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袖振り合った、他生の縁

2017年9月21日09時04分
六車:宮沢(仮名)さん、こんにちは!お元気ですか?
実はお願いしたいことがあり、ご連絡しました。
下記のメッセージを、山下弘子さんに転送お願いできますでしょうか?
山下弘子さんのFacebookを開いたところ、宮沢さんから共通の友達だとわかり、ご連絡させていただいた次第です。お忙しい中お手数をおかけして申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。


『山下弘子さま
はじめまして。六車奈々と申します。
先週は、六車奈々の『食べる美人塾』DMMオンラインサロンへのご入会をいただき、ありがとうございました。
早速、審査を通過させていただいたのですが、DMMオンラインサロンのFacebookページに参加リクエストが送られてきておりません。
そこで、もしかしたら間違えて入会ボタンを押されたのでは無いかと気になり、ご連絡させていただきました。
と言いますのが、無料期間は一週間となっていますので、それを過ぎると入会費が発生してしまいます。
もし間違えて入会をされているなら、すぐに退会手続きを取ってくださいね。
また、ご入会をご希望いただいているのであれば、お手数をおかけしますが下記の通り、、、(以下省略)

P.S. 山下弘子様のフェイスブックにメッセージをお送りしましたが、うまく届いていないようでしたので、共通の友人である宮沢さまに転送をお願いしました。』


宮沢:六車さん、ご無沙汰です〜。依頼の件、了解しました!山下さんには、僕がずっと担当しているガン保険のCMに出演してもらったのを機に仲良くしています。6月の結婚式にも行ってきました。転送、お任せください!


今から二年前。
私が主宰する六車奈々の『食べる美人塾』DMMオンラインサロンへ、山下弘子さんという女性から入会申し込みが入った。
会員になるには、審査が必要だ。私は山下さんのFacebookページを見た。
山下さんは、がん保険のCMの人だった。
19歳で肝臓がんが見つかり、余命半年と宣告される。しかし治療をしながら、常に前向きな精神でさまざまなことにチャレンジし、全国各地で講演活動もされていた。

その山下さんが、どうして私の美人塾に興味を持ったのだろう?
美容の話が聞きたかったのだろうか?
それとも健康の話を知りたかったのだろうか?
もしかしたら、間違えて申し込んでしまったのかな?
入会申し込みが来たものの、全く連絡が取れないまま日にちだけが過ぎ、無料体験期間終了が迫っていたので、共通の友人として上がってきた宮沢さんに先述のメッセージを送ったのだった。


宮沢さんに転送して頂いてから数時間後。DMMオンラインサロンから、山下さんの退会を知らせるメールが届いた。


2017年9月21日12時39分
六車:さきほど、DMMオンラインサロンからお知らせメールがあり、退会手続きがされたようです。お忙しいなか、ありがとうございました。


宮沢:あら、やはり。。。実は間違えて押しちゃったと書いてた。僕的には、知り合いの2人が繋がる事が思いの外、嬉しかっただけに、少し残念、、、


六車:ひとまず課金されなくて良かった!

宮沢:そうですね。山下さんが、六車さんなんて親切な方って書いてました〜

六車:いえいえ、とんでもないです!


本来なら、これで終わる話だ。
しかし私は、山下さんが気になった。
どうして山下さんは、私の美人塾に入会しようと思ったのだろう。
結果的には間違って入会ボタンを押したということだが、興味を持って美人塾を見ていたことは事実なのだ。

もしかしたら、何か救いの手を求めていたのだろうか?もちろん私は医者ではないし、何ができるわけでもない。
しかし綺麗になることは、女性の生き甲斐だ。もしかしたら美人塾を通して、山下さんは何か楽しいことや綺麗になることを見つけたかったのかもしれない。
もし山下さんが辛いがん治療をされる中で、美人塾に求めるものがあるなら、私はできる限りの事をしたいと思った。


私は、山下さんのブログを開いてみた。
ここ数日を辿っていくと、怒りと悲しみの気持ちが綴られていた。心無い人の行動によって、傷ついていたのだ。


私は、ハッとした。
なぜなら私がしようと思ったことは、親切の押し売りかもしれないと気づいたからだ。
山下さんは、何も望んでいないかもしれない。むしろ『私に同情して、特別扱いをするのか』と傷つけることだってあり得るのだ。
もちろん私は同情なんかではない。自分にできることがあるなら、したいだけだ。
しかしそれをどう受け取るかは、私ではなく山下さんである。

この時、山下さんは放射線治療が始まり、副作用に苦しんでいた。
さらにブログにあるようなは、誰かの心無い行動で傷ついている時期であった。
そんな心身ともデリケートな時に、私がしゃしゃり出てお節介を押し付けて良いものか?そっとしておくことこそ、思いやりではないのか?


私は迷った。
迷って、迷って、迷って、、、。


結局、私は何もしないことを選んだ。
もし私なら、放っておいてほしいからだ。

そう決めたものの、山下さんのことが気になり、時折ブログを拝読していた。

それから一週間が経ち、十日が経ち、一ヶ月が経った。月日はどんどん流れていった。
私は毎日の忙しさで山下さんのブログを見る機会が減り、いつしか見なくなっていた。


2017年3月。
山下弘子さんが亡くなったいうニュースが飛び込んできた。
あのやりとりから、約半年後のことだった。
私は頭をガツンと殴られたような衝撃が全身を貫き、息ができなくなった。

山下さん、亡くなったんだ。。。

あの時、正しいと思って決めた選択肢だったが、急に揺らぎ始めた。
本当に正しかったのだろうか。
何かできることは、あったのではないか。
自責の念と後悔で、胸が苦しくなった。


あの時、もし『私に何かできることはありますか?』とアクションを起こしていたら、、、?
もしかしたら、余計なお世話だと傷つけたかもしれない。
でも、もしかしたら山下さんが美人塾を通して得たかったことを、一つでも二つでも差し上げられたかもしれない。
あの時、正しいと判断した選択肢だったはずなのに、私は後悔にさいなまれた。
もっと他の方法があったかもしれない。。。
それ以来、私は山下さんに関する記事を読めなくなった。


一年以上が過ぎた。
私の中で少し心の整理ができ、向き合えるようになった。
改めて、山下さんのブログを読んでみる。


山下弘子さんという女性は、なんて強い人なのだろう。
再発や転移が見つかった時は、素直に思いきり悩み、素直に弱音を吐く。
でもその後は必ず、前を向くのだ。

『私はこの病気にすごく感謝しています。』とまで書いてあった。
がんになったからこそ大事なものが見えるようになり、些細な事に感謝し幸せを感じるようになり、今生きているこの瞬間を大切にする事ができるようになったと。だから皆んなにも、毎日を大切に生きて欲しいと書いてあった。


本当にその通りだ。
私たちは根拠無く、長生きすると思っている。自分だけはがんにならないと思っているし、事故に遭わないと思っている。

でも人生なんて、一寸先は闇だ。
明日、大きな自然災害が起きるかもしれないし、
明日、交通事故に遭うかもしれない。
明日、がん宣告をされるかもしれないのだ。

だからこそ、毎日を大切に生きなくてはいけない。
好きな人には好きと伝え、
後悔しないように、素直に謝罪し、
今ある幸せを噛み締めて、感謝をする。


『袖振り合うも他生の縁』というが、私はほんの一瞬ながら、山下さんとのご縁を頂いた。
このご縁から、今の私にできることは何だろう?


私が出した答えは、
美人塾に参加したお客様に、
このエッセイを読んでくださる皆様に、
私の大切な人たちに、
伝えることだ。


『今を大切に生きよう。思い切り楽しもう。』


忙しい毎日だからこそ、ふと自分に問いかけてみる。
『今、人生を楽しんでいるかな?』って。


山下さんから教えて頂いたメッセージ。
私も胸に刻んで、毎日を大切に過ごしたいと思った。


山下弘子さんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。


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