見つめる兄ちゃん

クルマを運転して自宅に帰る途中、曲がり角で歩行者の兄ちゃんと目が合った。
その兄ちゃんは栗色でふさふさした髪で、長身でがっしりした体型だった。
メガネの奥の目は、こころなしかこちらに笑いかけているようだった。
「どこかで会ったことがあるぞ」
そんな気がした。

ふと思い出した。
今朝洗濯物を干しているとき、雨上りの洗濯竿の上にちょこんと座っていた蛙を。
兄ちゃんの眼はまるで蛙だった。

「気のせいだ」
そう自分に言い聞かせてアクセルを踏み込んだ瞬間、脳内に直接声がささやいた。
「醜い蛙は夜が明けると王子になっていた、という童話を知ってるかい」

「嘘だ、嘘だ」
私はその声を振り切るようにアクセルを踏み続けた。

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