見出し画像

ななのルーマニア シビウ日記 part.1 シビウへ

《人魚の瞳、海の青》の稽古真っ只中、全くパッキングをしていなかったことに気づく。焦って、3週間分の洋服やシャンプー、日焼け止めやサングラス、とにかくいりそうなものからいらなさそうなものまで大きなスーツケースに突っ込んで、成田エクスプレスに飛び乗った。ドーハを経由して、ルーマニアへ!父が初めて行った外国もルーマニアだったらしい。でも、ルーマニアと言っても目指す場所はブカレストじゃない。トランシルバニア地方にある小さな古都、シビウだ。

ドーハまで約11時間。隣に座っていた女性二人組(幼馴染歴50年で毎年旅行に一緒に行くらしい。ちなみに今回はイタリア)に何をしに行くのと聞かれ「ボランティアです」と答える。なんとなくボランティアという言葉は歯がゆかったが、他に言葉が見つからなかった。偉いわねぇ、おばさん達は遊んでばっかよ、と言われた。その後、2回出た機内食をどっちも断ったら、偉いわねぇ、おばさん達は食べてばっかよ、と言われた。もはや何が偉いのかよく分からなかった。

と言うのはどうでもいい前置きだが、オトペニ空港に着き他のボランティアスタッフと3時間ほどかけて合流。中国・イタリア・イラン。高校生から社会人まで、国籍も年齢も幅広い。大型バスに乗り込み山道に揺られること約5時間。気持ち酔いつつ、山山!(第63回岸田国士戯曲賞受賞作)と言い出す人たちの演劇魂に笑う。

山を超えると小さな街並みに入り、バスが止まる。まだ3時間かかると言われていたにも関わらず、1時間で到着したのだ。シビウです、と言われても誰もその言葉が信じられず、「え?」という戸惑いの空気が流れ面白かった。でも、間違いなくシビウだった。バスを降りると、すぐに目の前にホストファミリーのマリナがいた。事前に顔写真を交換していたから、お互いすぐに分かった。写真よりも幼い印象で年齢を聞くと15だと言う。隣には同い年の友人もいて、二泊一緒に泊まるという。(マリナの両親と弟が旅行中で不在のためだそう)初めてのホストファミリー体験。どきどきする。

ボランティアチームと別れ、3人でタクシーに乗り込む。車で走ること5分。大きなゲートの前にたどり着く。入ると庭にバスケットコートがあるほどの大きな敷地。家は石造りで、クリーム色が可愛い。この家だけじゃない。シビウの建物は全て、おとぎ話から出て来たかのように可愛い。可愛い、という言葉を乱用してしまうほどに可愛い。去年、ロンドンから足を伸ばして行ったバス(The Bath)を思い出す。古都にいるとなぜだか心底ときめいてしまう。

ドアを開けると目の前には階段。スリッパを出してくれた。ルーマニアでは靴は日本と同様玄関で脱ぐらしい。階段を上がると、綺麗なリビングルーム。ピアノ、種類豊富なレゴ、本棚、テレビ、黄土色のソファ、間接照明にシーリングファン。ダイニングテーブルには

パンに、フルーツやチーズの盛り合わせ。お腹はいっぱいだったけれど、折角なので頂いた。3人で席に座ると、なかなか会話が弾まずぎこちない空気が流れた。そういえば最近、一回り下の女の子と会話をする機会があまりなかった事に気づく。学校のこと、宗教のこと、言語のこと、食べ物のこと、おすすめの観光地などをざっと聞いてみる。驚いたのは、ルーマニアでは芸術教育がかなり進んでいること。15才の彼女たちでも、行きたければ芸術の学校へ行けるらしい。もちろん、日本にも芸術の専門学校はあるが、彼女たちの話しぶりからすると芸術の教育を受けるという事は、普通の教育を受ける事と同等のレベルの選択肢のようだった。他にも印象的だったのは、学校は8時に始まり大体13時か14時には終わるという事。夏休みも3ヶ月あるらしい。日本では16時か17時頃に終わるんだよ、と言うと日本人は何をそんなに勉強しているの?と聞かれた。答えられず。

これから3週間、使わせてもらうマリナの部屋。マリナは私がここにいる間、弟の部屋で寝るらしい。またこの言葉で申し訳ないが、可愛い。

可愛い!

この写真やポスターの雰囲気を見て、なぜかアンネ・フランクの部屋を思い出す。マリナも女優志望らしい。ルーマニア人の15才の女の子の部屋で生活する経験なんて生涯これで最初で最後だろう。棚にある小さな香水や、整頓されて置かれた文房具までじっくり見てしまう。机の前に貼られた《BORN TO EXPRESS, NOT TO IMPRESS》の切り抜きも印象深い。

折角の機会だから日記でもと思い書いているがどこまで続くかは分からない。パート1とあるが、もしかしたらパート1で終わるかもしれない。普段戯曲を書くときとは違う、飾らない言葉でルーマニアでの体験を書いていけたらと思う。またね!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?