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起死回生

二十九歳の私は、結婚の夢も仕事の夢も失い、絶望の淵にいた。
ここまでの話は『六車奈々、会心の一撃!』の、
『変身 https://note.mu/nana_rokusha/n/n1ab6605ba071』
『仕事か結婚か、それが問題だhttps://note.mu/nana_rokusha/n/n589237c50768』
で記している。


もし心の傷が目に見えたとしたら、それはズタズタに切り裂かれ、手の施しようがないほど無残な状態だったろう。後にも先にも、これほどまでに辛い失恋は経験していない。
ご飯は喉を通らず、無気力に横たわるだけ。そんな自分を客観的に見て、心と体は繋がっているのだなぁと妙に感心したのを覚えている。


地獄の底にいた私を救ってくれたのは、母と妹だ。二人は何をいうわけでなく、毎晩私を外に連れ出した。ただ、歩くためにである。
実家から祇園まで歩くと三十分、往復で一時間。三人は取り留めのない話をしながら、ひたすら歩いた。


しかし、この『歩く』という行為は、絶大な効果を及ぼした。
歩くことは、一歩ずつでも前に踏み出すからだろうか?
それとも、適度な運動が精神の安定に作用したからだろうか?
いずれにせよ、私は少しずつ元気を取り戻した。


離れたからこそ、見えることもあるはずだ!
『逃した魚は大きかった』と思わせたい!
そして、もしも、もしも!
彼が後悔して謝ってきたら、、、?
その時は、どうしちゃおっかなぁ〜。
ウフフフフフ。
単純な私は、その時を想像してニヤケた。


よし!こんな所で燻ってるヒマはない!
もっともっとイイ女にならなくちゃ!
私は完全にパワーを取り戻した。


彼との結婚が決まっていたときはあれほど落ちまくったオーディションだったが、崖っぷちに立たされた今、私はかつてないほどの勢いで仕事を取ってきた。CM、ポスター、テレビ番組など、受けたオーディションはほぼ合格した。


「全てをなぎ倒す勢いで仕事を取ってくるなぁ!」
事務所の社長が舌を巻くほどだった。

私はテレビの仕事に力を入れた。
彼がミーハーでテレビっ子だったからである。自分にチャンスがありそうな番組を調べては、マネージャーに頼んでオーディションの問い合わせをしてもらった。


勢いは、留まる所を知らなかった。
テレビやラジオのレギュラー番組はどんどん増え、映画の主演も決まった。
あまりに忙しすぎて京都から通えなくなったため、大阪で一人暮らしも始めた。テレビやラジオに出演しない日は無いくらいの忙しさ。気づけば私は、ひと月に40本近くも仕事をしていた。

しかしどんなに仕事が充実しても、別れた彼が気になった。
私のことをテレビで見てくれているかな?
『惜しいことをした』と、ほんの少しでも思ってくれているかな?

そんなある日、彼が結婚したとの情報が入ってきた。
私と別れて、まだ一年ほどだ。
そうか。
別れる時には、もうお相手がいたのか。。。
私は五年待ったのに、今回はすぐ結婚したんだ。。。

ショックだった。
この気持ちは、仕事にぶつけるしかなかった。

私は毎日仕事をし、夜は飲みに行った。
遊んで贅沢するお金は十分に稼ぎ、気持ちはイケイケだった。やしきたかじんさんに毎晩のように飲みに連れて頂いたのも、ちょうどこの頃だ。
仕事して、飲みに行って。
仕事して、飲みに行って、、、。

しかし、そんな事は永遠には続かない。

残念な話だが、女性タレントの命は短い。
しかも関西には女性ローカルタレントが一つ上のステージに上がれる椅子がない。
自分が出演できるステージでほぼ出尽くした私は、飽和状態。
私のポジションは若い子に変わったり、番組そのものがリニューアルしたり、結果として仕事が減り始めた。

しかし、人生において無意味なことなど何一つ無いのだ。
仕事が激減したからこそ、私は東京へビッグチャンスを掴みに行けた。
もっというならば、あの時彼に上京を止められたからこそ、『昼ドラの主演』という最高の形で上京の夢を叶えられたのである。

ピンチはチャンス。
今のピンチは、未来のチャンスへと繋がっていく。
大切なのは、ピンチの時、どう動くかだ。

私の人生を大きく変えることとなった、ビッグチャンス。
この続きはぜひ、『六車奈々、会心の一撃!~人間万事塞翁が馬~https://note.mu/nana_rokusha/n/n432547a9c080』でご覧あれ。


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