COMFORT

エピソード2  シナリオのはじまり(1)

「小夜里、何してるの?どうしてあんたはいっつもお母さんを困らせるの。」
五歳の小夜里は保育園に行く準備をしている。
「もう五歳なんだから自分の事は自分でできるでしょう?ほら同じもみじ組の瑠璃ちゃんは保育園に持っていくもの全部自分で支度するんですって。瑠璃ちゃんにできて小夜里にできない事はないでしょう?どうしてこうもこの子は手がかかるんだかもう。」
「ごめんなさい…。」うつむきながら5歳の少女が小さな声で呟く。
「そんな小さな声じゃ聞こえないのよ。謝るぐらいならちゃんとしてよもうこの子はホントに。」
母親はキャラクターがプリントされてある手提げ袋に乱雑にタオルや着替え用のTシャツを入れる。
「ほら、さっさと車に乗りなさい。」力づくで自家用車のスライド式のドアを開ける。明らかにドアが開く音には怒りがにじみ出ている。
車で15分の場所にある保育園に小夜里を送り届ける。車を駐車スペースに停車させると後部座席のチャイルドシートに座わる娘の顔を持っていたハンカチで拭く。
「こんな顔で保育園に行ったら笑われちゃうの。もうほら。友達が待ってるんだから。」
ツカツカツカとブーツのヒールの音を響かせ娘の手を引きながら保育園の門をくぐる。
「おはようございます。今日もお願いします。」
まだ、あどけなさが残る保育士によそ行きの顔を作って挨拶をする。
「おはようございます。小夜ちゃん。お休みはお母さんとお父さんと楽しく過ごせたかな?」
保育士が母親を見て挨拶すると今度は屈みながら尋ねた。小夜里は無言で恥ずかしそうに頷いた。
「ほら、先生が聞いてるんだからちゃんと答えなさい。もうまったく。すいません先生。」
「大丈夫ですよ。恥ずかしがりやなんだよね小夜ちゃんは。じゃぁ、朝の時間にお休みの日は何していたか聞かせてね。」
また無言で頷くと、母親の手を放して教室に入っって行った。
「先生すいません。今日ちょっと、夕方の6時まで預かっていただけますか?親類の者が病気で看病しなきゃいけないんで。小夜里には言って聞かせてありますから。」
「えぇ、構いませんよ。じゃぁ、今日はお向かえは六時ですね。」
「先生。それとすいませんが、しばらくは週に何度か夕方まで預かっていただくかもしれません。」
「心配はいりませんよ。働いてるお母さんもいて、夕方まで残っている子いますから。」
保育士も精細は聞かず笑顔を作って答える。
「じゃぁ、よろしくお願いします。」
そう言うと母親である彼女は足早に園を後にする。途中で知り合いの園児の母親に会うと、軽い立ち話をして、先ほど保育士にいった「親類の者の看病」を理由にその場を立ち去るのだった。
母親の名前は都合さわ子34歳。不倫相手である槇岡知己に会える時間帯を午前中から午後に変えてくれと言われたのだった。さわ子が向かう先は槇岡の住むマンション。車で30分はかかる。彼女の夫である都合大嗣56歳は自身の父親の死後、父親が経営していた魚の缶詰工場の後を継いでいる。父親の代から地元でも政治家などと繋がりを持つ有力者だった。最近では県外にも魚の缶詰を特産品として広めるために週3回の出張が続いていて帰宅が深夜に回る。帰宅が遅くなる時は高校時代の友人宅でそれぞれの料理を持ち寄って夕飯を済ませる事になっている。高校時代の友人にも口裏を合わせてもらえる様頼んであるのだった。
マンション近くのパーキングに車を停めて、槇岡知己のマンションの一室に向かう。トモキは高校時代の同級生で当時さわ子の恋人だった。彼女の夫である大嗣との出会いにも絡んでいる。高校生だった当時二人は友達たちと一緒に援助交際狩りをしていた。援助交際を男性に持ちかけて身体を触らせお金を脅し取るという事だ。繁華街で起きているこの事件を知った大嗣はわざと罠にかかった。弱腰の男性を演じきって指定された金額の倍の値段を払うと約束し、指定された場所にさわ子達は行ってみると大嗣は荒っっぽい知り合いに頼み、全員を縛り上げ、薬を打ちその場にいた高校生を自分たちの思い通りにすることに成功した。口裏合わせを頼んでいる高校時代の友人知絵もその時の仲間だった。佐和子を含めた当時の高校生たちの家族には、非行を目撃したけれど、見逃したと言って、面倒を見ることを約束した。トモキは両親が離婚していて、ほとんど一人家にも帰らず勘当同然だったために、逆にありがたいと思われたらしい。さわ子は女で一つで母親に育てられ、18歳の時に母親を癌で亡くした。その後、大嗣はさわ子の面倒を見るために大学へ通わせ、卒業した後は秘書として雇い、クラブのホステスのママをしていた妻とは別居し容姿端麗で頭のいいさわ子と一緒に住む事にした。
「相変わらずだな、都合さんも。どこの誰だかわからない子供を自分の子供としてそだてろなんてさ。なんか大きな事に巻き込まれるんじゃないか?」

「うん?でもお金くれるって言うからさ。」
知己はベットをでて飲み物をとりに行く。
「もしかして、俺たちの事もばれてるとか?」
「かもしれないね。今の所何ともないから大丈夫じゃない?一応、知絵の所にアリバイ頼んであるけどね」
「最近、元奥さんとこ頻繁に出入りしてるみたい。小夜里の事も引き取りたいって言われてんのよ。まぁ、良いんだけどね。子供育てるの大変だから。」
「まずいよそれ。」
「元奥さんって千鶴さんっていう人だろ?売春の斡旋業をしてる噂あるよ」
「えぇ?でも小夜里まだ子供だし大丈夫でしょう?」
「あれか?もしかして都合さんの娘って事はないの?」
「知らない。つうか、知りたくない。だって都合が連れてきた子供を養子にして育ててるだけだもんわたし。」
「本当に何にも考えてないなお前?」
「うん。余計な事口出しすると怒られるもん。日付け入りで養子の事には口出ししませんって署名させられてるし。」
「マジ?それちゃんととっとけよ。」
「うん。でも都合ならあんな紙切れどうにでもできそうだから。あんまり当てにしてない」
「俺も都合さんに店出す時、世話になったから何にも言えないし、なんで昔あんな事しちゃったかな…。」
「それは言いっこなし。うちらだって美味しい思いさせてもらったじゃない。」
「調べてみるか?ガキの事。」
「調べてるってバレたら終わりだよ」
「うーん。俺に仕事教えたの都合さんだから、つてぐらいはあるの。」
「大丈夫なの?」
「俺とお前だってこうやって会ってても何ともないだろ?」
「そうだけど…」
午後4時。槇岡のマンションを後にする。さわ子にとってトモキと過ごす時間は生き甲斐を感じる。トモキと再び関係を持つようになったのは一年前ぐらい。知絵がホストクラブに通うようになってそこの経営者が大嗣だった。知絵から連絡先を教えてもらい会いに行き関係を持つようになった。トモキと一緒に過ごすようになってから、昔感じた大嗣に対する嫌悪感が再び増してきて身体を触れるのも苦痛に感じるようになったていた。
「今日ね保育園で絵を描いたの。ハイ、お母さんにって」
「あら、結構うまくかけてるじゃない。」
もしかしたら、トモキがこの子と自分を救ってくれるかもしれないと淡い期待がよぎると、不思議と小夜里の事も愛おしく感じてきた。家族に恵まれなかったさわ子にとって暖かい家庭を築くことは夢でもあった。自宅に帰り作り置きしておいた、おかずで夕飯の準備をする。
「小夜里、ご飯できたから早く食べなさい。」
「はーい。」
「あっ、ハンバーグ。小夜里お母さんのハンバーグ大好き」
その頃、トモキは一本の電話をとある所にかけていた。
「…ルナちゃん生きてますよ…。」
3日後、トモキのマンションの一室で男女の遺体が発見された。死因は心中自殺。トモキとさわ子の遺体だった。


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COMFORT

COMFORT→本来の意味は苦しみ、悲しみを癒す為に使われる言語。様々な出来事を悪用して起こった犯罪をテーマに物語を書きました。実際に起こった犯罪ではありません。架空の物語です。まとまるかわかりませんができる限りまとめてみます。まだまだ続きます。
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