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45歳、新たな夢へ

45歳にして、国家試験を受験をした。
受験なんて大学受験以来。かれこれ四半世紀ぶりである。

昨年の12月。私は突如、保育士の資格を取りたいと思った。自分の子育てに役立つことは勿論だが、美人塾の活動をもっと広げていきたかったからだ。
そのためには、取りたい国家資格が二つある。まず一つ目が、保育士の資格だった。

とはいえ、私の毎日は忙しい。昼ドラの主演をやっていた時より忙しいと思う。家事、育児、自分の仕事に加え、主人の仕事まで手伝っている私は、朝から晩までスケジュールがパンパン。そこで私は通信教育を選択し、毎日二時間、早起きをすることにした。


眠い目をこすりながら、テキストを読む。最初は『決めた以上、頑張らねば』と自分に鞭打ってテキストに向き合ったが、読んでみると、これがおもしろい。めちゃくちゃ楽しいのだ。中でも発達心理学が、最高におもしろかった。私は夢中になってテキストを読み、スポンジのように吸収した。
仕事が忙しくて、勉強できない日もあったが、移動の電車の中や収録の合間など、可能な限りテキストを読んだ。45歳の二宮金次郎である。


保育士試験は年に二回あり、最短で4月。12月から始めたので四ヶ月しかないが、そんなの関係ねぇ。はい、おっぱっぴー。負けず嫌いの私は、もちろんストレート合格するつもりだった。

毎日の忙しさであっという間に月日は流れ、気づけば四月。ありがたいことに新番組のレギュラーが決まり、美人塾の講演オファーが次々と入り、台本作りやら制作会議やら、目が回るほど忙しくなっていた。
えらいこっちゃ!
九教科のうち、まだ四教科手付かずだ!
ラスト二週間は家族にも協力してもらい、スタバで猛勉強する時間を作ってもらった。


こうして迎えた受験当日。
一次試験は、九教科を二日に渡って受験する。

この二日間で、全てが決まるのだ。
程よい緊張感。そして『久々の受験』というビッグイベントに、ワクワクして電車に乗り込んだ。

私は電車に揺られながら、高校受験を思い出していた。母は前夜にステーキを、当日のお弁当にはカツを入れてくれ、「テキにカツ!」と励ましてくれたなぁ。
自分が母となった今は、誰かにお弁当を作ってもらえるわけでもなく、励ましてもらえるわけでもなく、むしろ家族を起こさないように気遣いながら、自分で握ったおにぎりを持ってコソコソと家を出た。

そう思うと、親ほど自分を思ってくれる人はいない。本当にありがたいとしみじみ思った。私は、母がしてくれた縁起担ぎをしたくなり、試験会場へ向かう途中のパン屋でカツサンドを買った。
よし!この受験、カツサンドでカツぞ!


試験会場には、様々な人がいた。外国人もいれば、私よりはるか歳上の人もいる。外国人は、日本語を覚えて理解するだけでも大変なのに。みんな、すごいなぁ。夢に向かって頑張ってるんだなぁと感心した。


筆記試験は、粛々と進んだ。
保育士試験は、九科目のうち一つでも落とすとその科目をまた受験しなくてはいけない。
午前中、教室はガラガラだった。しかし午後の科目では、満席になっていた。つまり、その科目を落とした人が再受験にきたのだ。九科目はそれぞれ、満席もあればガラガラもあり、受験生の得手不得手がわかっておもしろかった。と同時に一発合格に力が入った。だって、また半年勉強するのなんて絶対イヤだもん。

受験番号と名前を確認し、集中して丁寧に問題を解いた。手応えは一科目だけ微妙ながらも、あとは完璧だった。

こうして二日間の試験は、あっという間に終わってしまった。
なんだか淋しいなぁ。
祭りが終わった淋しさと、ひとまず無事に終わった安堵感。
この四ヶ月は死にそうなほど忙しかったが、終わってみれば、あっけない。

私は毎日、神棚にお願いした。
待ちわびた結果が、ようやく届いた。
九教科全て合格!

やったー!
受かったー!

コツコツ努力が報われたのなんて、久しぶりだ!
神様!ありがとうございます!
いやぁ。嬉しいなぁ。
その夜は、ひとり乾杯をした。


二次試験は、実技である。『音楽』『造形』『言語』の中から二つを選択する。
私は当然、音楽と言語を選んだ。うっかり造形を選ぼうものなら、200%落ちるに決まっている。何を隠そう、私の絵は娘が泣くほど下手なのだ。「こんなの、バイキンマンじゃないー!」と泣きじゃくった日のことは、今でも覚えている。従って、絶対に造形を選んではいけない。

言っておくが、そのかわりピアノはうまいぞ!ピアノだけは誰にも負けない自信があり、実際ピアニストを目指した時期もあったのだ。

また職業柄、言語も一般の人よりは長けているはずだ。ギャランティを頂いて人前で話す仕事をしている立場ですから、受かって当然。むしろここで落ちるようなら、芸能の仕事なんて辞めてしまえという話である。

音楽と言語で勝負できることは、私にとって超ラッキー!ならば受かって当然。満点を取ってやる!


音楽の課題は、『どんぐりころころ』と『大型バスに乗って』の弾き歌いだった。
ショパン『木枯らしのエチュード』などを弾く私にとっては、ズッコケそうなほど簡単だ。しかし50点満点を取るため、スタジオを借りて練習した。やりすぎない程度にアレンジした伴奏を付け、園児が歌いやすいような可愛い曲に仕上げた。
しかしながら、この実技はピアノをやったことの無い人にとっては、大変だったと思う。当日は五十代の男性も見かけたが、たとえばその歳までピアノをやった事がないとすれば、両手それぞれが違う動きをしながら歌うなんて、至難の業だったろう。
実際、試験当日の待機室で色々な人の楽譜を見たが、それはそれは易しい楽譜だった。
『これなら余裕で満点取れるやん!』
私は意気揚々と受験部屋に入り、二曲を弾き歌いした。
完璧だ。我ながら、非の打ち所がない弾き歌いだった。
よっしゃ!まず弾き歌いは、満点決まり!


続いては、言語表現。
課題は四種類の童話から一つを選び、三分間で子供たちに話をするというものだ。何も見てはいけないし、道具を使ってもいけない。言葉の表現だけで勝負するのだ。

私は『三匹のこぶた』を選択した。
満点を取りたい!その一心で、私は面白くなるように台本を考えて書き、尺も2分53秒にまとめた。ここはプロの意地である。

教室に入ると奥に試験官が座り、その手前には『飛び出し坊や』のような子供のイラストが左右に置いてあった。つまりこの左右の飛び出し坊や範囲内に三歳児が十五人いるという設定である。この子供たちに向かって話をするのだ。
制限時間は三分。時間が余ってもタイマーが鳴るまで待たなければいけないし、逆に時間オーバーだと切られてしまう。

いざ!私は昼ドラの主演女優だ!
思いきり楽しませてさしあげましょうぞ!
六車奈々45歳、渾身の『三匹のこぶた』を披露した。四十路女優の熱演は、試験官をも笑わせた。よっしゃ!
主演女優賞ばりの『三匹のこぶた』が終わり、笑顔で「おーしーまい!」と言った直後、三分を知らせるタイマーが鳴った。
正直、これは奇跡だった。ここまで完璧に時間がピッタリになると思わなかったので、ただのラッキーだった。

もう、完璧すぎるやーん!
私は笑いが止まらなかった。
満点での合格間違いなし!
私はスキップしながら会場を後にした。


さぁ、満点か!?
結果よりも点数を知りたくて、通知を待ちわびた。

8月5日、一日千秋の思いで待った結果が届いた。
開いてみると、、、音楽が、まさかの43点。
あの弾き歌いの、あのクオリティで、一体何が足りなくて7点も引いたのだ?
私は、試験官に問いたい。
一体、何が足りなくてマイナス7点だったのか!
この43点は全く納得がいかず、今も不満である。

さて、もう一方の言語表現。
こちらは、満点をいただきましたー!
やったぁ!えへへへへ。
やっぱりねぇ〜。見る人が見れば、ちゃあんとわかっていただけるのよぉ〜。
試験官様、ありがとうございますぅ。


ということで、晴れて保育士になれた!
憧れの国家資格!バンザーイ!


こうして昨年12月から始まった私の受験戦争は、勝利に終わった。
家事、育児、自分の仕事、さらに主人の仕事まで手伝いながらの受験勉強は本当に大変だったけれど、同時にとても楽しかった。


さぁ!名称独占の国家資格『保育士』として動けるようになったのだ。
まず年内には、新たなプロジェクトを始動させよう!
ママと子供のためのプロジェクト。


きちんとした食事と正しい知識で、逞しい元気な子に成長できるように。
ママが、子育てを心から楽しいと思えるように。
世の中から、子供への虐待が無くなるように。


そんな思いを込めて、動き出すぞー!
世の中のお母さん、待っててね!


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