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社会人1年目の私から、未来の私へ。それは音楽とは全然関係ない仕事をしているお話。

前回の記事はこちら。

今回は、このお話の続き。アンサーソングにした。

社会人1年目のハタチの私から、今の私へ。



私は、毎日ライブハウスで働いている。休みは週2回あったら多いほうで嬉しいけど、だいだい週1で、帰りはいつも終電だった。

23時56分のJR東海道本線の岡崎行き。この1本前に東京まで行ってしまうムーンライトながらが走っていた。そんな夜行列車が走る時間に私はいつも帰っている。

地元の駅から実家までは、原付で通っていた。ライブハウスで働いているのも関わらず、家が遠いので打ち上げに参加することは少なかった。


ライブは打ち上げをするためにしているようなもんだ。


と大御所ミュージシャンが言っていた。けどそれはお酒を飲む理由をわざわざ作ってるんだと思う。お酒のためにライブをする。それも人生の選択として面白くてかっこいい。


ハタチになった私。社会人1年目になると、地元のバンドの人からも「今日打ち上げあるけど、ちょっと顔出さない?」と誘われることが増えるようになった。

「ちょっと顔出す」のちょっとは、乾杯だけでは終わらないことはハタチの私でもわかっている。30分ちょっとが1時間になり、終電はなくなり、朝5時までコースなんて、それはバンドマンにとって普通だった。(たぶん)

バンドマンではない私は、ただのライブハウスのスタッフで。打ち上げなんて、バンドマンは彼女をどうせ連れてくるんだろ!スタッフも行きたいヤツは、バンドマンと付き合いたいんだろ!という偏見をもっていた。

(それが偏見が真実だったのかはさておき)



「とりあえずビール」


と言えるようになるまで、何年かかるんだろう。

炭酸が苦手だった私は、コーラもジンジャーエールもメロンソーダも美味しいと思わない。美味しいといわれるシュワシュワが、私にとってはピリピリなのだ。

だから、梅酒ロックばかり飲んでいたハタチの私。甘くて飲みやすい梅酒は、私のお気に入りのお酒だった。ロックだとすぐなくなってしまうので、節約で水割り。


ビールが飲めないわけじゃない。

でも、ハタチの私にはまだまだ苦いのだ。

仕事の辛さだとか、忙しさだとか、トラブル対応だとか、まだまだ社会人になりたての私には経験が少なくて、ビールののどごしを味わえるほど、「仕事」というものを語ってはいけない気がする。

まだまだ、お気に入りの梅酒くらい甘いくせに、ぜんぜん仕事ができないくせに、自分は仕事が出来ると思いこんでいた。

自分の思い込みだけでは、仕事が出来ない。

思い込みの激しい私は好きになったら、とことん入れ込むタイプだということに気づいた。自分の好きなジャンルの音楽をしているバンドは、自分で担当になりたいと言う。

先輩が担当していたバンドも、いつか自分がやりたいなーってたくらんでいた。先輩が辞めてしまったときは、チャンスとすら思った。無事に担当になることができたけど、今思えば先輩の照明もよかったということに、そのときは気づけない。

バラードの照明が苦手で、リズミカルなドラム頭打ちの曲が好き。裏拍の曲が苦手で、サビ前にしっとりボーカル落ちサビがある曲がすき。

我ながら好き嫌いが激しい。

私と仲良くない先輩も、好き嫌いが激しかった。その人の好みは、ツアーバンドでイケメンがメンバーには絶対いて、王道J-POPを歩んできたようなバンド。

そういうバンドがライブに来たら、先輩の担当に必然的になる。

仕事ってこんなに「好き」を押し通していいんだっけ?

好きなことを仕事にするのと、好きなことを押し通すこと。私にはそれがイコールに思えなかった。先輩の好きなタイプのバンドによって、左右されるシフト。先輩の好きではないタイプのバンドの担当が私たち後輩の担当。

私だって好きなバンドの照明がしたいのに。

モヤモヤするだとか、理不尽だとか。そんなことばっかり考えていた。照明以外の先輩スタッフとは仲良くて、いっしょにランチに行って、私の愚痴ばかり聞いてもらっている。

結局、自分が好きなバンドの照明をするには、どうしたらいいんだろう。

あれ?ちょっと待って。

好きなバンドの照明がしたいだけなら、私の苦手な先輩と一緒じゃないか。先輩みたいには絶対になりたくないのに、矛盾していた。どうしても先輩みたいにはなりたくなかった。

私はあっさりと「好きなバンドの照明がしたい。」という目標を捨てる。

どんなバンドでも、どんな音楽でも、そのライブの世界観を表現できる照明がしたい。気持ちをそう切り替えてから、どんな照明でも楽しくなってきた。歌うたいがアコギ1本で歌う歌をノスタルジックに魅せることも、演歌の方の着物をきれいに魅せることも、アイドルのかわいい世界にすることも、ゴリゴリのビジュアル系でドギツイ濃い色であおることも。ぜんぶ楽しかった。




ハタチのころ、梅酒ロックばかり飲んでいた私。それから2年経つと、私に照明をしてほしいというバンドがあらわれた。

目指すはCoccoで、ボーカル以外に明るくしなくていい。暗転もダークブルーをつけなくていい、ほんとうの真っ暗でいい。灯りは最小限で、バックバンドなんか見えなくたっていい、とにかく「歌」を聴いてほしい。

独特の世界を創り出すこのバンドの注文は、通常の照明をやるより、断然多かった。注文が多すぎて、個別に打ち合わせをして、ゲネプロをした。ビデオを録っていっしょに確認して、フィードバックを受けて、次のライブはこうしてほしいと言われる。

正直ここまでやる必要はないんだけど、私はやりたかった。

そのこだわりの世界に、少しだけ足を踏み込んだら、踏み込みすぎて沼に入ってしまった。

この世界観をつくるには、照明が必要なのだ。そう思っていた。



「お客さんからのアンケートに照明かっこよかった」って書いてあったよ!


このバンドの照明担当になって半年が過ぎたころ、バンドメンバーから言われた。正直に言うと、うれしかった。うれしかったけど、それではダメだと思った。

「ライブがかっこよかった」ではなく、「照明がかっこよかった」になっているからだ。この世界観のライブを創り出しているのは、バンドで、私の照明ではない。照明が目立ってしまったらいけないのだ。それよりも勝る音楽を届けなくてはいけない。

ライブが最高なのは当たり前で、その最高を創り出す手伝いをしているのが照明だった。照明がライブに勝っちゃいけない。これってよくないなと考えたとき。そのバンドはあっけなく解散すると言った。


私の役目はおわった。

解散ライブの打ち上げでは、「とりあえずビール、生中で」といつの間にか言えるようになった。

自分の仕事をきちんとしたあとの、一杯目のビール。

このビールがいちばん美味しい。

私はこのときのビールより美味しいビールに、なかなか出会えないでいる。



ビールが美味しいことを知った私は、35歳になった。音楽ともライブともまったく関係のない仕事をしている。よく転職をしていて、久しぶりに会う友達には「え、今何してるの?」と確認されるのは当たり前。

そのたびに、「今スタバで働いてる」「今リゾバしてる」「今、派遣でOLしてる」と言ってるんだけど、どんな仕事をしていても、私は私で。

ビールを飲んでも、飲まなくても。シラフでも酔っ払っても私。

いろんな人に出会えて、いろんな話をできる空間がある。仕事を通して出会った人も、ブログを通して出会った人も。それぞれの空間が楽しいのだ。

だから、社会人1年目のハタチの私へ。

未来の私は、楽しく好き勝手に過ごしている。とりあえず生きてるから、好きなようにやったらいい。楽しそうだなって思った選択で間違いない。ハタチの私の住んでいるところは愛知だけど、35歳の私は愛知には住んでいないし、いろんなところに住むよ。まだ終の住処は見つかっていないけど、どこに行っても楽しい気がするから、そのまま突き進め。

私がいちばん私を応援しているから。






ナナメドリです。ブログを書いてる人です。支援していただけたら、たくさん文章を書くことに使わせていただきます。