COMFORT


エピソード1 詐欺被害
        
もうすぐ娘「ルナ」と一緒に暮らせる日が来るのを楽しみにしている戸口雅恵は夫である戸口治行に弁当をこしらえて送り出したあと、自分で働いたお金で買った「ルナ」の洋服を紙袋から出しては楽しそうに眺めている。
雅恵がルナを身籠ったのは十九歳の時だった。一つ年上の治行は、高校を出た後運送会社で働いていた。同じ高校の先輩後輩ということで友達から紹介されて仲良くなりその年の夏から付きあい始めていた。雅恵は高校を卒業すると治行の会社の寮で、ほぼ同棲に近い形で暮らしていて、雅恵はそこから当時アルバイトで事務をしていた語学学校へ出勤することも度々あった。彼女の家は会社を経営していたが事情がかさなり経営がうまくいかず、所有している財産の一部を売って処分し会社もたたむ事が決まった矢先に、雅恵の妊娠が発覚した。金銭にゆとりがない雅恵の家と施設でそだった治行、二人は懸命に働き子供を育てることを決意した。そして雅恵の両親から教えて貰った妊娠や出産に関して、若い人達で集ったり、経験者から話を聞けるサークルがあることを知らされる。そのサークルで話しを聞いているうちに、子供を育てるのに必要な養育費が予想していたよりもはるかにかかることを知った。そして育てる自信をなくし二人は産婦人科の医師に相談した。
「順調に育ってますよ。何か困ったことや相談したいこと、悩んでいることはありますか?些細なことでも構いませんよ。初めての出産ですから不安なのはあたりまえですけれど、できるだけ不安を取り除いていけるようにね、話すと楽になる事もありますから。」産婦人科の女医は優しく雅恵に微笑んでそんな風に言った。
「こんな事を先生に言ったら叱られてしまうかもしれませんが、育てていく自信がもてなくなってしまって…」
雅恵の目をじっくり見ながら女医は答えた。
「それは初めてのお産だから不安っていう事ではなくて?」
雅恵は首を横に振りうつむいてしまう。そんな彼女の代わりに治行が切り出した。
「もちろん初めてだから不安っていうのもあるし、親になる訳なのでいろいろ僕たちなりに調べたんです。そしたら出産するのに費用もかかるし、養育費だってかかるし…。」
診察室の外では赤ん坊が泣く声が聞こえてくる。
「よく話してくれましたね。罪悪感から話してくれない人たちもいるんですよ。奥さんの方もまだ未成年ですし、一度両親を交えてちゃんとお話しする事をお勧めします。こちらでも、そういった不安を抱えるお父さん、お母さんの相談にものりますが、区役所の児童福祉課などでも様々な相談にのってもらえます」
「わたしたち、手放したいんじゃないんです。ただ…」
「一時的にあづける事が出来るような施設もありますし、ご家族が病気で短期間だけという人たちもいます。それとも中絶を希望しますか?そういった事も含めて大切な命ですからねちゃんと話し合っていきましょう。」

病院からの帰りの車の中で母親に雅恵は電話して病院でいわれた事をそのまま伝えた。後日話し合いをした結果、雅恵の両親の生活に基版ができて、治行と雅恵二人がお金をある程度貯めるまでCOMFORTという乳児院に預けることになった。
「俺、施設で育ったから両親がいない事で嫌なおもいもしたけど、仲間もできたし、いつか生まれてくる子供にも話そうちゃんと、こういう事情で施設に数年間あづかってもらった事、わかってもらえるように。」

雅恵の両親は落ち着いたら一緒に暮らして生活を助けてくれるとも言ってくれた。しばらくして、生まれてきたルナを自分の腕から放す瞬間の言葉にできない痛みを思うと未だに目から涙が出るほどだった。乳児院にルナをあづけてからも冷凍した母乳を届けたり頻繁に面会にも行き、いつかルナに見せる為の日記も毎日欠かさずつけていた。

 結婚して尞を出た治行の職場の近くのアパートを借りて夫婦で暮らすようになった。あと一ヶ月もすれば、一緒に暮らせる。共働きで働いているのでそれなりに貯金もたまった。手放してから三年が経った。面会に行くたびにこの子を自分の手で育てられない拷問の様な後悔を抱えながら、後ろ髪をひかれる思いだった。
 買った洋服を袋に戻しおわると、突然電話が鳴る。
「もしもし、」
「こちら乳児院COMFORTの院長の桐山と申します。戸口さんでしょうか?」
「はい。いつもお世話になってます。なにか?」院長自らの電話なんてなんだろうと雅恵に不安がよぎる。
「あのですね…お伝えしにくいのですが…ルナちゃんが事故にあって…3日前に亡くなりました」
「…えっ。………。」この後の事はあまり覚えていない。とりあえず電話を切った後に治行に連絡を入れるも、ほとんど何を言っているのかわからなかった。何事かと思い治行はすぐにアパートに駆け付けた。まだ配送センターの事務所に居たのが幸いだった。上司に家で何かあったようなので一旦自宅に戻ってみます。と告げて出てきた。自宅に戻ると、雅恵は錯乱しながら泣いていた。
 職場の上司に連絡をすると心細いだろうからといって、一緒に乳児院にまでついてきてくれた。
病院に遺体が安置してあるとの事だった。一緒についてきてくれた、治行の上司の今野が混乱する二人に変わって色々と気を配ってくれた。
病院と乳児院からの説明によると、乳児院から外の公園に散歩に出かけた時に、運悪く歩道に車が突っ込んで即死だったそうだ。他にも何人かの子供が怪我をしていて、対応に手こずり連絡が遅れてしまった事を告げられた。ルナの遺体は本人確認ができないほど顔面の損傷が激しかった。
「顔は見ない方がいいです。」そう言われて、ルナの手を握る。小さな手、ルナの右手の甲にには痣のような目立つほくろがある…あれ?ない?いつも面会の時に抱きしめて手を握って自然と手にキスをする。ない…ない…咄嗟に雅恵は叫んだ。
「この子ルナじゃない。ルナじゃない。」
気が付くと病院のベットに寝かされていた。気を失ってしまったらしい。
「戸口さん。大丈夫ですか?混乱するのはわかりますがこちらでルナちゃんだと確認してますからね。」
「でも違うんです。ルナじゃないんです。あの子の右手の甲には生まれつきのほくろの様な痣があったんです。変わった形の痣があったんです。治行も知ってるでしょう?」
「お前良く言ってたものな。ルナの手には生まれる月痣があるって。」
「一緒に住んでいないしね、見間違ったって事もありますからとりあえずゆっくり休んでくださいね。」
乳児院の関係者の桐山と名乗る女性が言った。
「でも…」それだけ言うと桐山の迫力と気力に力を奪われ諦めたように口を閉ざした。治行は施設の関係者に言われるがまま、訳も分からずに返す言葉もなくただ「はい。」と聞かれたことに頷いたり、意見を求めらると付き添っていてくれた今野にアドバイスを受けながらなんとかその場をしのいだ。
その後二年の月日が流れた。ある日一本の電話が鳴った。
男性の声で「ルナちゃん生きてますよ」電話に出た雅恵はイタズラだと思い電話を切った。静かに気持ちを切り替え始めていたそんな秋の肌寒い季節の日だった。

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COMFORT

COMFORT→本来の意味は苦しみ、悲しみを癒す為に使われる言語。様々な出来事を悪用して起こった犯罪をテーマに物語を書きました。実際に起こった犯罪ではありません。架空の物語です。まとまるかわかりませんができる限りまとめてみます。まだまだ続きます。
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