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1年半の時を経て


今月から、部署が変わった。


勤務地は変わっていないし、フロアも元いた部署

と全く変わらないのだけど、なんだかものすごく

遠くに来てしまったような気がしている。

業務の内容自体も半分は同じだし、20歩くらい

歩けば前の部署のデスクにたどり着ける。

なんなら席が変わっただけ、と言っても過言では

ないくらい、「異動」という言葉のインパクト

ほど、自分の身に変化はないはずだった。

けれど、まだ2日しか経っていないのに、

なんだかとても心がそわそわする。

簡単に言うと、今、とても寂しさを感じている。

初めて配属されて、1年半過ごしてきた部署を

離れるのだから、寂しいのはまあ当たり前のこと

なんじゃない、と言われるかもしれない。

けれど、わたし自身は自分のこの心境に、

実は少し戸惑っている。


わたしは元から帰属意識があまりなかった。

というより、安心できる環境に対してしか、

帰属意識を持てないタイプだった。

社会人になって初めて配属された部署は、

今までの人生であまり関わったことがない、

ザ・体育会系、男性ばかりの部署だった。

ただでさえ歳上の人に自分の素を出すこと、

気に入られることに苦手意識を持っていた

わたしは、「この環境でやって行けるの

かなあ…」と不安に苛まれた。

そして、その不安は見事に的中した。

なかなか自分の素を出せず、それゆえ正しく理解

されず、ぶつかる必要がないところでぶつかって

しまい、小さなところでストレスを感じる日々。

人間関係でここまでうまくいかなかったことは

今まであまりなかったから、こんなにも空回り

している自分を一歩下がって見たとき、

自分の「うまくできなさ」に何度も辟易した。

何より、自分が分かって欲しい、と思う人たちに

理解されず、馴染みたい、と思う環境に

馴染めないことが、一番苦しかった。

今となっては笑ってしまうくらいに、

全ての行動や言動が空回りして、

悪い方向にどんどん進んでいった。


2年目になり、少しずつ仕事で「楽しい」と

思える瞬間が増え、周りの先輩からも「最近

いい感じだね」と言われることが多くなった。

1年目、あまりにも暗くて長いトンネルの中を

ぐるぐると彷徨っていたことが自分でも

わかるくらい、その頃には自分の状況を客観的に

見られるようになっていて、ようやくその闇から

抜け出せた感覚があった。

視界がぱっとひらけた瞬間だった。

そうして気がつくと、1年目あれだけ「素を出す」

「自己開示する」ということに対して苦手意識を

持ち、できない自分に焦りや苛立ちを感じていた

ことが嘘のように、自分を出すことが

「意識してやること」ではなくなっていた。

たぶん、仕事で少しずつ成功体験が増え、

周りからも少しずつ認めてもらえるように

なり、ようやく安心して自分を出せるように

なったんだろうな、と今では思う。

でもそんなこと意識すらせずに、もうその頃の

わたしは、自然体で過ごせるようになっていた。


話は少し戻るけれど、ザ・体育会系の前の部署は

上下関係はしっかりしていたし、フィードバック

はたぶん他の部署と比べたら厳し目だったし、

会話のスピードがものすごく速い(その上、高度な

笑いのレベルが求められる)し、仕事でも飲み会

でも、常に全力を注ぐような人が多かった。

わたしが今まで、24年間過ごしてきた環境とは

全くかけ離れていて、はじめはどうしたら

いいのか戸惑うばかりだった。

あまりにも違いすぎる環境に、自分の価値や

立ち位置を見出せず、自分はここにいていいの

かな、と思うことも多々あった。

部署の雰囲気に合っていないんじゃないか、

そんな考えも何度も過ぎった。


けれど、新しい部署に異動してみて、

ミーティングや飲み会に参加して、

あれ、と思う自分がいた。

なぜか少し、物足りなさを感じる自分が

そこにいたのだ。

穏やかに、ゆるやかに進むミーティング。

会話のスピードや笑いどころを求められない

飲み会。(上司への絡み方も、前の部署とは全く

違い、フラットすぎて驚いた。)

女性が多いから、若手が多いから、など色々と

理由はあるとは思うけれど、なんだか、

とても拍子抜けしてしまった。

あんなに厳しいフィードバックが辛いと思って

いたのに、それが全くないと、むしろ

このままで大丈夫かな、と不安になった。

あんなに飲み会に行く腰が重かったのに、

あのスピード感と熱気のある空気が恋しかった。

ないものねだり、失ってから大切さに気づく、

など色々と思い当たることはあるけれど、

少なくとも、1年半過ごした部署が、自分にとって

大切な場所になっていることだけは確かだった。


人は環境の変化に適応する生き物だと思うし、

これからは今の部署の文化や風土に、

少しずつ慣れてゆくのだと思う。

けれど、社会人になって一番最初に過ごした

場所、育った環境は、自分が思っている以上に

大きな影響を与えているんだろうな、と感じる。

どんな環境がいい、悪いというのは一概には

言えないし、最終的には自分の性格や価値観に

沿って、自分が決めることだと思う。

ただ、それは「そこにいる時」には、

もしかしたら正確にはわからないのかも

しれないな、 と今回の異動を経て思った。

少なくともわたしは、環境が変わってみて、

前の部署がこんなにも好きだったことに

気づいたし、意外と合っていたのかもしれない

な、とも思っている。

(長く時間を過ごすうちにその環境に慣れて

しまって、感覚の照準がそこに合って

しまっただけかもしれないけれど…)


でも、それに気づくことができただけでも、

今回の異動はいい機会だったのかなと思う。

やっぱり寂しいけれど、だからこそ、

新しい環境でも、好きだった部署に、上司に、

誇れるような自分でありたいなと思う。

こんなありふれた前向きな感想を抱いて、

しかも心なしか背筋が伸びているような

今の自分は、いつもの自分じゃないみたいで

なんだか少し照れくさいけれど。


正直社会人になって、たかが部署異動で

こんなに感傷的になるなんて思わなかったし、

後から振り返って読んだら恥ずかしくなりそう

だけれど、そんな社会人生活も、自分らしくて

悪くないのかもしれないなあ、と思っている。

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