コンパへg0-g0-

コンパへ!ゴーゴー!

『今日の新年会、女の子だけというのはウソです(笑)男の子も来るからヨロシクね!』


そのメールは、突然やってきた。
「えーっ!」
私は電車の中で、思わず声を上げた。
女子だけと聞いていたのに、ひどいではないか。完全にはめられた。


私は人見知りだ。
こんな仕事をしておきながらウソつくなと言われそうだが、正真正銘、
昔から人見知りなのだ。知らない人と話すのが大の苦手である。
だから合コンのように初対面どうしで集まるような所なんてもってのほか。高校生の頃から友達は合コンを開いていたが、
私は一度も参加したことが無かった。


どうしよう。急に行くのがイヤになった。
しかし、京都から特急電車に乗ったばかりで40分は降りられない。
しかも人数を合わせて声をかけたであろう。
私がドタキャンすれば友達は困るハズだ。


うーん。。。仕方がない。
友達も、彼氏のいない私に良かれと思ってやった事だ。
今回だけは参加してやろう。


しかし合コンって、初対面の挨拶はなんと言えば良いのだ?

「六車奈々です。趣味は、神社巡りです!」
いかん。これじゃ、ばあさんのコンパだ。
うーん。

「六車奈々です。好きな食べ物は、砂肝です!」
これでは、おっさんだ。

「六車奈々です。お酢でリンスすると、髪がサラサラになるんですよ〜!」
こんな話、誰が興味あるのか。


あれこれ考えているうちに、頭が痛くなってきた。頭だけではない。
体もだるくなり、ボーっとしてきた。
ちょっと待てよ。私、おかしくないか?体が熱すぎる。
約束の店に到着する頃には、フラフラになっていた。


絶不調の中、人生初のコンパが幕を開けた。
お相手は、競輪選手だ。
「はーい!今から順に自己紹介しまぁす!」
合コン慣れしているミサは、テンポよく笑いを混ぜながら
会話を盛り上げていく。
「六車奈々です。えっと、30歳です。よろしくお願いします!」
全く気の利かない自己紹介をして、コンパがスタートした。


私を除いたメンバーは、のっけから盛り上がった。
お酒が進んでくると、さらに盛り上がり、
男子は二の腕の筋肉を見せ合い始めた。
競輪選手は脚だけでなく、腕の筋肉も凄いそうだ。
Tシャツから脚のように大きな二の腕を出し、ボディビルダーさながらの
ポーズを取っている。女子たちも笑い転げ、楽しそうだ。
熱のせいで頭がまわらない私は、ほとんど会話に参加せず、はぐれガラス。黙々とご飯を食べるしかなかった。
コンパはますます盛り上がり、今度は腕相撲大会が始まった。
小さな個室は腕相撲大会で熱気を帯び、
私の熱もますますヒートアップした。


それにしてもコンパというものは、お酒とトークで作られているらしい。
私以外のメンバーは、ほとんど料理に手を付けなかった。
「もったいないなぁ。」私は一人、料理を口に運んだ。

私は昔から、どんなに熱があっても食欲だけはある。
「奈々はしんどい時もちゃんと食べてエライなぁ。」
とよく母が褒めてくれたものだ。
風邪の時にしっかり食べるとすぐに治ると教えられてきた。
そうだ。胃の中にしっかり食べ物を入れよう!
私はなお一層、モリモリとご飯を食べた。


「そろそろお時間ですので、、、。」
ようやく店員さんが顔を覗かせた。

よっしゃーっ!乗り切った!
絶不調ながらも、よくぞ最後まで頑張った。自分で自分を褒めてあげたい。

帰るぞ~~~!
私はいそいそと帰り支度をした。しかし宴たけなわな私以外のメンバーは、
じゃれ合ってなかなか準備が進まない。
この間にトイレでも行っておこう。
戻ってくると、すでにお会計が終わっている様子だった。


「ごめん、お待たせ!いくら払えば良いかな?」
女子幹事のミサに聞いた。
「それがね、男子が奢ってくれるらしいよ。」


なんと!!!
ろくに参加しなかったのにご馳走になってしまうとは、申し訳ない。
ちゃんとお礼を言わなきゃ!

「ご馳走さまでした!」

私は今日イチの大きな声を出し、頭を下げた。
まだお会計前の男子に向かって。。。

ミサが慌てた。
「奈々ちゃん!まだお会計終わってないねん!」
「えっ!?」
「男子チームの幹事がそう言ってたから奢ってくれると思うねんけど、これから皆に言うからさ。」


やってしまった。。。
まだ奢ってもいないのに大声で「ご馳走さま」と言われ、
男子チームが戸惑っている。


あぁ私の大バカモノ!
なぜ先走ってしまったのだ!
これでは、まるで『奢ってもらうつもりで食べにだけ来た女』ではないか。


イヤ、、、そうかもしれない。
不本意ながら、今日の私は
『会話にはほぼ参加せず、一人でバクバクご飯をたいらげ、
「ご馳走さまでした!」と催促するかのように会計前にお礼を言い、
逃げるように帰っていった女』だ。


おぉぉ。
人生初のコンパだったのに、違う意味で強烈な印象を残してしまった。


「あの人、なんかヘンだったよね。怒ってたの?」
男子チームは二次会のカラオケボックスで
私の不可解な行動に首を傾げていたそうだ。


帰宅して熱を測ると、39.6度。
ほら。コンパなんて行くからこんな事になったんだ。
人間、慣れないことはするもんじゃないと骨身に沁みた夜であった。


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