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サクラの古墳 前編

サクラの古墳 後編

四月下旬、すっかり桜の季節も終わりで、
「花の命は短し」とはよく言ったものだ、
二週間ほどの開花期間だから、
桜は愛されるのかなと思いつつ、
すっかり花見猫を見るのも諦めムードだったが、
どうしても気になり、
インターネットで「開花時期、桜」
というキーワードで検索してみた。

咲いている場所があった。
インターネットのマップ機能でルート検索をすると、
思ったほど遠くなかった。
気持ちがはやり、現地情報が知りたくて、
ホームページにアクセスするが重かった。
SNSで桜スポット名で検索、
そんなにない情報をスクロールしていると、
猫の写真が出てきた。

あった、桜と猫のコラボ写真が。
いるのだ、花見猫がそこに。
しかも一日前の情報だ。
もう我慢がならず、
少し遠いが南へ向かった。

日差しはきつかった。
気温を調べたら27度、
夏のような陽気じゃないかと驚いた。
ひたすら一本道だった国道から右へ曲がった。
現場近くになりスマホで道路検索しようとしたら、
スマホがカイロのように熱かった。
検索画面が出てくれないので、
インターネットで見た地図の記憶をたよりに、
それらしき道を曲がった。
慎重に運転、桜が咲いていたので、
ここかと思い駐車場に入ったら野球場だった。
昼時なので車の中で休んでいる人々がいた。
駐車場内の立て看板で現在地を見て確認、
また車で走り出した。

見渡しがいいので桜が見えてくれば、
そこまで行けるだろうと、
それらしき方向へ行くが、
走行時間がかかりすぎていて、
この道ではないなと思いUターンした。
戻る途中、
右方向にナイターの照明が確認出来て、
先ほどの野球場に戻った。

スマホはカバーを外して冷ましていた。
スマホのナビアプリで検索したら、
旨い事に起動してくれた。
道順が分かり、
看板もあったので10分も経たずに、
現場へ到着することが出来た。

駐車場がいくつかあるようなので、
停められそうな所へ入った。
そこそこの人出があった。
入口で駐車料金がかかるのが解り、ぎょっとした。
こんなまわりには田んぼしかない場所で、
駐車料金を払うことになろうとは。
今更後戻りは出来ないので数百円を渋々払った。
田舎で駐車料金を払うのは駅近辺ぐらいなものだ。
駐車場係や横断歩道にいる交通誘導員は、
年配の方が多かった。

駐車場から出てすぐに桜があり、
花びらが散っていた。
スマホで数枚撮影。
満開というネット情報だったが散り始めだった。

近くを歩くご婦人方の会話が
「あら、花びらが散っているじゃない」
「そこが、いいのよ、綺麗で」
という、やりとりで、
傍らで聞いて、その通りだなと思った。

場内へ入ると桜は頭上の間近に咲き、
はらはらと花びらが散っていた。
桜色の世界が広がる。
妙なパノラマ感があり、
自分がミニチュアになって、
箱庭に置かれた感じがした。
初めて来たのに、
懐かしい感じのする場所だった。

中央に舞台のある広場があり、
演歌を歌いあげる、
カラオケが好きそうな旦那さんがいた。
広場、後方には用意されているシートに、
長椅子が置いてあり、
ビールメーカーのプリントがしてある紙コップに、
ビールを注ぎ、酔って寝っ転がっている、
赤ら顔のお父さんがいた。

広場の周りを囲うように、
コンクリ製プレハブサイズの出店があり、
屋台とは違う、
昭和初期のような風情を醸し出していた。
焼き鳥、おでん、まんじゅう、
焼き魚、唐揚げ、地元の名産品、野菜。
古臭いんだけど、
客観的に見ると異国のような雰囲気で、
外国の人を連れてきたら、
さぞや喜びそうな空間だ。

場内は、ほぼ高齢者で、
デイサービスでバスに乗ってやってきた
車椅子に乗ったご老人たちが多数いた。
付き添いの方が、
「綺麗ね、いい思い出になったね」
とやさしく話しかけていた。

桜がいいなと思い始めて数年、
この人たちには及ばないが、
この雅やかな空間にいて心が満たされる気持ちは、
少し分かるようになったつもりだ。

後編へつづく

サクラの古墳 後編

サクラにまつわるお話|ナミソラフウモ|note

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