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【SABR】BettsのコンバートはWARに影響するか?守備位置補正の仕組みについて

鯖茶漬です。いつもお世話になっております。

■不慮の事態…思わぬ副産物も?

スプリングトレーニングもいよいよ大詰め。各チーム、各選手が開幕に標準を合わせています。オフに大型補強を行なったチームをはじめ、贔屓球団の主力選手の状態や、思わぬ若手選手の活躍にも注目が集まります。

一方、開幕前のこの時期に想定外の事態に陥ることもあります。主力として計算されていた選手の故障や不調などはわかりやすい例でしょう。オフシーズンに最も注目を集めた球団、ロサンゼルス・ドジャースの遊撃手候補ギャビン・ラックスの不調と、それに伴った球界のスーパースター、ムーキー・ベッツの遊撃手コンバート案もそのひとつ。

大怪我により2023年シーズンを棒に振っていたラックス。とはいえ、2021〜2022年のような主力級の活躍を期待していたドジャースとしては思わぬ誤算でしょう。他球団からするとそれでもなおと言える戦力層ではありますが、開幕前に早くも試行錯誤を強いられる形となっています。

ただ、稀代のユーティリティープレイヤーとしても知られるベッツを抱えていたのはドジャースにとって不幸中の幸いと言えます。外野の名手として知られるベッツですが、昨年は遊撃手としても16試合に出場。コンバートに対してベッツが前向きな発言を残しているのはファンも一安心と言えるでしょうか。

さて、ベッツのコンバート案に伴い、コアなファンはポジティブな要素がひとつ浮かんだかもしれません。

ベッツが遊撃手にコンバートしたらWARが上がるのでは?」

MLBファンの中でも謎に包まれている総合指標「WAR」と、その特徴である「守備位置補正」によるものです。今回は「ベッツはコンバートによってWARを上げることができるか?」という点に注目し、守備位置補正の基本的な解説を行います。

■守備位置補正とは

まずは簡単に解説から。守備位置補正とは「異なるポジションの選手を横断的に評価するための補正値」というものです。以下のツイートが参考になります。

捕手と一塁手の守備貢献が等しくないことは、野球ファンなら体感で理解できると思います。守備位置補正はそういったポジションごとの難易度を定量化し、WARに組み込むことでその選手の貢献を表す役割を持っています。

実際の守備位置補正値を確認してみましょう。各データサイトごとに算出方法は異なりますが、今回はFangraphs WAR(fWAR)に焦点を当てます。

162試合換算。

守備貢献の大きいイメージのある捕手や遊撃手がプラスの値を設定されていて、守備に就かない指名打者が一番大きいマイナスの値になっています。データサイトによって細かい数値は異なれど、ポジション毎の数値の優劣は基本的にどこも変わりません。

■「SS:Betts」と仮定してみよう

本題に移ります。守備位置のコンバートはWARに影響するのでしょうか。2023年シーズンの成績を参考に、守備位置補正の数値をそのまま変えてみましょう。野手WARは以下の4つで構成されています。

①総合打撃貢献(Offense WAR)
 i.打撃貢献(Batting Run)
 ⅱ. 走塁貢献(Base Running)
②総合守備貢献(Defense WAR)
 ⅰ.守備貢献(Fielding)
ⅱ.守備位置補正(Positional)
③リーグ調整(League)
④代替水準対比価値(Replacement)

Fangraphsでベッツの各コンポーネントを確認してみます。ページ下部の「Value」から。

https://www.fangraphs.com/players/mookie-betts/13611/stats?position=OF

守備位置補正値を表すPositionalに注目してみましょう。遊撃手として98イニング+二塁手として485イニング+右翼手として701.2イニング、計1284.2イニングに出場したベッツの守備位置補正は-2.3。

これが仮に1284.2イニングすべて遊撃手としての出場だったと仮定して計算し直しましょう。結果は以下。

赤字が変更点。

守備位置補正値の大幅な上昇によってDefenseも上昇。WARも「8.3→9.1」へと変更になりました。めでたしめでたし…

とはなりません。実はこの計算方法には大きな見落としがあります。それは「UZRから算出しているFieldingが各ポジション内での相対評価のままである」という点です。ここでいうと、ベッツの守備成績の比較対象が「遊撃/二塁/右翼」となっています。

前述したように、各守備位置の難易度は同等ではありません。遊撃手1284.2イニングの守備位置補正値を扱うなら、UZRから算出したFieldingの数値もすべて遊撃手として出場したと仮定した数値を扱わなければなりません。

■コンバートはWARに影響しない?

結論から言うと、遊撃手へのコンバートは「WARに影響しない」と考えられます。また、当然ですが実際にプレーしたわけではないためあくまで仮定の話になります。

では、なぜ「WARに影響はない」とされるのでしょうか。ここには守備位置補正の算出方法への理解が必要になってきます。セイバーメトリシャンのトム・タンゴが実際に守備位置補正値を算出する過程を自身のブログで明かしているので、以下に少しだけ紹介します。

簡単に算出方法を説明すると「同一選手がレフトとライトを守った時のUZRの差を測ったら○点分の差があったよ」「同じようにセンターとライト、レフトも比較したら○点分センターが難しかったよ」「内野と外野、どちらも守った選手を集めて比較してみたよ」といった具合です。

つまり守備位置補正とは「過去に複数ポジションを守った選手の守備成績を参考に、難易度を定量的に評価した値」ということです。もちろんすべての選手をサンプルとしたわけではない点に注意が必要です。各選手によってポジションの向き不向きはあるので、あくまで傾向の話。

話をベッツに戻します。遊撃/二塁/右翼としてFielding0.7を記録する能力を持っていたベッツですが「遊撃としてフル出場した場合はFielding-8.2を記録する」という仮定ができます。今までは守備能力が比較的低い他球団の右翼手が比較対象となっていましたが、遊撃を守る場合は高い守備能力を有する他球団の遊撃手が比較対象となるためです。

遊撃手とした出場した仮定。WARには影響なし。

しつこいようですが、この値は過去に複数ポジションを守った選手の守備成績から算出した仮定の話です。実際にベッツがプレーしたらこの数値に変動があるかもしれません。

過去の傾向から「遊撃手として98イニング+二塁手として485イニング+右翼手として701.2イニングしてFielding0.7を記録する野手」はどのポジションでも「Defense-1.6」を記録する可能性は高いと考えられます。守備位置補正とはそういったポジション間の難易度を同等にするために扱うものです。

しかし、今季ベッツがコンバートすることによってこれ以上の数値を記録することも十分にあり得ます。そのようなことが起こった時、我々は改めて野球選手としての彼の凄さを実感することになるのではないでしょうか。


※補足
Tango on Positional Adjustments
・守備位置補正の算出過程がBaseball Concreteにまとめられています。
コンバートは打撃成績に影響を与える?
・本稿では守備成績への影響のみを考慮していますが、コンバートによる打撃成績への影響も考えられます。少なくともFangraphs社はそのあたりの影響を考慮していません。

※ヘッダー画像はhttps://twitter.com/dodgers/status/1649252960348647425?s=61&t=xVRgWJfCUAbHYthXVeAX1gより引用。
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