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8、生活開始 -島旅日記ー

〈生活開始〉

 島にやってきて、数日あわただしく過ぎていった。
そして、その間、ずっと雨だった。
 しかも、レンタカーは返してしまい、大家さんから借りた自転車を使っていたので雨だとどこにもいけなかった。
 けれども、気持ちをふるいたたせ、この雨が上がったら、三線ならったりしよう!、パワースポットも行ってみよう。
 島にきて、一週間目のわたしの心をしめていたのは、楽しまなくちゃという焦りと、二ヶ月もつかなあ、ということだった。
 何にもない島で、どうやって楽しもうか。

 沖縄がわたしを幸せにしてくれると思ってすがっていた頃とは違い、何かが自分を幸せにしてくれるのではなく、これしてみたいとか、
「いっぱい楽しもう」とする自発的な姿勢がすごく大事だと痛感した。
 そして、旅でくるのと、生活することの違いは大きいということもわかった。
 旅だったら、ひと時のファンタジーのように楽しい部分だけを持ち寄って、思い出にすることに精が出せるけど、生活になってしまうと、何もかもリアルで、生臭い。
 島にきて、二週間は、めまぐるしく動き回る時計の針のような毎日だった。
 口に出せない淋しさや感情が沸くと、自分を落ち着かせようと一人自転車をこいで、見知らぬ土地目指して走ったりした。
 しかし、二週間を過ぎる頃、一人自転車を走らせていたら、畑をやっているおじいを見かけた。
そのまま通り過ぎようとしたら、
「お前は、ナイチャーか?!」
と大声でたずねてきた。ナイチャーとは沖縄県以外の人のことだ。
「そうです。」
自転車をとめて、応えると、
「だったら、ここで喋っていけ」
といわれ、それから一時間くらい話していた。
よく喋るおじいで、足元は裸足。
若い頃島を出て、ボリビアにいき、結婚し、女と遊びまくって、帰ってきて農業をしているといった。
「女はみんな俺にほれてしまうよ、あんたここで俺と話してたら、俺に惚れてしまってそっちのハウスでいいことしたくなっちゃうよ。」
とウィンクした。
 時々、ツッコミながら笑って聞いていたが、また来るねと、いうと、ナスとピーマンをくれた。
 帰り道、不思議と清々しく気持ちが軽かった。
 何故か、きっとこの島のああいうおじいは神様に近いのかもしれないと思った。
キビ畑の景色に慣れた頃、だんだん島にも慣れていった。


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