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雨だれ


淋しがりやどうし
   肩よせあって
      つたえあうのよ


例年通りなら部屋の窓は1年中開けることはなくて、季節の変わり目の匂いは外に出た時にしか感じることはない(優秀な遮光カーテンのおかげで匂いどころか大雨が降っても気づかない)のだけど。
今年はなんだか部屋の酸素が薄い気がして、夜の静かな時間に窓を開けるようになりました。

そうすると、この時期特有の湿った夏の匂いがする。雨だれの中の少女に想いを馳せたりする。自分の十代の記憶が匂いと共に蘇ったりする。

今なら雨の日の外出なんて気圧やらメイクやら、家を出るまでに気にかかる事が多すぎて億劫で仕方がないのだけど、高校生の頃の私は湿度で髪がうねろうがマスカラが滲もうがお構い無しで恋をしてた。自分はいつもベストな状態だと思っていたし、いつだって私が映画の中の主人公だった。
好きな人と1秒でも長くいられるのなら、なりふり構わず文字通り何でもした。

雨だれの歌詞は、「冬の街をはしゃぐ風の〜」とあるので冬が舞台なのかな。なので、今はちょっと季節外れかも。ストーリーはとてもわかりやすくてスッと自分の中に入ってくるし情景も浮かびやすい。
甘えん坊な少女の初恋。理想とか願望とか妄想とかが織り交ぜられたようなロマンチックな歌。

さみしくって彼を呼び出して、ただただ二人で街を歩くだけのデート。それで幸せ。
寒くない?と声をかけてくれるとか(なんなら上着かけてくれたり)、きっとさらりと車道側を歩いてくれたりとかして、そんな小さな気遣いの端々に相手の好意は感じるのだけど、お互い決定的な台詞は口にしない。二人でひとつの傘に収まって、触れた肩の温かさで気持ちを伝え合う。二人とも恋が実りそうって確信してる一番楽しい時期の出来事と気持ちの昂りがドラマチックに胸に押し寄せてくる。

2番の歌詞では甘えて腕を組んでみたりして、ふとした事で見つめ合ってそして影はひとつに。
まるで映画。しかも主人公は太田裕美さん。顔が良すぎる。

実は全て妄想だったというオチでもかわいい。とてもよい。
部屋で少女漫画を読みながら「雨の街でひとり彼を待つアタシ」とか「気遣いの出来る優しいカレ」に想いを馳せている夢見る少女の妄想でもいい。寂しがりや「どうし」なのも漫画っぽい。

そしてわたしはそれを実行に移してしまう痛いタイプの少女だった。

雨の日特有の気持ちの暴走で意中の彼を呼び出して、適当な軒先で雨を見ながら待ってる。そんな時って大体最大限に上手くいった時のことを妄想してる。全力のイメトレ。これから二人で一つの傘に入って、雨の匂いの中に彼の香水の香りを見つける、彼は王子様のように優しくて、無条件にわたしの話に頷いてくれて、そして今日こそ進展があるのよ!!みたいな。

でも現実はそうでもなくて。相手はちゃんと傘を持ってるし、なんか雨なのに呼び出してごめんみたいな、別にヘーキ(沈黙)みたいな。気まずさ。とか。なんだか話もイマイチ盛り上がらず、普通に寒いし17時とかには解散しちゃうみたいな。それで男友達の間でなんかダルかった〜とか話されちゃうのよね(残酷すぎか)。

いやでも当時の私の行動力は本当に凄まじかったし、失敗も成功も歌詞にして大声で歌ってた。
今思い返すと超かっこいいなと思う。毎日を平和に過ごそうとすればする程どんどん臆病になって、自分のことを過小評価しがち(というか、遠慮とか卑下とか慎みとかがごっちゃになって自我がなくなっていく)ので、家にいる時間の多い今こそもっと昔の恥ずかしい自分を掘り返して心の栄養にしようと思う。

そんな事を考えていたら本当に雨が降ってきた。

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