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【SABR】fWARアップデートとUZRの幕切れ

鯖茶漬です。いつもお世話になっております。

Fangraphs社算出の総合指標WAR、通称「fWAR」がアップデートされました。

■待望のスタットキャスト指標導入

今回のアップデートは(個人的に)セイバーメトリクス史に残るほどの出来事とも言えます。今や野球のデータ解析には必須である「トラックマン」や「ホークアイ」によるトラッキングデータ、それらがWARのコンポーネントに組み込まれたためです。

コアな野球ファンからすると待望の、ついに、ようやく…というかもっと早く実装してくれよといったところでしょうか。以下簡単に紹介。

1.捕手の守備評価に「Blocking」を追加

捕手のブロッキング、いわゆるパスボールやワイルドピッチによる失点をどれだけ防いだかを守備評価に加えました。ボールの位置や球速、変化量、投手/打者のHandednessなどの要素から各投球の捕球難易度を算出。ブロッキング1球=0.25点分の防御得点とし、リーグ内で相対評価を行います。

2023年CBRランキング。

昨年この指標でトップの数値を記録したのはショーン・マーフィー。平均より4点分の失点を防ぎました。一方ワーストを記録したのはジャイアンツのブレイク・セイボルで-5点。10得点=1勝分の価値であることから、ブロッキング能力によって生まれる差は最大でも約1勝分。同じ捕手の守備評価であるCatcher Framing Runs(フレーミング評価)では最大3〜4勝分の差が生まれることから、フレーミングよりも比較的影響の小さい要素と言えるかもしれません。

2.外野手の送球貢献を「Arm Value」に変更

今アップデート最大の注目点。この変更によって長年fWARの守備コンポーネントを担ってきたUZRが廃止となるためです(2025年シーズン終了まで計測予定)。fWARには外野手の送球貢献としてOutfield Arm Runsが使用されていましたが、スタットキャストのArm Valueを組み込むことによってより正確な評価が可能に。

2023年外野手Arm Valueランキング。

アップデート前後共にブレントン・ドイルがトップ。-3.7点分の変更がありながらも驚異的な数値です。マイナス評価から一気に+5まで数値を伸ばしたロナルド・アクーニャ・ジュニアは今回のアップデートによりfWARが8.3→9.0まで上昇。

また、内野手の併殺完成の貢献度を表すDouble-Play Runsは削除。2022年4月に野手の打球処理貢献を表すRngRがOuts Above Averageに変更、そこから約2年間UZR+RAAの守備評価が続いていました。今回のアップデートによって2008年から続いていたUZRを含めた守備評価は終わり、完全にトラッキングデータによる評価への移行となります。

3.走塁評価を「XBR(Baserunning)」に変更

ランナーの走力や捕球時の位置、ベースまでの距離などからアウト確率を求めて送球評価を行うのが上記のArm Valueなら、こちらはその走塁版。Baseball Savantでも同じページに『Baserunning/Arm Value』として掲示されています。このアップデートによって走塁評価UBR、併殺回避評価wGDPは廃止。盗塁を含めた総合走塁評価は「XBR+wSB (盗塁貢献)」で算出されます。

2023年XBRランキング。

1位はガナー・ヘンダーソン。昨季の盗塁数は10、スプリントスピードも上位14%と最上位クラスとは言えないため、ちょっと意外に感じた方もいるかもしれません。簡単に内容を見てみましょう。

XBR内訳。

ヘンダーソンの進塁機会は148回。打球の捕球位置や送球能力等を考慮すると平均では34%ほど進塁することが予測されますが、ヘンダーソンはこれを12%も上回る47%、計69回で進塁を試み全て成功。差はわずかですが、ウィット・ジュニアコービン・キャロルなど圧倒的な走力で知られる選手らをも上回る走塁貢献を記録しました。

また、ヘンダーソンの進塁の中で最も価値が高かった(+0.25点)のは以下のプレー。ランディ・アロザレーナの怠慢な守備がちょっとした話題にもなりました。

Baseball Savant Videos | baseballsavant.com (mlb.com)


■終わりに

上で紹介した要素が2016年までに遡ってアップデートされています。捕手の守備評価をはじめ、野手の評価方法に関してはBaseball Reference社が算出するrWARの一歩先を行っていると言えるでしょう。

また、冒頭の記事内ではこの変更によって2016〜2023年間でWARが大きく変更した選手が何名か紹介されています。プラスの変化はヤディアー・モリーナの+3.0、マイナスはムーキー・ベッツの-3.0。ARAさんも呟いていましたが、これだけ正確に測定して3.0以内の変更に収まっているのは驚きました(感覚は人それぞれだと思いますが)。

今回のアップデートのように、より優れた評価方法が生まれるとそれを組み込むことができるのがWARの強みとも言えます。現状fWARの野手評価は最も正確と思われるコンポーネントで構成されていると考えますが、今後も随時アップデートが入る可能性はあります。特に投手評価に関しては今後どのように変化していくのか注目していきたいところです。


※ヘッダー画像はhttps://www.freep.com/story/sports/mlb/tigers/2021/06/23/detroit-tigers-miguel-cabrera-injury-yadier-molina-jake-rogers/5319618001/を引用。
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