日記

バスの中でスマホを見ていたら、その目の端に動くものがいました。
カバンにしがみつくてんとう虫でした。彼は一生懸命につるつるした私のカバンの斜面を登っています。そっと彼を立ち去らせようと指先で進路を変えようとするのですが、彼は頑なにカバンにしがみつきます。私は諦め、スマホを見るのを再開しました。

駅前の郵便局に寄り、遅れてきた一本前の電車に急いで乗り、息をつきカバンからスマホを取り出します。まだカバンにはてんとう虫がくっついています。私が目線を下ろす、その先に彼は静かにいるのです。

ターミナル駅で、大勢の乗客が乗ってきました。私の目の前には女性が立っています。カバンを揺らすと、てんとう虫はそっと羽ばたき、彼女のスカートのひだに落っこちました。女性は、次の駅で降りていきました。ドアの外を眺めていると、ホームに陽の光が差し込んでいました。

仕事場に着くと、私はてんとう虫のことを忘れました。ポケットに入れたスマホの感触が太ももに感じられます。

先程、北海道で医者をしている親友と連絡が取れました。
私の安否を問うメッセージに一言「ありがとう!」とだけ。
良かったです。ほっとしました。でも大変なのはこれからです。

さっきのてんとう虫は元気でしょうか。潤んだ視界の隅でもぞもぞ動いていた彼のこと、きっといつまでも覚えている気がするのです。

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