八潮七瀬

蔦の絡んだ洋館に住んでそうと言われますが、趣味はお茶ですあしからず🍵

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最近の記事

書くほどのことではないかもしれないけれど。

彼と一緒のベッドで好き勝手にスマホを見ていたり本を読んでいたりする時間が好き。 私は就寝前のヨガを行なったり、彼はオークションサイトで車の部品を眺めていたりして、 時折「この部品どう?」って訪ねてきたり、私と一緒にヨガを行なってみたりする。 私は私で、ヨガを終えた後に彼の脇の下に潜り込んで彼の体温を感じながら目を閉じて眠りに落ちるのが好き。 昨夜、そんな時間に彼が 「キャンプってどう思う?」と訊いてきた。 私は 「トイレどうするんだろうなぁって思う」と答えた。 「ってことはそ

    • 結婚生活。

      昨年の暮れにひっそりと結婚を致し、さりげなく居を海辺に移して早一ヶ月半。愛の綱引きが言葉を生み出し、月の満ち欠けが愛を増幅させると思っていたから、新婚生活の中で生まれる言葉は夫に伝えることはあっても第三者に公開するつもりはなかった。 けれど、日に日に夫が好きになる。だから、その気持の発露はやはり行うことになる。 預けていた楽器を引き取りに、夫と楽器工房へ行った。 いつもの如く私と工房主が楽器の状態や調整の話で盛り上がっている間、彼は口を挟まずに待っていてくれた。 港町の奥ま

      • 幸せになるには

        私「○○さん(母)と離れて暮らすと色々不便だよね!イッセイミヤケ借りれないし」 母「ほかに不便なことないの?」 私「なに?」 母「私の資料もすぐに出てこないし、CDも借りれないんだよ!」 私「不便だー!!」 多分もっと根本的なところ忘れてるのですが、そんな母子なのです。 今までにも何度も一人暮らしのタイミングはありました。 海外で暮らしていたこともあるし、それならそれで良い距離感を見つけられた気がします。 ただ、私が家を出ていく すなわち独立する ということは、両者に大き

        • 日記

          バスの中でスマホを見ていたら、その目の端に動くものがいました。 カバンにしがみつくてんとう虫でした。彼は一生懸命につるつるした私のカバンの斜面を登っています。そっと彼を立ち去らせようと指先で進路を変えようとするのですが、彼は頑なにカバンにしがみつきます。私は諦め、スマホを見るのを再開しました。 駅前の郵便局に寄り、遅れてきた一本前の電車に急いで乗り、息をつきカバンからスマホを取り出します。まだカバンにはてんとう虫がくっついています。私が目線を下ろす、その先に彼は静かにいるの

        書くほどのことではないかもしれないけれど。

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        • 世界放埓日記
          54本
        • 癒されたくないクラシック
          1本
        • 少女A伝
          41本

        記事

          昔の自分へ

          新しい生活に向けて、荷物を少しずつ整理していたら、貴方との思い出を詰め込んだおっきな箱を開いてしまい、思わず時間を忘れ見入ってしまいました。 貴方との恋を成就させたくて中尊寺で買った縁結びのお守りは二つセットでしたが、当時の私は純粋無垢で高慢無知、それを想い人と共に持つ風習を知らずにひとりで二つ大切に持ち続けておりました。 恋に悩み泣いていた私に「これ、ご利益あるって評判の縁結びのお守りだよ」と友人が手渡してくれたお守りは、都内の弁天様のお守りで、当時の私はこんな遠いところ

          昔の自分へ

          東京盆踊り

          生鮮食品売り場のように冷え切った銀色の乗り物の中に入り込むと、一斉に人の目がこちらを向いたので、私は思わず身をすくめました。 知り合いだろうかと辺りを見回しても、そこには誰も見知った顔がないのです。そもそも人が一人もおらぬのです。 不躾な視線を一方的に感じる不愉快さに耐えかね車内をぐるりと睨め回すと、至る所からこちらに視線を寄越す顔の主は中吊り広告だということがわかりました。 一方的な目線に晒され責められているうちに、電車はゆっくりと周回運動を始めます。 発車時の振動によろめ

          東京盆踊り

          蜃気楼の恋人

          砂漠に吹く風は、日没と共に柔らかく変化する。 夕暮れに青白く浮かび上がるモスクは、あたかもその身に太陽の熱を溜めていないかのように白く輝いていた。 かといって、冷たい印象を受けないのは、優美な曲線と照明の加減なのだろう。 蜃気楼の残滓から生まれいずる確固たる楼閣は、砂を孕みちりちりとした風を伴って、触れたら和三盆のように崩れてしまいそうに繊細だった。 唐草模様の刻まれた天井を見上げながら、花模様に埋め込まれた石の上に足を滑らすと、瞬く間に蹠の熱を石が吸い取る。 なめらかな石肌

          蜃気楼の恋人

          潮騒の恋人

          男は海が七つあることを知らなかった。それなのにこれ程に海に愛されている。 「君の故郷のトーキョーには、海はあるのかい」と彼は尋ねた。 目の前には、彼の生まれ育った小さな街をずっと見守り続けてきた海が、日の名残りを受けて僅かに朱く染まっている。大航海時代、貿易港として栄えた街だ。旧市街の赤みのかかった煉瓦で作られた古い建物は、海に面して所狭しとひしめき合っている。 「あるわよ」と答えながら、東京の塩辛い海と、そこに張り出すように乱立したビル群を思い出す。彼は満足そうに笑った。

          潮騒の恋人

          人もペンギンも

          強風が横から吹き付け、銀色の車体を大きく揺らしました。窓の外を覗こうにも背後の窓の向こうに広がるのは暗い闇。その向こう側に目を凝らそうとしても、叩きつけるような雨の影に視界は遮られるばかりで、外の様子を窺い知る手段は絶たれております。 気詰まりな沈黙が湿度の高い車内を底から満たしている一方で、頭上に吊るされた広告の中ではモデルが「全身脱毛今なら月額9800円」などと微笑みながら真っ白な蛍光灯によって照らされているのでした。 「もう緊急停止してから10分近く経つんじゃない」

          人もペンギンも

          脚と頭は使いよう

          月に二度ほどふらっと恋人のもとに訪う私を、彼はどのように感じているのでしょうか。 知り合ってから干支は一周しました。付き合ってからワールドカップは2回開催されました。けれど、私達は一向に一緒に暮らそうとしませんし、結婚するという話題も全く会話に登らないのです。 深夜にテレビを点けて寝そべりながらサッカー観戦をする恋人に 「ボールを足で蹴るなんてお行儀が悪い」 と言ったら、彼は 「ヒールの高い靴を履いてタクシーに乗り込む君よりは、余程有益に脚を使っている」 と答えました。 な

          脚と頭は使いよう

          露草忌

          私は父親の愛し方を知らない。 その事実は日常の背後に薄い靄を被せるように存在していて、それに気がつく度に心に陰りが生まれる。 幼い私の誕生日に、彼は手作りのクマのぬいぐるみを作ってくれた。 リバティ模様のそのクマを私はたいそう可愛がっていた。やがて訪れた思春期の真夜中、父と母が口論をしているのを壁越しに感じた時、跳ね上がりそうになる心臓の上にそのクマを載せて眠りに落ちた。 翌日、母は口論の理由を「あなたももう15だし、話すわ」と言って話しはじめた。 彼女が語り始めたのは私が

          夜空に星座を描くように

          これは私の知識がいつもどのように広がっていくのか、その過程を示す指標となる文章です。 私は常日頃から進むべき道、選び取る事柄に迷った時、過去の自分を思い浮かべ、少女だった頃の彼女に恥じない生き方を選び取ってきました。 それを聞いた人は「自我が強いね」とか「自分が好きなのね」と言います。 当然です。私は過去の自分の集積です。彼女たちが積み重ねてきたものの上に私は立っていて、そして未来の私のために私も積み重ねていかなくてはならないのです。 もしも私に子供が出来て、その子に「何故勉

          夜空に星座を描くように

          方舟を見送る

          旧約聖書のノアは、大洪水に襲われ方舟に逃げ込んだ際、自らの貧しい生き方を儚むことはしなかったのでしょうか。血の結束に囚われ種の存続ばかりを憂うだけで、心を許せる友人を得られなかった己を恥じたりしたのでしょうか。 洪水のあとに共に生きたいと思える友人と出会えなかった、己の哀れさを。 「僕は君のことがとても好きだ」 電話の向こう側は静まり返っていて、それが一層あなたの今いる空間を雄弁に物語っているように感じました。 新興国に仕事の研修で滞在中のあなたは、夕食を終え寝るまでの時間

          方舟を見送る

          ロールケーキを横に切る

          電車にて 手話を使って会話をしているご夫婦(だと思われる)に出会った。 思いを乗せて指先は細やかに言葉を紡いでいく。 自分の気持ちが相手に伝わったか確かめる表情 相手の気持ちが自分に伝わったことを示す表情 それらはどれも相手への思いやりに縁取られきらきらしていて、 あまりにも綺麗で清潔で、思わず見とれてしまった。 メールでのやりとり テンポのいい会話 ノリつっこみによる他愛もない遊び。 それらとは掛け離れた世界であの2人は相手を思いやりながら生きているのだろう。 草原に生き

          ロールケーキを横に切る

          聖俗二元論跳躍

          かつて日本の伝統的な世界観を「ハレとケ(非日常と日常)」と名付けた学者がおりましたが、音楽家なんてものは常にハレの状態にいるか、もしくはそれに向けて猪突猛進、ケなんて蹴散らかして生きているものですから、ハレの状態で興奮しても、それが制御不能の状態になって外に溢れ出るなんてことはめったにないのです。 「こんにちは、君は○○の娘さんかな」 そう声をかけてきたのは全く知らない初老の男性でしたが、父の名前を音読みして呼んだことで、きっと父と近しい友人だったのだろうと推察できました。

          聖俗二元論跳躍

          石板掘れない私の哀しさ

          11年前にもらったメールを何度も読み返し、携帯端末を買い換える度に新たに保存しクラウドにも保存していると言ったら、あなたは笑ったけれど、私にとっては非常に大切な宝物なので笑わないでください。 それでも私が死んでしまったら、あなたから貰った言葉は全て銀色の端末に閉じ込められたまま誰の心も震わせること無く永遠に沈黙の湖に沈むのだと思うと、私は苦しくなってしまう。 ああ、石板を掘る技術があったなら! 私はあなたの言葉を世界に刻みつけるために残りの人生を過ごしていることでしょう。それ

          石板掘れない私の哀しさ