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勝手に1日1推し 140日目 「スリーピングデッド」

「スリーピングデッド」(上・下)朝田ねむい     漫画

真面目で爽やかと同僚や生徒から人気の高校教諭・佐田は、
ある日、事件に巻き込まれ命を落とすが、
科学者・間宮の手によってゾンビとして生き返る。
間宮は科学者として実験成功の名誉を懸け、
佐田はたった一人自分の生存を知る相手として
共依存のような同居生活をスタートするが……。

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何から語るべきか迷っちゃう、スケールが大きすぎて。まるで映画のようでした。
私が映画のような作品だなって思うのは、主にコマの構図やカット、視点などの視覚的な構成でそう感じる場合と、ストーリーテリングの上手さというか、何層にも重なる物語の層の厚さと言うか、奥行きが感じられる構造の上手さでそう感じる場合があって、本作は後者だなって思います。

ホラーであり、ミステリでありながら、人間ドラマでもあり、もちろんラブストーリーでもあるから、読み進めるうちに印象が全然変わってくるし、抱く感情のふり幅も大きくて忙しかったです。
BLでしょ?どうしたら恋愛に発展するの?ってはなはだ疑問だったけど、そんなこと杞憂に終わりました・・・。涙ですよ、最終的に。親愛寄りのBig Loveです。

一読後に再読すると、そこかしこに伏線というか、小さいヒントが隠されていて、特に間宮の言動の発露については、初見の時に思っていたものとは全く印象を異にしたりするもので、つくづく細かな演出に感心してしまいます。主題が細部に宿っていて、多くを語らずとも、全てがラストに繋がるべくして描かれていた物語だなぁってなるんです。何度読み返しても、新たな発見があります!
ラストシーンもいいです!ドラマチックで、これまで描かれてきた間宮の人物像から導き出された完璧なエンディング!!影響し合った2人の結末。構図も素晴らしく、最後の最後まで映画を見ているようでした。至福!!!

朝田ねむい先生の作品って、人物造形が本当に素晴らしいんだよなあ。
設定がどうであっても、いくら突飛なフィクションであっても、登場人物にリアリティがあるから、状況に引きずられないで物語に没頭出来るところがとっても魅力的なんですよ。
本作の佐田にしても、ゾンビにされたっていうのに、何だかいい人過ぎない?とか思うんだけれども、明かされていく過去や生活の様子から元々の心根と言うか気質が善良で温厚な人であって、ずっとその部分が変わっていないだけなわけ。だから、ゾンビ化後の言動にも納得出来るし、佐田は「いい人」じゃなくて「そういう人」なんだって思えるんだよね。もちろん、間宮の方も同様で、エキセントリックでヤバいけど「そういう人」なのよ、ずっと。本作だけじゃなくって、人物造形がしっかりしているところが更にストーリーに深みを与えていると思うので、先生のとにかく作品が大好きです。

上巻序盤は、ゾンビの生態や佐田と間宮のゾンビ×人間の共同生活について、佐田が殺されてゾンビとなったほんの数日を綴っています。グロくて、ホラーチックで、正にマッドサイエンティストな間宮の言動の倫理観の欠如には、ゾっとしつつ、ホント、超現実主義者でブッ飛んでる間宮(人間)とモラルを備えた佐田(ゾンビ)とのやり取りがとても興味深いです。

ゾンビの状態を保つためには死体が必要なので、必然的に殺人行為をしなけらばならないのですが、そこでのやり取りが興味深いんです。だんだん善悪の境界がぼやけてきて、「ん?」ってなってきちゃうの。殺人行為の善悪、対象を選ぶ善悪、各工程で直面するモラルの壁に怯んじゃう。条件次第ではいかようにも考えられ得るんだよなって、人や社会の持つ多面性みたいなものが浮き彫りになっています。この善悪(モラル)に対する意見の相違についての対話が都度繰り広げられるのですが、その内容は哲学的であるとも言え、とても読み応えがあります。

その後、徐々にそれぞれの過去が明かされて、それに伴って、なぜ佐田がゾンビにされたのか?や、間宮の復讐という目的が明かされていきます。
2人は過去に何かしらあったんだろうな?って、最初からうすうす気づいてはいたんですが、やっぱり予想通り何かありました。でもそれは、予想外な出来事でした。いや、違うな。予想していたことの斜め上の出来事だったっていう感じかな。ロマンチックでも劇的でもない、ありふれた薄い関わり合いがあったのです。
こういう予想の斜め上感のあるエピソード、そこを描くところに朝田先生のセンスが光るなって思います。実際、「こんなことくらいで?」っていう相手の言動で、気になる存在になったり、憧れの対象になったりするものでしょ?って言う、最もなリアリズム・・・。
過去の全てを語らない間宮とあえて聞かない佐田もいいんだよなあ。

悪性とまではいかないけど、難ありな間宮と基本、善性な佐田、正反対な2人が落としどころを探し合うのもいいなって思うんですよ。歩み寄りの姿勢こそ人間の関係性の第一歩だって感じるんですよ、ほんと。
だから一緒にいるにつれ、それぞれの人間性や性格が分かり始め、当然、恋に発展してもおかしくない!!んだけれども、その発端が殺人を巡る対話や共同作業に起因していると思うと、また倒錯的で狂ってていいなあって思うの!!Yabai!素敵!
そして、そこがこの物語をBLたらしめていると思うと、斜め上過ぎて、ホント狂ってて頼もしくなるのよ!間宮の若禿げっぷりも頼もし過ぎる!!どんどん可愛くなる若禿げ!ふわふわの髪、撫でたい!
もう、全てが特別で独創的で、完璧!!
今後のBLも安泰じゃあ!!ってなる!

ハァハァハァ、興奮してしまいました。
一息つきます・・・
さて、下巻後半は、結末に向かって、2人は関係を深めたにも関わらず、せっかく積み上がったその関係性を脅かす事件が乱発します。この後半部分も疾走感があって最高なんだよな。そして、完璧なるエンディングを迎える訳ですが、もはや、クライマックスでは脳内で「G線上のアリア」が流れてました・・・。嗚呼、本当に映画みたい(←しつこい)。お話を彩る音楽さえも感じます・・・。

漫画好き、のみならず、映画好きの方にも是非お勧めしたいご本です!
BLはちょっと・・・とお思いの方にお一つ有益な情報が。

藤本タツキ先生も本作がお好きなんですって!
分かる分かる!
読めばきっと納得しちゃいますよ。
「チェンソーマン」(←以外未読です・・・)に通ずるものがあるもん!!
内容だけでなく、スケール感とか全てを描かないところとかが。
藤本先生って映画も大好きなんですよね?!
完結巻(1部の)を読んだ時も、本作同様、全てがラストに繋がるべくして描かれていた物語だなぁって感じたのを思い出しました。

戻って、最後にもう一つ。絵について。
いわゆる綺麗系じゃない(褒めています)無骨な作画がいいんですよー。この絵がまた、作品に味と色を添えていているんだよなぁ。うっとり。
2022年を締めくくるに相応しい名作!猛烈に一読をお勧めします!

ということで、推します。

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