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あびちゃん

 我が家に今いる猫、あびちゃん。多分13歳くらい。
3年前に母から血統書をもらったけど、未だに年齢がよくわからないでいます。そもそも自分の年齢もよくわからなくなるので、これは致し方ない。
とにかくおじいちゃんな猫。
 2年前の6月まで、我が家には雑種の猫がいました。名前はなごや。
20年前くらいにNGOみたいな団体から里子としてやってきた猫でした。彼はよく脱走しましたが、穏やかでクールな猫で、17歳まで生きました。だいぶおじいちゃんであった。
晩年は痴呆になり、1日中「おおーん、おおーん」と犬のように吠えたり、トイレを眺めながらおしっこをする、という面白い粗相をしたりするようになったり、いなくなる最後のさいごまで、大変面白かわいい子でした。
 なごやの最期が見えてきた頃にやってきたのが、あびちゃんです。もううちに来た時点で11歳とかだった。

 あびちゃんは、母の家の猫でした。私がなごやを飼い始めてから、母は最初、ノルウェージャンフォレストキャットという、でかくてもっふもふの猫をお迎えしました。メスでした。
 この子は5歳か6歳くらいの頃に、ストレスから家中で粗相をするようになったそうです。飼いきれなくなった母は、猫を手放しました。
 その後にペットショップからやってきたのがあびちゃんです。あびちゃんはアビシニアンのオス。アビシニアンだからあび。名付けたのは私ではないです。母です。だって母の猫だから。
 アビシニアンというのは、活発で好奇心旺盛で、あっちこっちいたずらしたり走り回ったりする猫だそうで。母は家の中を縦横無尽に走り回られるのを警戒して、あびちゃんの首輪にリードをつけました。リール式の長さが変えられるやつです。
 母の家には小さめのキャットタワーがあって、あびちゃんはそのキャットタワー周辺しか歩けないくらいの長さで繋がれていました。しかも母は、その時の気分や状況でリードの長さを変えるので、あびちゃんが自分の行動可能範囲を学ぶことはできません。
 母の家に行くたび、あびちゃんをみるたび、このヒモをやめなさいと言ってきたのですが、「居ない間にコードをかじったら大変」と、ヒモをやめることはありませんでした。そんなある日、母から連絡がありました。

「あびが凶暴化して手がつけられない。足が血まみれになった。どうしよう」

今まで与え続けていたストレスが爆発したんでしょう、としか言えない私。
怖いならケージ飼いするしかないんじゃない?というと、すぐさま3階建ての猫ケージを買って、それからあびちゃんはケージ飼いの猫になりました。

 私の娘は、なごやの一番の友達でした。娘は猫が大好きです。あびの状態を見ていて、なごやの終わりが近いことを知って、私にいいました。
「あびをうちに連れてこれないかな?」と。
 あびちゃんの状態を見ていて、私は「虐待だなあ」と思っていたし、娘も思っていたのですが、母自身は精一杯あびちゃんを世話しているつもりだったようです。穏やかなときは甘えてくる。でも、いつ、どんなタイミングで凶暴化するかわからないから怖い。というような事を言っていました。
かわいがっているつもりなのだから、あびちゃんを引き取ると言っても絶対に首を縦に振らないだろうな、難しいなと思っていたのです。

 そんな折、母が「犬を飼いたい。散歩に行く必要ができれば運動になる。でもあびがいるから犬は飼えない」と私にいいました。

チャーンス!!!!!!

と、ひらめいた私は、母に「あびちゃんいなかったら犬飼うの?なんだったらうちであびちゃん引き取るよ?」と持ちかけてみました。
なんと母は「え?いいの?」と即答。こっちこそそんなに簡単に手放していいの?と思いましたが、ここから母の気が変わらぬうちに、と、娘と私は大急ぎであびちゃんを迎える準備をしたのです。

 それまで私とあびちゃんは全然仲良くありませんでした。そもそも情が深い系の猫って、飼い主にしか懐かない印象があります。私など年に1回会うか会わないかの間柄だし、会ってもお互い遠くから眺める程度の付き合いでした。
 さらに散々「凶暴化」の話を聞いていたのと、我が家にはよぼよぼのなごやがいる。なごやには本当に申し訳ない事だとは思うけれど、あびのケージをなごやのホームから遠く離せば大変なことにはならないだろう、ということで、家を整理して大きなケージのスペースを作り、3週間程度であびちゃんのお迎え体制を整えました。

 2年前のみどりの日にあびちゃんがやってきました。
先に猫ケージを組み立て、トイレをセットし、キャリーに入れられたあびちゃんがやってきます。知らない場所、知らない猫、知らない人たちの中で、あびちゃんは恐怖MAXだったのでしょう。触れようとすれば「シャー!」って言うし、引っ掻いてくる。
 だけどチュールを見せればすぐさま寄ってきてすごい勢いで食べる。どれだけ怒っていても、パニックになっていない限りはチュールで万事解決する。あれ、この猫ちょろいんじゃ?

 本当は爪も伸び切っていて爪も切りたかったけれど、抱っこすらさせてくれないので様子を伺うしかない。先住のなごやは、近づく度に威嚇してくるあびちゃんのことは早々に興味を失って、マイペースに老人ライフを送っている。
 あびちゃんがうちに来て1週間めくらいの朝、寝ている私の頭になにかもふもふした感触が。あびちゃんが私の頭に体をこすりつけていました。ちょろい。。。
 そこからは徐々に、確実にベタベタ甘えてくるようになり、今ではなごやの10倍甘ったれのおじいちゃん猫になりました。なごやはクールな猫だったのです。

 ちなみに母が散々言っていた凶暴化は、2年の間に2,3回しか見ていません。それも原因がはっきりしていて、不意の大きな音でパニックになって凶暴化する。
 パニックになると、たしかに手を出せば猛攻撃されるのだけれど、頭を出せば大人しくなる。要するにびっくりして怖くて暴れちゃう。
あびちゃんは平時でも、いきなり手が出てくると一瞬びっくりして警戒する。パニックの時に手を出すのは逆効果でしかないけれど、頭を出すと安心する様子。頭では攻撃できないからね。

 あとは実家からもらってきた掃除機のスイッチを入れたときに、今までにない感じのパニックになりました。
 後で母に聞いたら、あびちゃんがいる時に、ケージの中をその掃除機で掃除したと。あの掃除機は、掃除機が見えなくても掃除機の音だけでパニックになったので、相当怖い記憶なんだろうなと思う。当然その掃除機はすぐに捨てました。

 うちに来て、1ヶ月程度で猫ケージは撤去してしまいました。もう全然ケージにいる時間がなかったから。
 室内放し飼いにしていて、怖いとか困ったと思ったことは今までに一度もありません。

 あびちゃんは全く鳴きません。シャー!とかは言うけど、ニャーンて言わない。アビシニアンの鳴き声は大変可愛いそうで、聞いてみたいのだけれど、あびちゃんは鳴きません。
 母親と一緒に暮らしている弟に、あびちゃんて鳴かないねーと言ったところ、「うちではすごく鳴いてたぞ」と。
 母の家は2階建てで、母は日中1階にいます。あびちゃんのケージは2階。弟の部屋は2階。
弟が仕事から帰宅して、階段を登っていると必ずあびちゃんが鳴いていると。おそらく足音を聞いて「構ってよー」って鳴いてたんだと思う。必死だったのだね、あびちゃん……。

 うちにいるあびちゃんは、寝ているか私の膝の上に乗っているか、いたずらしているかのどれかで、目がさめたら必ず私に構われにやってきます。
こんなに人と触れ合いたい子が、長い間、本当に長い間ケージの中で過ごしていたことを考えると、いたたまれない気持ちになります。

 うちに来たのは11歳。アビシニアンの寿命はだいたい15歳。ほとんどの猫生が過ぎてしまったけれど、せめてこの先の最期までは、寂しい思いをすることなく、のんびり暮らして欲しいなと思っています。

 さいごに、なごやとあびちゃんのお顔を載せて置こうと思います。

なごや
あびちゃん


 


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