思い出と歩く

第一章

古びた家が軒を連ねる街の一角に、この辺りには似つかわしくない洋風の家がある。白い壁の二階建ての家で、全面には手入れの行き届いてある庭や花壇がある家だ。幼い頃祖母の手に引かれこの家の前を通る度に何処で覚えたかわからない英語の単語を思い出し心の中で「ホワイトハウス」と名付けた。この「ホワイトハウス」があるこの街は冬になると辺り一面雪が積もり、白銀の世界が広がる。ここが私の故郷と言いたいところだけれど、正確にはここは私の父が生まれ育った街だ。夏になると必ず車でこの街に訪れ八月の夏休みの間中ここで過ごすのが日課だった。私の名前は前鶴のどか職業漫画家二十八歳。都会から離れて田舎に引っ越そうと決めたのは決して都会の生活に疲れたわけではない。様々な理由が重なってこの街で暮らすことを決めたのだった。サラリーマンの父と専業主婦の母との間に生まれた一人っ子のわたしはとにかく友達もいなく内気でいつも漫画を読んでいる子供だった。そんな内気で陰気な少女を母は心配し、外で遊ぶ事を強要するようになるも、その甲斐虚しく、どんどん漫画や空想の世界に耽った。高校生の時こんな根暗で内気な少女にも漫画という世界は一つの居場所を与えてくれたのだ。自分で思うよりも世界は広い事を知り、人とかかわりを持つことに苦痛がなくなった。そして漫画家を目指すようになり、高校を卒業してしばらくはフリーターをしながら、漫画を描き二十歳の時に今の出版社に見初められ、連載を持たせてもらうようになった。そして今はそれなりの名の知れた漫画家だ。
 半年前、祖父母が亡くなったあと、両親が財産の処分の為に家と土地を人に売った。買い取ってくれたご夫婦は古い家をリフォームし住んでいたのだけれど、ご夫婦のどちらかが身体を壊し介護が必要になったりと、家のの諸事情でまた父の実家は売りに出されることになった。その話を両親から聞いた私は旅行がてら出かけていき、他人に売るのを躊躇いその家を買い取り住むことにした。
「しかし、何もない所だね。こんな所で良く暮らしていけるね」
東京から遊びに来た、中くんが言う。彼は東京で洋服屋さんを経営している、ホモセクシャルだ。
「そうかな?デリバリーは届くし、十分も歩けばスーパーもあるよ。」と私が言う。
「そうじゃなくてさ、なんか遊ぶところが何もないじゃん?飲み屋とか集う場所とか」
「その時には都会に帰ればいいことだもん。」
「しかし、知り合いも誰もいない場所でよくやっていけるわね。近所づきあいとかしないの?」
「父の知り合いも多いから事情を話してもらって越してきた時に断った。」
私の様に籠って漫画を描いているという人間には田舎での暮らしは肌に合わないかなと思ったけれど、この街は面白い街で、普通に生活していれば人の生き方を尊重してくれる。そういう雰囲気が私は気に入ったのかもしれない。
「集中して漫画が描けるなんてすごく幸せ。」
「一人でめげてると思ったのにつまらないな」
「楽しく、自由に暮らしてますよ」
次の日、中くんは運転してきた車で東京へと帰っていった。



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思い出と歩く

東京から祖母の家に引っ越しそこで漫画を描き始めた「のどか」が感じ取った不思議な感情…
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