私。トイレに駆け込んで、鏡を見る。あれ?前歯が1本長い…伸びた……?
前から左に2番めの歯が根本から抜けてしまっていました。
 衝撃のあまり、家に電話して新宿からタクシーで帰宅。月曜日なので父も休み(実家は床屋)。夕飯は外食だー!とかそんな感じだった気がします。
焼肉食べたけど、顔面からコケて顔は痛いし歯は抜けてるし、肉どころの騒ぎじゃなかった。

 ゴールデンウィーク開けに、抜けた歯とともに近所の歯医者へ。
歯科医に「えー?抜歯って大変なのにー。根本から綺麗に抜けてるねー。どうやったの?これ、牛乳に漬けてすぐ持ってきてくれたらつけられたのにねー。もう歯が死んじゃってるから無理」
と、軽い調子でさらに絶望するようなことを告げられ、私は否応もなく左前歯3本ブリッジという、信じたくない事態になったのでした。
ころんだだけで歯3本失うなんてことある???嘘でしょ??って現実が受け止められない15歳。

 歯医者に驚かれつつ、家の方針で保険適用の安い前歯を入れられた私ですが、この安い歯はその後20年活躍することになります。一度も外れることはありませんでした。よく頑張った。
 30代半ば、ある日、歯が砕けてなくなりました。奥寄りの、左右2本の歯がほぼ同時に砕けました。歯が砕けるという衝撃。慌てて近所の歯医者に駆け込む私。
 砕けた歯はなんと乳歯でした。右側は砕けた後、かろうじて永久歯が生えてきたのですが、左は全然顔を出すことなく、歯茎の中でじっとしています。「この歯はもう生えてこないのでー、左はブリッジにしますねー」って、またブリッジ……!
 ついでにこの時に親知らずを4本抜いたり色々しまして、私はその時に「あ、一緒に前歯の差し歯を高いやつにしよう」と思い立ってしまったのでした。これが地獄の始まりとも知らず。

 一通りの治療が終わった後、医者に差し歯の件を相談したところ、医者はノリノリで「そうですよね!入れましょう!」みたいな。
古い差し歯を取り除き、新たに仮歯を作ったあたりからこの治療に暗雲が立ち込めることになります。

 とにかく差し歯がとれる。ひどいと1日でとれる。前歯3本なので、仮歯が取れてしまうともう会社に行けないのです。マスク必須なのです。滑舌もおかしなことになるのです。
 3日に1度くらいの頻度で、「仮歯が取れたので歯医者によってから出社します」みたいな勤怠の日々。会社の人に理解があって本当に良かった。高校時代の仮歯は、簡易入れ歯みたいなものだったので、こういうことにはならなかったなあ。。でもこんなに取れるもの?と思いながら、本番の差し歯が完成。

  これでもう、歯が取れないように気をつける必要もなくなるー!

 と思ったら、3週間で取れました。差し歯が。30万が。トウモロコシに負けた。

 え、トウモロコシかじっちゃだめだったんだっけ?みたいな、悪いことしちゃった気持ちになりつつ歯医者へ。医者も衝撃を受けていたけれど、実にここから、4回差し歯を作り変えることになります。

 もう全然保たない。1年はおろか半年もたない。最短で2日で取れた。いくらなんでもこれ、医者の技術の問題では?と思い始めた頃に、医者から「あなたは噛み合わせが深いので……多分夜歯ぎしりとかしてるんじゃないかと思うんです。なのでマウスピース作ります。これをして寝てください」と告げられたのです。

 そんなことは初耳だったし、そもそも歯の治療中にそんなことは気づくと思うし、だったら今まで20年間、一度も取れずに頑張っていた保険の差し歯はどうなんだと色んな気持ちが胸の内を駆け巡ったりしたのですが、とりあえず了承してマウスピースをもらいました。
でもさ、マウスピースして寝ることが私にはできなかったんだよ……。
上顎にピッタリ異物がくっついてる状態は無理だったんだ……。歯ぎしりもしてないし。

 で、最後の差し歯を作った折、毎月検診に来なければもう保障は使えないと告げられたのです。毎月……?検診……?
 そしてうっかり1ヶ月が過ぎた頃、再び差し歯はグニャっと曲がるのでした。医者は、「もう保障使えないので……。どうします?歯の根っこに膿が溜まっていますが、これ治療するなら紹介状書くので大きな病院いってください」と、あからさまな厄介払いをしてきたのです。

 正直、この先この医者がいくつ差し歯を作ったところで、長持ちしないだろうと思っていたけれど、母子家庭の30万は非常に大きい出費なわけです。
歯医者だってその数倍の差し歯を作っているわけで、多分赤字になったと思うけれど、でもこれはその医者の腕のせいなのです。
 あの医者は、その前につけていた保険の歯が20年一度も取れていないという事実に最後まで向き合うことはありませんでした。未だに許せないし、医者の名前も病院の名前も出したいくらい悔やんでも悔やみきれない話なんだけれど、出しません。おとなだから。私も悪いところはあったんだろうし。ないけど。

 その後、この歯を治すべくあちこちの歯医者に行くのですが、初診でもう二度と行く気にならないお医者さんだったり、何がなんでもインプラントさせようとするお医者さんだったり、私の歯科医不信がピークになった頃、コロナの世の中になりました。
 その時には、インプラントしか言わない歯科医が作った5000円の仮歯が入っていました。そしてこの仮歯、なんと2年以上とれないままでした。
 こんな感じで徒歩圏の歯医者はほぼ制覇してしまっているし、インプラントだったら100万円みたいな恐ろしい話も頭をよぎるし、現実逃避モードに入った私は、とっくに寿命を超えていた仮歯と4年も付き合ってしまいました。

 先月、とうとうこの差し歯に穴が開いてしまいました。もう限界だ。いや、多分限界は3年位前に迎えていたはず。歯医者を、探さなければ。

 と、ものすごく重たい腰を上げて、ちょっと遠い歯医者にWeb予約を入れたのが先月末。
 診てくれたお医者さんに、今までの経緯をざっくりと話す。
お医者さんは、
「大変な思いをされたんですねえ。お金かけないでするとすれば、保険適用で5本のブリッジにするか、差し歯2本と入れ歯2本にするか、、方法は色々ありますが、他にも治療するところがあるので、ゆっくり考えてください。他の差し歯や詰め物の影響で、かみ合わせが深くなってしまっているんですね。これを放置しておくと、下の歯が浮いてきてしまってよくないので、先に噛み合わせの調整をしますね」
と、いいました。
かみ合わせが深いから取れるんだと言われた話はしていませんでした。
このかみ合わせ、先天的なやつじゃないの?しかも初見でわかるやつなの?今までの歯医者、誰一人そんな事言わなかったけど!
お金をかけたくない、という私の意志も汲んでくれ、それでも色々治療方針を立ててくれる、この歯医者さんで今回はとりあえず最後まで診てもらおうと思います。

 ちなみにインプラントのことしか言わなかった医者は、「差し歯にするなら6本やらないと無理ですねー。そうすると60万ですから。インプラント10万でも値段そんなに変わらないですよ。差し歯なら健康な歯をあと2本削らないといけませんしねー。と言っていたのだけれど、今の歯医者さんは、
「自費の差し歯なら4本で大丈夫です。保険の歯なら5本なので、1本削ることになります」って言っていました。

 ほんとに歯医者は選ばないとひどい目に遭うっていう話。

私は30万溝に捨てて、結局3本ブリッジの保険の歯から5本ブリッジの保険の歯に変わるという、もう何してるんだか意味がわからない事態になってしまっているので、本当にやばいと思ったら歯医者は乗り換えるべきですね。。
 口コミなんてまったくあてにならないのです。だって最初の歯医者は口コミサイトの評価だけは本当によかったんだから。


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